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結ばれた二人
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「今日は、昨日の客船の人々と、森の探検ツアーをするんですよ」
「うんうん」
ライロットは、食堂で、クリムと朝食をとりながら、今日の仕事について、話をしていた。
「初日ですから、ライロットも、お客さんの一人だと思って、楽しんでくださいね!」
「それはちょっと……。何か聞かれたら、答えられないと、恥ずかしいし……」
「大丈夫です! 私たちも適当ですから!」
「えっ……」
「……じょ、冗談ですよ?」
クリムの慌てた様子に、ライロットは笑ってしまった。
「さっき、クリムに貸してもらったマニュアルがあるから、何とかなると思う……。ありがとう」
「いえいえ! 今日は私と二人で行動してもらいますから。困ったことがあれば、なんでも聞いてください!」
「うん」
朝食を食べ終えた二人は、広場へと向かった。
島民と挨拶を交わし、一緒に運動をする。
これが、この島の日課らしい。
……運動不足のライロットは、これだけでも、疲れてしまいそうだった。
「ごめんクリム……。ちょっと休憩」
「えっ、も、もうですか?」
「……ごめん」
「いえ……。お茶を出しますから、休憩所に――」
クリムの視線が、海の方へ向いた。
「どうしたの? クリム」
「いや……。クルーザーが、こちらに向かってきているので」
「クルーザー?」
ライロットも振り返り、海を見る。
確かに、小さなクルーザーが、こちらに向かっていた。
「今日のお客さんは、みんな午後からだと思っていたのですが……」
クリムに続いて、ライロットも船着き場へと向かった。
船から……。一人の女性が、姿を現す。
「ようこそサンバスタへ!」
元気良く挨拶したクリムに対し……。
ライロットは、目を見開いていた。
「……シブリエさん」
「ライロット……」
シブリエが、ライロットに駆け寄った。
「すいません……。来てしまいました」
「どうして……」
「……あんな女の家で働くのは、もう無理だと思ったのです」
「えっと……。すいません。知り合いですか?」
尋ねるクリムに、ライロットがシブリエを紹介した。
「なるほど……。ようこそサンバスタへ!」
「はい……。その、私だけでは無いのですが」
「え? そうなんですか?」
「……」
シブリエが、ライロットを無言で見つめる。
「……シブリエさん?」
「聞きましたよ。彼は、孤児院でも、寝坊が酷くて、よくライロットに怒られたと……」
「……え?」
「もう着いたというのに、まだベッドの上で、目を閉じています。……起こしてくれますか?」
「シ、シブリエさん、それって……」
「あの、クリムさん。この島で働こうと思うのですが、手続きなどは?」
「あぁはい。えっと……」
シブリエは、クリムの背中を押して、その場から立ち去ってしまった……。
残されたライロットは、クルーズへと向かう。
心臓の鼓動が、早まっていた。
まさか、そんなことが……。
疑いながらも、クルーズの中に入り、ベッドを探す。
「……ヘイサル」
ヘイサルが……。眠っていた。
ライロットの脳裏に、孤児院での出来事が浮かぶ。
朝の六時に、全員が起床して、農家の仕事を手伝うのだが、それにいつも、ヘイサルは遅刻していた。
とにかく起きることができない。揺り動かしても、ずっと眠ったまま。
今も……。同じような寝顔で、規則正しい呼吸をしている。
「起きて……。ヘイサル。朝だよ」
反応が無い。
「ヘイサル! 朝! ジェブリーさんに叱られちゃうよ!」
自然と、農家の名前が出てくる。
もう、十年も前の話なのに……。
ライロットは、自然と笑顔になっていた。
「……起きてるよ」
ヘイサルは、目を閉じたまま答えた。
「王子になってからは、寝坊グセもなくなったさ。……本当は、二時間前に起きていた」
まだ、目を開けない。
「じゃあ、どうして……」
「どうして……。っていうのは、どれに対してかな」
「全部だよ、全部……。どうして、王子がここに……」
「……ライロット」
ようやく目を開けたヘイサルは、ゆっくりと体を起こした。
「十年前から、ずっと……。君が好きだった」
真っすぐに、ライロットを見つめ。
照れくさそうに、ヘイサルは言った。
「そんな、そんなの……。許されないわ。だってあなたには、婚約者がいて、私はただの平民で、追放されて……」
「ライロットは、どうなんだい?」
「え?」
「僕のこと……。どう思ってるのかなって」
「……」
ライロットは、目を泳がせた。
顔は真っ赤、手も少し震えている。
その手を、ヘイサルが握りしめた。
いつぶりだろうか、この温もりは……。
十年前と違って、随分とたくましく、大きくなったその手を、ライロットはゆっくりと握りしめ返した。
「……好きだよ。ずっと。あなたに出会った時から、今日まで」
「だったら、同じだね」
「……」
「……」
「……あの~。ライロット。そろそろお仕事をしようか~」
「「!?」」
ヘイサルとライロットは、同時に振り返った。
