伯爵家に仕えるメイドですが、不当に給料を減らされたので、辞職しようと思います。ついでに、ご令嬢の浮気を、婚約者に密告しておきますね。

冬吹せいら

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夫婦に戻る時

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 元々、メイドとして、かなり優秀だったアンリカは、ハーリスの助手となってからも、その能力を存分に活かすこととなった。

 手際よく、状況を分析し、研究員に報告。
 また、書類をまとめることも得意で、研究は滞りなく進んで行った。

 
 そして……。二年が経過したころ。

 ハーリスは、人類史に名を残すような研究結果を、示すことに成功したのだ。

「おめでとうハーリス。我が学園の卒業生であることを、誇りに思うよ」
「ありがとうございます。先生」
「ははっ。君に先生と呼ばれるのは、なんだか違和感があるな」
「そんなことありません。……間違いなく、自分にとっての恩師は、あなたですよ」
「……そう言ってくれると、嬉しいのだが」

 初老の男性は、控えめに笑った。

 王都での祝福会などを終え、ハーリスの研究チームは、母校である学園を訪れている。

 生徒たちに質問攻めされるハーリスを見て、アンリカは、とても誇らしかった。
 
 ◇

「ふぅ……。久々の我が家だ……」

 二人が結婚した際、ピジュ村に、新しく建てた家。
 ここへ戻ってくるのは、実に二週間ぶりだった。

「お疲れ様。紅茶を入れるから、待っててね」
「そんな。アンリカも疲れてるだろ? すぐに休みなよ」
「私は平気。ただ、横で突っ立って、笑顔を浮かべていればいいだけだったから」
「皮肉だなぁ……」
「そう?」

 アンリカとしては、事実を述べたまでだったが、ハーリスにとっては、付き合わせてしまったという罪悪感があったのだろう。

 ハーリスは、アンリカの入れてくれた紅茶を飲んで、息を吐いた。

「温かいなぁ……。やっぱり、アンリカの入れてくれた紅茶は、すごく美味しいよ」
「体に染みついてるからね……。こればっかりは」

 あの家で、何度作らされたことか。

 ……エイリャーン家は、二年前、潰れてしまったと聞いた。
 わがまま令嬢は、今頃どこで暮らしているのだろう。
 
「そういえばアンリカ。家に戻ったら、話したいことがあるって、言っていたよね?」
「あっ……」

 アンリカの顔が、赤くなった。
 ハーリスは、首を傾げる。

「どうした? 何か、言い辛いこと?」
「……そうでもないけど」
「なんでも言ってくれ。しばらくは、休もうと思っているからさ」

 この二年間は、結婚こそしていても、二人の関係性は、研究者と助手……。と言った方が、適切だった。
 もちろん、お互いに愛はあるし、信頼関係もある。決して冷え切っていたわけではないが、アンリカは、妻として、満たされたかった。

「アンリカ?」
「……子供、作ろうよ。そろそろ」
「……あっ」

 ハーリスも、顔が赤くなる。
 
「ごめん……。君から、言わせてしまって」
「いいの。別に、焦っていたわけじゃないし。研究を手伝うことで、あなたの役に立てたことは、何より嬉しいから」

 アンリカは、カップをテーブルに置いて、ハーリスの肩に、頭を乗せた。
 
「しばらくは……。私のことだけ、見てほしいな」
「……うん。わかったよ」

 ハーリスは、アンリカの肩をそっと抱き寄せ……。
 
 優しく、キスをした。
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