伯爵家に仕えるメイドですが、不当に給料を減らされたので、辞職しようと思います。ついでに、ご令嬢の浮気を、婚約者に密告しておきますね。

冬吹せいら

文字の大きさ
9 / 12

地獄の言い争い

しおりを挟む
 アンリカが、少しづつ、ハーリスとの関係性を深めていたころ。

 エイリャーン家は、爵位を没収され、多額の借金を抱えることとなっていた。

 ビアールは、強いストレスからくる自立神経の不調によって、倒れてしまい、ベッドから起き上がることができない。

 そんな中……。またしても、醜い争いが、エイリャーン家の一室で、繰り広げられていた。

「あなたは娼婦になりなさい!」
「お母様が娼婦になるのです!」

 貴族の会話とは思えない、酷い内容である。
 とはいえ、爵位を没収され、借金を抱えている以上、もはや、没落貴族とすら言えない状況ではあるが。

「良い? 娼婦というのは、若さが一番重要視されるの! あなたこそ、娼婦にふさわしいわ!」
「いいえ! お母様のように、自分の欲を発散するべくして、浮気を繰り返すような女こそ、娼婦がふさわしいはずですわよ!」
「あなたよ!」
「お母様です!」
「あ、あの。お二人とも。あと一時間で、立ち退きなのですが……」
「「メイドは黙ってなさい!」」
「は、はいぃい……」

 アンリカがいなくなり、次のメイド長となるはずだった、ミューシーは、すでに隣国の伯爵家で、働くことが決まっていた。
 せめて、雇用期間だけでも、職務を全うしようと、わざわざ残ってくれているのに、この仕打ちである。
 呆れたように、ミューシーは、去ってしまった。

 なので、この醜い争いは……。
 立ち退きを宣告する役所の人間が訪れるまで、続くのだろう。

「ミリス。あなたは、体だけは立派な女よ。娼婦になれば、すぐに借金を完済できるほど、稼ぐことができるようになるはずだわ」
「そんなことはございません。令嬢よりも、伯爵家の奥様の方が、きっとネームバリューは強いはずですわ」
「嫌よ。そんなものに惹かれて、指名するような男は」
「それを言うなら、私だってそうです! 未だ経験も無いのに!」
「そうじゃない! あなた、処女なのだから、付加価値が増すわよ! もう絶対あなたがいいわ! さっさと娼婦の館に行きなさい!」
「実の娘に、そんなことを言って、恥ずかしくないのですか!?」
「あなたこそ! 実の母が、娼婦の館で働くことを、許容できるっていうの!?」

 聞くに堪えない、酷い会話。
 なぜ、頭を下げ、一からやり直すという発想が、彼女たちには、無いのだろうか。
 注意してくれるような、執事やメイドは、とっくにこの家を離れている。
 
「……二人とも、何を騒いでいるんだい?」

 ビアールが、数日ぶりに、ベッドから這い出てきた。
 二人の声が大きすぎて、我慢ならなかったのだろう。

「ちょうどいいところに来たわ。ねぇビアール。私よりも、ミリスが娼婦になるべきよね?」
「……え?」
「お父様! なんとか言ってください! 絶対に、お母様が、娼婦になるべきだと、私は思いますわ!」
「……」

 ビアールは、会話の内容にショックを受け、倒れてしまった。

 二人は、そんなビアールを気にすることも無く、罵り合いを再開。

 ……結果、立ち退きを言い渡すために、やってきた役所の人間が、無理矢理彼女たちを引き剥がすまで、無意味な言い争いは、続いたそうだ。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました

er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

処理中です...