……シブリエとクリムが、こちらを覗いている。
二人の顔は、真っ赤になった。
「うんうん」
ライロットは、食堂で、クリムと朝食をとりながら、今日の仕事について、話をしていた。
「初日ですから、ライロットも、お客さんの一人だと思って、楽しんでくださいね!」
「それはちょっと……。何か聞かれたら、答えられないと、恥ずかしいし……」
「大丈夫です! 私たちも適当ですから!」
「えっ……」
「……じょ、冗談ですよ?」
クリムの慌てた様子に、ライロットは笑ってしまった。
「さっき、クリムに貸してもらったマニュアルがあるから、何とかなると思う……。ありがとう」
「いえいえ! 今日は私と二人で行動してもらいますから。困ったことがあれば、なんでも聞いてください!」
「うん」
朝食を食べ終えた二人は、広場へと向かった。
島民と挨拶を交わし、一緒に運動をする。
これが、この島の日課らしい。
……運動不足のライロットは、これだけでも、疲れてしまいそうだった。
「ごめんクリム……。ちょっと休憩」
「えっ、も、もうですか?」
「……ごめん」
「いえ……。お茶を出しますから、休憩所に――」
クリムの視線が、海の方へ向いた。
「どうしたの? クリム」
「いや……。クルーザーが、こちらに向かってきているので」
「クルーザー?」
ライロットも振り返り、海を見る。
確かに、小さなクルーザーが、こちらに向かっていた。
「今日のお客さんは、みんな午後からだと思っていたのですが……」
クリムに続いて、ライロットも船着き場へと向かった。
船から……。一人の女性が、姿を現す。
「ようこそサンバスタへ!」
元気良く挨拶したクリムに対し……。
ライロットは、目を見開いていた。
「……シブリエさん」
「ライロット……」
シブリエが、ライロットに駆け寄った。
「すいません……。来てしまいました」
「どうして……」
「……あんな女の家で働くのは、もう無理だと思ったのです」
「えっと……。すいません。知り合いですか?」
尋ねるクリムに、ライロットがシブリエを紹介した。
「なるほど……。ようこそサンバスタへ!」
「はい……。その、私だけでは無いのですが」
「え? そうなんですか?」
「……」
シブリエが、ライロットを無言で見つめる。
「……シブリエさん?」
「聞きましたよ。彼は、孤児院でも、寝坊が酷くて、よくライロットに怒られたと……」
「……え?」
「もう着いたというのに、まだベッドの上で、目を閉じています。……起こしてくれますか?」
「シ、シブリエさん、それって……」
「あの、クリムさん。この島で働こうと思うのですが、手続きなどは?」
「あぁはい。えっと……」
シブリエは、クリムの背中を押して、その場から立ち去ってしまった……。
残されたライロットは、クルーズへと向かう。
心臓の鼓動が、早まっていた。
まさか、そんなことが……。
疑いながらも、クルーズの中に入り、ベッドを探す。
「……ヘイサル」
ヘイサルが……。眠っていた。
ライロットの脳裏に、孤児院での出来事が浮かぶ。
朝の六時に、全員が起床して、農家の仕事を手伝うのだが、それにいつも、ヘイサルは遅刻していた。
とにかく起きることができない。揺り動かしても、ずっと眠ったまま。
今も……。同じような寝顔で、規則正しい呼吸をしている。
「起きて……。ヘイサル。朝だよ」
反応が無い。
「ヘイサル! 朝! ジェブリーさんに叱られちゃうよ!」
自然と、農家の名前が出てくる。
もう、十年も前の話なのに……。
ライロットは、自然と笑顔になっていた。
「……起きてるよ」
ヘイサルは、目を閉じたまま答えた。
「王子になってからは、寝坊グセもなくなったさ。……本当は、二時間前に起きていた」
まだ、目を開けない。
「じゃあ、どうして……」
「どうして……。っていうのは、どれに対してかな」
「全部だよ、全部……。どうして、王子がここに……」
「……ライロット」
ようやく目を開けたヘイサルは、ゆっくりと体を起こした。
「十年前から、ずっと……。君が好きだった」
真っすぐに、ライロットを見つめ。
照れくさそうに、ヘイサルは言った。
「そんな、そんなの……。許されないわ。だってあなたには、婚約者がいて、私はただの平民で、追放されて……」
「ライロットは、どうなんだい?」
「え?」
「僕のこと……。どう思ってるのかなって」
「……」
ライロットは、目を泳がせた。
顔は真っ赤、手も少し震えている。
その手を、ヘイサルが握りしめた。
いつぶりだろうか、この温もりは……。
十年前と違って、随分とたくましく、大きくなったその手を、ライロットはゆっくりと握りしめ返した。
「……好きだよ。ずっと。あなたに出会った時から、今日まで」
「だったら、同じだね」
「……」
「……」
「……あの~。ライロット。そろそろお仕事をしようか~」
「「!?」」
ヘイサルとライロットは、同時に振り返った。
……シブリエとクリムが、こちらを覗いている。
二人の顔は、真っ赤になった。
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