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祭りの始まり
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「お祭りですよ! ライロット!」
三十分ほどして帰ってきたクリムが、大きな声でそう言った。
「えっと……。役場は?」
「そんなの後でいいですから! 魚は新鮮なうちに食べないと! しかもしかも! この辺りでは取れるはずの無い種類のものまで、今日は手に入ったみたいなんです! ほら、早く行きましょう!」
クリムに手を引っ張られ、ライロットは、休憩所を出た。
宴会場と思われる広場には……。大勢の人が集まっていた。
すでに、顔が赤くなっている人もいる。どうやら、酒を飲んでいるらしい。
「すごいね……」
「まだまだこんなものじゃないですよ! 今、森で果実を採取している人たちも、呼び戻しているところですから……。魚と果実が、これまた合うんです!」
来て早々、祭りとは……。ライロットは、戸惑いながらも、人々の幸せそうな顔を見て、心が温かくなっていた。
「もしかしたら、ライロットが幸運を運んでくれたんじゃないですか? こんな大漁、いくら漁業の国サンバスタと言えど、そうそうないんですよ?」
「ど、どうして私なの?」
「なんででしょう……」
「何それ……」
「何となくですよ! ライロットには、そういう雰囲気があるんです。その場にいるだけで、なぜか幸せな気持ちになるような……」
花屋で働いている時、確かに、そんなことを言われたような気がする。
嬉しいけど、なんだか照れてしまう。
ライロットは、顔を赤くしながら、賑やかに騒ぐ人々を見ていた。
「おいおい! 大変だぜ!」
声がした方を振り向くと、背中に籠を背負った男たちが、複数人いた。
クリムの言っていた、果実を採取しに行っていた人たちというのは、彼らのことだろう。
「見てくれよ! これ!」
男が籠から取り出した……真っ赤な果実を見て、クリムが声を挙げた。
「そ、それは! 伝説の果実、レッドルビーじゃないですか!」
「レッドルビー?」
「そうです! ものすごく高級な果実で……。まさか、この島に生えているだなんて!」
「俺もびっくりしたさ。しかも、少しじゃないんだぜ? これが実ってる木が、今日突然、たくさん見つかってよぉ!」
男が指差した籠の中に、溢れるほどのレッドルビーが詰まっていた。
「こ、こんなことが……」
「半分くらいは、どっかの国に売るつもりだけどよ! せっかくだし、観光客にも振る舞わねぇとな!」
「そうですね! いやぁすごいお祭りになりますよ! 大量の魚に、レッドルビー! 貴族でもよっぽど食べられない、高級な組み合わせです!」
興奮気味のクリムが、ライロットに目を向けた。
「ライロット……。これはやはり、あなたが運んでくれた幸運では?」
「だから、それは……」
「とにかく! 祭りを楽しみましょう!」
「あっ、ちょっと!」
クリムにまた腕を引っ張られ、今度は屋台に向かった。
「あいよ! クリムじゃねぇか! 隣に可愛い嬢ちゃん連れてんなぁ!」
「そうでしょう? そんな可愛いライロットに、美味しい魚を振る舞ってください!」
「任せな! ちょっと待っててくれ!」
クリムが、ライロットに笑顔を向けた。
しばらくして、出てきたのは……。魚の塩焼きだった。
「これは、この島の特産品の魚なんです! 島に来たら、まずはこれ!」
「ありがとう……。いただきます」
串に刺さった魚の塩焼きに、齧りつくライロット。
「あふっ……」
「おいおい嬢ちゃん! やけどするぜ? 出来立てなんだから!」
「ほら、冷ましてください。ふーふーって」
クリムに言われ、恥ずかしくなったライロットは、俯きながら、控えめに息を吹きかけた。
そして、もう一度、齧りつく。
身がぎっしりと詰まっており、やや油の多い、まるで肉のような魚だった。
「美味しい……。こんな魚食べたの、初めてかも」
「あんまり食べると、胃もたれするからよ! 一日一本までだな!」
「ありがとうございます」
「良いってことよ! 国に帰ったら、みんなに紹介してやってくれ!」
「あっ……はい」
ライロットは、苦笑いをした。
クリムが気遣うように、ライロットの背中を撫でながら、その場を後にした。
「ごめんなさい。私の配慮が足りてなくて……」
「そんな。気にしないで。観光客だと思ってるんだから、当たり前だよ」
「そう言ってくれると、助かります。祭りはまだ、始まったばかりですから……。たくさん楽しみましょうね!」
