王都を追放された私は、実は幸運の女神だったみたいです。

冬吹せいら

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アージリオン教の襲撃

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 突然の衝撃音により、ユレイナは目を覚ました。
 
「な、何の音……?」

 慌てて部屋を出て、外に向かう。
 すでに、数人のメイドたちが集まっていた。

「あなたたち。今の音……」

 メイドたちに、尋ねるまでもなかった。

 門が……。破壊されていたのだ。

「ユ、ユレイナ様! すぐに中へ!」

 執事に呼びかけられ、ユレイナは屋敷の中に引っ込む。

「悪魔を出せぇ!!! 悪魔を!!!」

 男の叫び声が聞こえた。
 震える体を自分で抱きながら、ユレイナは執事と共に、奥の部屋へと向かう。

「一体、何があったのよ……」
「アージリオン教の者です。今朝、街に向かった時に、やたらと信者が活発だとは思ったのですが……。まさか、攻撃を仕掛けてくるとは」
「お父様とお母様は?」
「今朝早くに、仕事の関係で出て行かれました。……おそらくそちらにも、信者が向かっているかと」
「どうして……」
「……ユレイナ様が、ライロットを追い出したと、彼らは言っているようですが」
 
 まさか……。アージリオン教の信者が、それを知っているはずがない。
 ユレイナは、激しく首を横に振った。

「知らないわ。そんなの。とにかく……。私を守って? 兵は? すぐに呼びなさい」
「それが、先ほど連絡に向かったメイドが、まだ戻ってこないのです」
「何をやっているのよ……。シブリエはどこに?」
「今朝から姿が見えません。ひょっとすると、もうすでに、街で信者に掴まっている可能性もあります」
「そんな……」

 シブリエを心配する気持ちが、ユレイナの心に湧き上がったが、すぐに、喧嘩したばかりであることを思い出し、気持ちを切り替えた。

「全く、使えない子ね……。それで、どうして門は壊れているのよ。何があったの?」
「先ほど暴れていた男が、門を爆破したのです。門番はおそらく、巻き込まれてしまって……」
「そんなことはどうだっていいの。誰か、あの男を止めないと」
「爆破と同時に、男も怪我を負っています。すぐには動けないかと――」

 執事の言葉は、メイドの叫び声によって、かき消された。

「な、なんなの!?」
「様子を見てきます。ユレイナ様は、地下からお逃げになってください」

 キリマール家は、戦争の名残から、地下に避難用の通路がある。
 執事はユレイナの答えを待たず、外に飛び出して行った。

「何でこんなことになるのよ……!」

 ユレイナは、一度床を叩きつけてから、地下へと急いだ。

☆ ☆ ☆

 地下通路を走り、街へと出る梯子を見つけたユレイナは、そこから外に出ることにした。
 梯子を登り……。蓋をゆっくりと開ける。
 そこは、街の中心部から、少し離れた民家の中だった。
 当然、誰も住んでいない。ダミーの民家である。

 ユレイナは、服に着いた汚れを手で払い、民家を出た。

「え……」

 街の中心部に……。いくつも、煙の柱が立っているのが見える。
 人々が、物を抱え、子供を抱え、逃げまどっていた。

「おい嬢ちゃん! 早く逃げねぇと!」

 話しかけてきたのは、小太りの男。
 地下通路を走ったせいで、髪が乱れており、部屋着だったユレイナは、普通の女性と間違われた。
 
「一体、街で何が起こっているの?」

 震える声で、ユレイナは尋ねた。

「アージリオン教が、爆弾をあっちこっちで爆発させ始めたんだよ!」
「どうしてそんな……」
「知らねぇよ……。幸運の女神がどうとか、言ってたけど……。あんたも早く逃げるんだな! 命が大事だったら!」

 小太りの男は、行ってしまった。
 一人になったユレイナは、体の震えが止まらない。
 アージリオン教が、街を……。

 ……いや、大丈夫。
 すぐにでも、軍部が動き始め、この騒動を鎮圧してくれるだろう。
 ユレイナは、深呼吸をして、心を落ち着かせようと試みた。

 地下通路の存在は、キリマール家しか知らない。
 そこに隠れている間に、きっと解決するはずだ。

「何が、幸運の女神よ……」

 地面に唾を吐き、ユレイナは地下へと戻った。
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