王都を追放された私は、実は幸運の女神だったみたいです。

冬吹せいら

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王子が一人の人間に戻る時

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 夜、ヘイサルは……。王宮の間に向かった。
 すでに食事を終え、眠たそうなレイドルに、ヘイサルは鋭い眼差しを向ける。

「父上。ユレイナが……。嘘をついていたことに、本当はお気づきだったのでしょう?」
「……いきなり現れたと思ったら、何の話だ?」
「とぼけないでください。……街でも、彼女の評判は良かった。彼女の笑顔を見たいがゆえに、花を買う客も多かったと聞きます」
「その内の一人が、貴様、というわけか……」

 レイドルが、ため息をついた。

「いつまであの辺境の娘に、気持ちを向けておるのだ。お前は、エージャリオンの国王の息子……。ヘイサル・カージリストであろう」
「しかし……」
「……誰のおかげで、労働の歯車に、嵌め込まれずに済んだと思っておるのだ?」
「くっ……」

 ヘイサルは、レイドルを睨みつけながらも、自分の半生を思い出していた。

 辺境の村の孤児院で、彼は多くの仲間と暮らしていた。
 ある日、王都に、労働者として連れて行かれることになり……。

 そこで、密かに思いを寄せていた、ライロット・メンゼムと、別れることになった。

 同じ工場で働くことができれば、まだいいだろう。そう思っていたヘイサルは、あろうことか、そのまま工場ではなく、たった一人、王宮へと連れて行かれた。

 そこで……。王子になるよう、言われたのだ。

 レイドル・カージリストは、妻がおらず、兄妹もいなかった。
 つまり……。後継者がいなかったのだ。
 レイドルは、それを気にしていなかったが、戦争が終わり、数年が経ったころ、軍部の重役が、反逆を企てているとの噂が立った。

 後継者がいないことで、革命を誘発してしまう可能性がある。
 そう考えたレイドルは……。
 ……辺境の村から連れて来た、労働者になるはずだった、一人の少年を、王子にすることにしたのだ。

 国民には、かつて戦争が始まったころ、他国に妻と共に逃がした子供だと説明した。
 その妻はすでに亡くなっており、国内が落ち着き始めたので、連れ戻したと……。
 当然、疑う国民は多かった。軍部にも混乱が走ったが……。

 ヘイサルの人格が優れており、すぐに王子として認められていったことで、争いの空気は、鳴りを潜めていった……。

 気づけば、あれから十年が経ち、ヘイサルは二十二歳になっていた。
 想い人のライロットは、幸いなことに、心優しい花屋に拾われ、密かにではあるが、会話をすることもできた。

 しかし……。

「貴様の婚約者は、ユレイナであろう。あの娘のどこが気に食わぬのだ」
「……彼女はとてもわがままです。それに、僕のことを愛していません。ただ、王族の名前が欲しいだけ……」
「それの何がいけないのだ」
「……え?」
「ヘイサル良く聞け。貴様が王子となったことで、軍部は争うことを諦めた。ここで、キリマール家という、王都プロメリアでもかなりの力を有する侯爵家の娘と、結婚すれば……。国はより一層、安定するだろう。お前があの娘を諦めることは、国の安定に繋がるのだ」

 先ほどまで、眠たそうな顔をしていたレイドルは……。
 今は、しっかりと目を見開き、ヘイサルを見ている。

「……僕は、国を治めるための、道具に過ぎないというわけですね」
「その通りだ。わかったらさっさと出て行け」
「父上。父上は……。僕のことを、愛していますか?」
「血の繋がらない男を愛するような人間が、国王になれると思うか?」
「……」
「ヘイサル。人の上に立つためには、残酷でなければならない。……あんな娘、どうでもよかろう。国には変えられん」

 ヘイサルは、王の間を後にした。
 ……このまま王都にいても、自分が幸せになることはない。
 自分がいなくなったところで、どうせ、レイドルは……。新たな王子を、辺境から連れてくるだけだ。
 
 自然、船着き場へと、足が向かって行く。 
 ヘイサルは……。気持ちを固めた。
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