「うん」
ライロットは、笑顔で頷いた。
三十分ほどして帰ってきたクリムが、大きな声でそう言った。
「えっと……。役場は?」
「そんなの後でいいですから! 魚は新鮮なうちに食べないと! しかもしかも! この辺りでは取れるはずの無い種類のものまで、今日は手に入ったみたいなんです! ほら、早く行きましょう!」
クリムに手を引っ張られ、ライロットは、休憩所を出た。
宴会場と思われる広場には……。大勢の人が集まっていた。
すでに、顔が赤くなっている人もいる。どうやら、酒を飲んでいるらしい。
「すごいね……」
「まだまだこんなものじゃないですよ! 今、森で果実を採取している人たちも、呼び戻しているところですから……。魚と果実が、これまた合うんです!」
来て早々、祭りとは……。ライロットは、戸惑いながらも、人々の幸せそうな顔を見て、心が温かくなっていた。
「もしかしたら、ライロットが幸運を運んでくれたんじゃないですか? こんな大漁、いくら漁業の国サンバスタと言えど、そうそうないんですよ?」
「ど、どうして私なの?」
「なんででしょう……」
「何それ……」
「何となくですよ! ライロットには、そういう雰囲気があるんです。その場にいるだけで、なぜか幸せな気持ちになるような……」
花屋で働いている時、確かに、そんなことを言われたような気がする。
嬉しいけど、なんだか照れてしまう。
ライロットは、顔を赤くしながら、賑やかに騒ぐ人々を見ていた。
「おいおい! 大変だぜ!」
声がした方を振り向くと、背中に籠を背負った男たちが、複数人いた。
クリムの言っていた、果実を採取しに行っていた人たちというのは、彼らのことだろう。
「見てくれよ! これ!」
男が籠から取り出した……真っ赤な果実を見て、クリムが声を挙げた。
「そ、それは! 伝説の果実、レッドルビーじゃないですか!」
「レッドルビー?」
「そうです! ものすごく高級な果実で……。まさか、この島に生えているだなんて!」
「俺もびっくりしたさ。しかも、少しじゃないんだぜ? これが実ってる木が、今日突然、たくさん見つかってよぉ!」
男が指差した籠の中に、溢れるほどのレッドルビーが詰まっていた。
「こ、こんなことが……」
「半分くらいは、どっかの国に売るつもりだけどよ! せっかくだし、観光客にも振る舞わねぇとな!」
「そうですね! いやぁすごいお祭りになりますよ! 大量の魚に、レッドルビー! 貴族でもよっぽど食べられない、高級な組み合わせです!」
興奮気味のクリムが、ライロットに目を向けた。
「ライロット……。これはやはり、あなたが運んでくれた幸運では?」
「だから、それは……」
「とにかく! 祭りを楽しみましょう!」
「あっ、ちょっと!」
クリムにまた腕を引っ張られ、今度は屋台に向かった。
「あいよ! クリムじゃねぇか! 隣に可愛い嬢ちゃん連れてんなぁ!」
「そうでしょう? そんな可愛いライロットに、美味しい魚を振る舞ってください!」
「任せな! ちょっと待っててくれ!」
クリムが、ライロットに笑顔を向けた。
しばらくして、出てきたのは……。魚の塩焼きだった。
「これは、この島の特産品の魚なんです! 島に来たら、まずはこれ!」
「ありがとう……。いただきます」
串に刺さった魚の塩焼きに、齧りつくライロット。
「あふっ……」
「おいおい嬢ちゃん! やけどするぜ? 出来立てなんだから!」
「ほら、冷ましてください。ふーふーって」
クリムに言われ、恥ずかしくなったライロットは、俯きながら、控えめに息を吹きかけた。
そして、もう一度、齧りつく。
身がぎっしりと詰まっており、やや油の多い、まるで肉のような魚だった。
「美味しい……。こんな魚食べたの、初めてかも」
「あんまり食べると、胃もたれするからよ! 一日一本までだな!」
「ありがとうございます」
「良いってことよ! 国に帰ったら、みんなに紹介してやってくれ!」
「あっ……はい」
ライロットは、苦笑いをした。
クリムが気遣うように、ライロットの背中を撫でながら、その場を後にした。
「ごめんなさい。私の配慮が足りてなくて……」
「そんな。気にしないで。観光客だと思ってるんだから、当たり前だよ」
「そう言ってくれると、助かります。祭りはまだ、始まったばかりですから……。たくさん楽しみましょうね!」
「うん」
ライロットは、笑顔で頷いた。
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