王都を追放された私は、実は幸運の女神だったみたいです。

冬吹せいら

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仲直り

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 ヘイサルが国に戻ったことにより、混乱は徐々に収まっていった。

 名ばかりの王子……。それは、ヘイサルの思い違いでしかなかった。
  
 国民は皆、心優しきヘイサルが……次の王になることに、好意的であり。
 軍部もまた、ヘイサル以外の国王は考えられない。という意見で一致した。

「ごめんなさい……。シブリエ……」

 キリマール家の、ユレイナの部屋。
 ユレイナは、シブリエの姿を見かけてから……。ようやく、少しづつではあるが、まともな会話ができる状態に、戻りつつあった。

「いえ……。私も、その……。怒りすぎました」

 シブリエもまた……。わがまま令嬢と言えど、十七年共に過ごしたユレイナを、妹のように感じている部分もあった。
 王都を出たあの日、クルーザーで、ヘイサルがベッドで眠っている間……。一人でずっと、自分の決断が正しいのかどうかを、悩み続けていたのだ。

「私は、何もわかっていなかったの。権力に目が眩んで……国王様に、媚を売って、挙句の果てには、何の罪も無い、一人の女性を、王都から追放して……。身勝手だった。馬鹿だった。シブリエ、どうか私を、きつく叱って……」
「叱るもなにも……。十分怖い思いをしたのですから、その必要はありません」
 
 シブリエは、ユレイナの頭を撫でた。
 ……ユレイナが小さいときには、よくこうして、泣き止ませることがあったのだ。
 ユレイナも、それを思い出していた。

 自分たちは……。昔は仲が良かったのだ。
 いつから、あんな風になってしまったのだろう。

「ライロットにも、ヘイサル様にも、謝らなければ……」
「それはもう少し、落ち着いてからにしましょう。きっと彼らは、それを望んでいません」
「でも……」
「……ユレイナ様。少し、お聞きしたいことがあるのです」
「なに?」
「幸運の、女神について……」

 ユレイナの体に、緊張が走った。
 それを解すように、シブリエが、また優しく、頭を撫でる。

「……できれば、話したくない話題ね」
「申し訳ございません」
「だけど……。聞くべきだと思うわ。……今の私に、何かを選択する権利なんてないもの」
「ユレイナ様……」
「聞かせて?」

 ユレイナが混乱しないため、シブリエはあらかじめ、落ち着かせるように、背中を優しく撫で始めた。
 その懐かしい撫で方に、ユレイナは思わず、身を委ね……。
 気が付けば、シブリエに抱き着いていた。
 
「幸運の女神は、二十二歳の誕生日になると、腕に紋章が出る、というようなことを、信者が言っていましたね?」
「そうね。何度か聞いたわ」
「その紋章が……。ライロットに、出ていたのです」
「え……」

 ……アージリオン教の言っていたことは、本当だったのか。

 もし、自分が、あの時それを信じて、ライロットを連れ戻していれば……。
 こんな混乱は、起きなかった。
 国王は……。死ななかった。

「私のせいだ……」

 再び、泣き始めてしまったユレイナを、シブリエは何度も優しく撫でてやった。
 ユレイナは本来、泣き虫で、甘えん坊で……。
 ……それを慰めるのが、自分の役目だった。
 いつからか、このまま甘やかしていては、ユレイナが大人になることができないのではないかと、突き放していた部分があったかもしれない。

 特に……。王子との婚約が決まってからは。
 ユレイナの暴走を止められなかった原因は、自分にもあるだろう。
 シブリエは、反省しながら、少し涙を流した。
 
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
「……ユレイナ様。まだやり直せます。ヘイサル王子と……ライロットが、きっとこの国を、より良くしてくれますから。私たちも、反省して、罪を償っていきましょう」
「シブリエ……」
「ですから……。泣かないでください。私はそばにいますから」
「……ごめんなさい」
「ごめんなさい。ではなく、ありがとうと言ってください」
「ありがとう……」
「はい」

 ユレイナが……。シブリエの笑顔を見たのは、何年ぶりだろうか。
 自分たちは、昔のような、姉妹に近い関係に……、戻ることができたのかもしれない。

 わがまま令嬢と、口うるさいメイドではなく。

 お互いを必要としていた、あの時のように……。
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