12 / 21
アージリオン教の襲撃
しおりを挟む
突然の衝撃音により、ユレイナは目を覚ました。
「な、何の音……?」
慌てて部屋を出て、外に向かう。
すでに、数人のメイドたちが集まっていた。
「あなたたち。今の音……」
メイドたちに、尋ねるまでもなかった。
門が……。破壊されていたのだ。
「ユ、ユレイナ様! すぐに中へ!」
執事に呼びかけられ、ユレイナは屋敷の中に引っ込む。
「悪魔を出せぇ!!! 悪魔を!!!」
男の叫び声が聞こえた。
震える体を自分で抱きながら、ユレイナは執事と共に、奥の部屋へと向かう。
「一体、何があったのよ……」
「アージリオン教の者です。今朝、街に向かった時に、やたらと信者が活発だとは思ったのですが……。まさか、攻撃を仕掛けてくるとは」
「お父様とお母様は?」
「今朝早くに、仕事の関係で出て行かれました。……おそらくそちらにも、信者が向かっているかと」
「どうして……」
「……ユレイナ様が、ライロットを追い出したと、彼らは言っているようですが」
まさか……。アージリオン教の信者が、それを知っているはずがない。
ユレイナは、激しく首を横に振った。
「知らないわ。そんなの。とにかく……。私を守って? 兵は? すぐに呼びなさい」
「それが、先ほど連絡に向かったメイドが、まだ戻ってこないのです」
「何をやっているのよ……。シブリエはどこに?」
「今朝から姿が見えません。ひょっとすると、もうすでに、街で信者に掴まっている可能性もあります」
「そんな……」
シブリエを心配する気持ちが、ユレイナの心に湧き上がったが、すぐに、喧嘩したばかりであることを思い出し、気持ちを切り替えた。
「全く、使えない子ね……。それで、どうして門は壊れているのよ。何があったの?」
「先ほど暴れていた男が、門を爆破したのです。門番はおそらく、巻き込まれてしまって……」
「そんなことはどうだっていいの。誰か、あの男を止めないと」
「爆破と同時に、男も怪我を負っています。すぐには動けないかと――」
執事の言葉は、メイドの叫び声によって、かき消された。
「な、なんなの!?」
「様子を見てきます。ユレイナ様は、地下からお逃げになってください」
キリマール家は、戦争の名残から、地下に避難用の通路がある。
執事はユレイナの答えを待たず、外に飛び出して行った。
「何でこんなことになるのよ……!」
ユレイナは、一度床を叩きつけてから、地下へと急いだ。
☆ ☆ ☆
地下通路を走り、街へと出る梯子を見つけたユレイナは、そこから外に出ることにした。
梯子を登り……。蓋をゆっくりと開ける。
そこは、街の中心部から、少し離れた民家の中だった。
当然、誰も住んでいない。ダミーの民家である。
ユレイナは、服に着いた汚れを手で払い、民家を出た。
「え……」
街の中心部に……。いくつも、煙の柱が立っているのが見える。
人々が、物を抱え、子供を抱え、逃げまどっていた。
「おい嬢ちゃん! 早く逃げねぇと!」
話しかけてきたのは、小太りの男。
地下通路を走ったせいで、髪が乱れており、部屋着だったユレイナは、普通の女性と間違われた。
「一体、街で何が起こっているの?」
震える声で、ユレイナは尋ねた。
「アージリオン教が、爆弾をあっちこっちで爆発させ始めたんだよ!」
「どうしてそんな……」
「知らねぇよ……。幸運の女神がどうとか、言ってたけど……。あんたも早く逃げるんだな! 命が大事だったら!」
小太りの男は、行ってしまった。
一人になったユレイナは、体の震えが止まらない。
アージリオン教が、街を……。
……いや、大丈夫。
すぐにでも、軍部が動き始め、この騒動を鎮圧してくれるだろう。
ユレイナは、深呼吸をして、心を落ち着かせようと試みた。
地下通路の存在は、キリマール家しか知らない。
そこに隠れている間に、きっと解決するはずだ。
「何が、幸運の女神よ……」
地面に唾を吐き、ユレイナは地下へと戻った。
「な、何の音……?」
慌てて部屋を出て、外に向かう。
