上 下
7 / 12

魔族であるということ

しおりを挟む
「大丈夫……?」
「……」

私はマルキ―に手を握られながら、ベッドで横になっていた。
食べすぎた胃を癒す魔法は、残念ながら存在しない。
人の四肢が切り離されようと、元の状態に戻すことができる聖女であっても、これにはかなわないのだ。

「ごめんね?久々に張り切って、作りすぎちゃって……」
「あなたのせいではありません。私が……。情けないのです」
「カリアナは、すぐに自分を責める癖があるよ。もっと、周りの人を頼って?」
「人……ですか」
「あ、そっか。今は魔族だよね……。えへへ」

その笑顔は、まるで人間そのものだった。
……思えば、笑顔というものを、真正面から向けられるのも、久しぶりかもしれない。

「あのねカリアナ。デリッサのことについてなんだけど」
「……聞きたくありません」
「いいよ。さっきみたいに、聞き流してくれれば」

この子は……。話すのが好きなのかな。
それとも、私の心をかき乱すため?

なんにせよ、この状態では、身動きが取れない。聞く他ないだろう。

「目覚めた時、私は絶望したの。ネクロマンサーのことなんて知らないし、これから魔族になって、奴隷として働かされるんだって」

マルキ―は静かな口調で話し始めた。

「でも、違った。カリアナもそろそろ気が付いたでしょう?この城には――。私たちしか、いないの」

確かに、言われてみればそうだ。
魔王の幹部の城というくらいなのだから、もっとうじゃうじゃ魔族がいても、おかしくないのに。

「デリッサは、他の魔族とは違う。孤立した勢力なの」
「しかし、彼は言っていました。この私が閉じ込められてしまった体――。エルフの体は、低級魔族のおもちゃとして提供するため、作り出したと。孤立しているとはいえ、魔族は魔族です」
「それは、他の魔族との関係を悪化させないためにやっていることだよ。……デリッサだって、本当はそんなこと、したくない。そもそも、魔王軍の幹部になるような人が……。今更、体を作り間違えるなんてこと、あると思う?」

マルキ―が、真っすぐ視線をぶつけてきた。

「……きっと、聖女の魂を入れるため、その体を作ったんだよ」
「だとすれば、より悪質です。……こんな戦闘能力の高い体で、人間を殺させようだなんて」

魔王軍の兵として、働いてほしい。
彼はそう言っていた。

「結局魔族は、人間を駆逐することしか考えていないのですよ。私たちは、その駒にすぎません。マルキ―、あなたはそれでもかまわないと言いましたが、私はそうではありません。聖女です。魔王軍の兵なんて……。絶対嫌」
「……デリッサから、聞いたよ。人間に、酷い扱いをされたんでしょう?どうしてそれでも、まだ守ろうとするの?」
「それが使命だからです」
「……そっか」

マルキ―が、静かに私の手を離した。

「私は、カリアナのこと、仲間だと思ってる。一緒に――。人間を殺したい」
「あなたは兵に殺された。兵にだけ恨みを持てばいいはず。なぜ人間全体に、恨みを」
「魔族だから」
「……やはり、おかしいです。憎悪に操られています」
「人間だって、等しく魔族を殺すよ。それと何も変わらない。カリアナも――わかる時が来るから」

……わかるわけがない。

確かに私は、兵を衝動的に殺してしまったという事実がある。この恨みは、もはや無視できない。
だけど、他の国の民はどうだろうか。子供たちは……。

そんなことを考えていたら、眠ってしまっていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

花と娶らば

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:81

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:859pt お気に入り:4,809

触手フェチの触手世界転生録

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

極道の密にされる健気少年

BL / 連載中 24h.ポイント:3,544pt お気に入り:1,735

Infinity pure

BL / 連載中 24h.ポイント:249pt お気に入り:3

転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

本日のディナーは勇者さんです。

BL / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:2,599

特別な人

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:73

処理中です...