すでに、数人のメイドたちが集まっていた。
「あなたたち。今の音……」
メイドたちに、尋ねるまでもなかった。
門が……。破壊されていたのだ。
「ユ、ユレイナ様! すぐに中へ!」
執事に呼びかけられ、ユレイナは屋敷の中に引っ込む。
「悪魔を出せぇ!!! 悪魔を!!!」
男の叫び声が聞こえた。
震える体を自分で抱きながら、ユレイナは執事と共に、奥の部屋へと向かう。
「一体、何があったのよ……」
「アージリオン教の者です。今朝、街に向かった時に、やたらと信者が活発だとは思ったのですが……。まさか、攻撃を仕掛けてくるとは」
「お父様とお母様は?」
「今朝早くに、仕事の関係で出て行かれました。……おそらくそちらにも、信者が向かっているかと」
「どうして……」
「……ユレイナ様が、ライロットを追い出したと、彼らは言っているようですが」
まさか……。アージリオン教の信者が、それを知っているはずがない。
ユレイナは、激しく首を横に振った。
「知らないわ。そんなの。とにかく……。私を守って? 兵は? すぐに呼びなさい」
「それが、先ほど連絡に向かったメイドが、まだ戻ってこないのです」
「何をやっているのよ……。シブリエはどこに?」
「今朝から姿が見えません。ひょっとすると、もうすでに、街で信者に掴まっている可能性もあります」
「そんな……」
シブリエを心配する気持ちが、ユレイナの心に湧き上がったが、すぐに、喧嘩したばかりであることを思い出し、気持ちを切り替えた。
「全く、使えない子ね……。それで、どうして門は壊れているのよ。何があったの?」
「先ほど暴れていた男が、門を爆破したのです。門番はおそらく、巻き込まれてしまって……」
「そんなことはどうだっていいの。誰か、あの男を止めないと」
「爆破と同時に、男も怪我を負っています。すぐには動けないかと――」
執事の言葉は、メイドの叫び声によって、かき消された。
「な、なんなの!?」
「様子を見てきます。ユレイナ様は、地下からお逃げになってください」
キリマール家は、戦争の名残から、地下に避難用の通路がある。
執事はユレイナの答えを待たず、外に飛び出して行った。
「何でこんなことになるのよ……!」
ユレイナは、一度床を叩きつけてから、地下へと急いだ。
☆ ☆ ☆
地下通路を走り、街へと出る梯子を見つけたユレイナは、そこから外に出ることにした。
梯子を登り……。蓋をゆっくりと開ける。
そこは、街の中心部から、少し離れた民家の中だった。
当然、誰も住んでいない。ダミーの民家である。
ユレイナは、服に着いた汚れを手で払い、民家を出た。
「え……」
街の中心部に……。いくつも、煙の柱が立っているのが見える。
人々が、物を抱え、子供を抱え、逃げまどっていた。
「おい嬢ちゃん! 早く逃げねぇと!」
話しかけてきたのは、小太りの男。
地下通路を走ったせいで、髪が乱れており、部屋着だったユレイナは、普通の女性と間違われた。
「一体、街で何が起こっているの?」
震える声で、ユレイナは尋ねた。
「アージリオン教が、爆弾をあっちこっちで爆発させ始めたんだよ!」
「どうしてそんな……」
「知らねぇよ……。幸運の女神がどうとか、言ってたけど……。あんたも早く逃げるんだな! 命が大事だったら!」
小太りの男は、行ってしまった。
一人になったユレイナは、体の震えが止まらない。
アージリオン教が、街を……。
……いや、大丈夫。
すぐにでも、軍部が動き始め、この騒動を鎮圧してくれるだろう。
ユレイナは、深呼吸をして、心を落ち着かせようと試みた。
地下通路の存在は、キリマール家しか知らない。
そこに隠れている間に、きっと解決するはずだ。
「何が、幸運の女神よ……」
地面に唾を吐き、ユレイナは地下へと戻った。
16
あなたにおすすめの小説
聖女追放された私ですが、追放先で開いたパン屋が大繁盛し、気づけば辺境伯様と宰相様と竜王が常連です
さくら
恋愛
聖女として仕えていた少女セラは、陰謀により「力を失った」と断じられ、王都を追放される。行き着いた辺境の小さな村で、彼女は唯一の特技である「パン作り」を生かして小さな店を始める。祈りと癒しの力がわずかに宿ったパンは、人々の疲れを和らげ、心を温める不思議な力を持っていた。
やがて、村を治める厳格な辺境伯が常連となり、兵士たちの士気をも支える存在となる。続いて王都の切れ者宰相が訪れ、理屈を超える癒しの力に驚愕し、政治的な価値すら見出してしまう。そしてついには、黒曜石の鱗を持つ竜王がセラのパンを食べ、その力を認めて庇護を約束する。
追放されたはずの彼女の小さなパン屋は、辺境伯・宰相・竜王が並んで通う奇跡の店へと変わり、村は国中に名を知られるほどに繁栄していく。しかし同時に、王都の教会や貴族たちはその存在を脅威とみなし、刺客を放って村を襲撃する。だが辺境伯の剣と宰相の知略、竜王の咆哮によって、セラと村は守られるのだった。
人と竜を魅了したパン屋の娘――セラは、三人の大国の要人たちに次々と想いを寄せられながらも、ただ一つの答えを胸に抱く。
「私はただ、パンを焼き続けたい」
追放された聖女の新たな人生は、香ばしい香りとともに世界を変えていく。
治癒魔法で恋人の傷を治したら、「化け物」と呼ばれ故郷から追放されてしまいました
山科ひさき
恋愛
ある日治癒魔法が使えるようになったジョアンは、化け物呼ばわりされて石を投げられ、町から追い出されてしまう。彼女はただ、いまにも息絶えそうな恋人を助けたかっただけなのに。
生きる希望を失った彼女は、恋人との思い出の場所で人生の終わりを迎えようと決める。
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。
無能だと追放された錬金術師ですが、辺境でゴミ素材から「万能ポーション」を精製したら、最強の辺境伯に溺愛され、いつの間にか世界を救っていました
メルファン
恋愛
「攻撃魔法も作れない欠陥品」「役立たずの香り屋」
侯爵令嬢リーシェの錬金術は、なぜか「ポーション」や「魔法具」ではなく、「ただの石鹸」や「美味しい調味料」にしかなりませんでした。才能ある妹が「聖女」として覚醒したことで、役立たずのレッテルを貼られたリーシェは、家を追放されてしまいます。
行きついた先は、魔物が多く住み着き、誰も近づかない北の辺境伯領。
リーシェは静かにスローライフを送ろうと、持参したわずかな道具で薬草を採取し、日々の糧を得ようとします。しかし、彼女の「無能な錬金術」は、この辺境の地でこそ真価を発揮し始めたのです。
辺境のゴミ素材から、領民を悩ませていた疫病の特効薬を精製!
普通の雑草から、兵士たちの疲労を瞬時に回復させる「万能ポーション」を大量生産!
魔物の残骸から、辺境伯の呪いを解くための「鍵」となる物質を発見!
リーシェが精製する日用品や調味料は、辺境の暮らしを豊かにし、貧しい領民たちに笑顔を取り戻させました。いつの間にか、彼女の錬金術に心酔した領民や、可愛らしい魔獣たちが集まり始めます。
そして、彼女の才能に気づいたのは、この地を治める「孤高の美男辺境伯」ディーンでした。
彼は、かつて公爵の地位と引き換えに呪いを受けた不遇な英雄。リーシェの錬金術が、その呪いを解く唯一の鍵だと知るや否や、彼女を熱烈に保護し、やがて溺愛し始めます。
「君の錬金術は、この世界で最も尊い。君こそが、私にとっての『生命線』だ」
一方、リーシェを追放した王都は、優秀な錬金術師を失ったことで、ポーション不足と疫病で徐々に衰退。助けを求めて使者が辺境伯領にやってきますが、時すでに遅し。
「我が妻は、あなた方の命を救うためだけに錬金術を施すほど暇ではない」
これは、追放された錬金術師が、自らの知識とスキルで辺境を豊かにし、愛する人と家族を築き、最終的に世界を救う、スローライフ×成り上がり×溺愛の長編物語。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる