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待ち望んだ帰還
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国王が死んですぐ、王の間にて、会議が行われる予定だった。
しかし、肝心の王子……。ヘイサルの姿が、どこにも見当たらない。
未だ、軍部の各部隊は、けが人の把握や、建物の修繕などで、忙しく動いている。
リオベルが統率を取ろうと努めているが、なかなか混乱は収まらなかった。
「……申し訳ございません。レイドル様」
レイドルの亡骸は、すでに棺桶に入れられている。
床に染みついてしまった血は、落とすのは難しいとのことだった。
長い歴史を持つエージャリオンにおいて……。王の間で、死者が出たのは、初めてのこと。
自分が……。若いせいだろうか。
リオベルは、悔しさを噛み殺すように、唇を噛んだ。
そして、そんなリオベルの横で……。
「ごめんなさい……。許して……」
棺桶にもたれながら、ユレイナが、涙を流している。
時折、リオベルが声をかけるが、小さく頷くだけだった。
「リオベル……。このままでは、何も進まないぞ」
第一部隊の副部隊長であり、リオベルとは旧知の仲である、イザンダが、疲れた様子で、リオベルに言った。
「イザンダ。すまない……。だが、ヘイサル王子の許可無しに、物事を進めるのは不可能だ」
「それはわかっている。しかし、もしこのまま、ヘイサル王子が見つからなければ……。いや、帰ってこなければ、自然、軍部のトップである、お前が国王ということになるだろう。臨時で、指揮を執ってもいいのでは?」
イザンダの言葉に、リオベルは引っかかりを覚えた。
「帰ってこなければ……。というのは?」
「……ヘイサル王子が、キリマール家の所有しているクルーザーに乗っているところを、通りがかりの船が見た。という話が、実はこの混乱の前に、あったんだ」
「そんな……」
「……花屋の娘との噂は、知っているだろう?」
「……」
ヘイサルが、ライロットと親密である。
……確かに、その噂を、リオベルも聞いたことがあった。
しかし、良く聞けば、単に花の話をしているだけ。という証言もある。
「イザンダ、場所を変えよう」
ヘイサルの婚約者の前で、する話では無い。
二人は王の間を出て、あまり人目につかない場所へ移動した。
「では、ヘイサル王子は……。婚約者を捨て、花屋の娘を追いかけたと?」
「単に、船員が見間違えたという可能性もある。だが……。可能性は高いだろう」
「……信じたくはないな」
「リオベル。どちらにせよ、王子を待っている時間は無い。仮でも良いから、君が指揮を――」
「隊長! 隊長はどこに!」
隊員が、リオベルを探しながら、走り回っている。
イザンダは、目で「行け」と合図をした。
「ここにいるぞ」
リオベルが呼びかけると、隊員が息を切らしながら、駆け寄ってきた。
「どうした?」
「ヘ、ヘイサル王子が……。花屋の娘を連れて、戻って参りました!」
「なに……?」
「ここに向かっております!」
「わかった」
……奇跡的なタイミングだ。
あと少し遅ければ、リオベルが、無理にでも指揮を執り……。国王の如く、振る舞わねばならなかったかもしれない。
自分は……。軍部だけで精一杯だ。
国民を動かすことなど、できるわけもない。
「リオベル。今の話は……」
「……あぁ」
リオベルの、ホッとしたような表情を見て、イザンダも微笑んだ。
「お前が国王になれば、俺は……。副国王だったのかもしれないな」
「副国王とは……?」
「冗談だっ」
「っ!」
イザンダが、笑いながら、リオベルの背中を叩いた。
予期せぬ衝撃に、リオベルは数歩、前に出た。
「イザンダ……。悪趣味だぞ」
「ヘイサル王子が、一言……。民よ一つになれ、と申せば、それで終わりだ」
「……そうだな」
リオベルは、肩の荷が下りたかのように、気持ちが軽くなっていた。
やはり、王子の力は偉大だ。
この混乱も……。すぐに収まるだろう。
そして、新たな国王が誕生する。
部隊長である自分も、気を引き締めなければ。
リオベルは、そう決心した。
しかし、肝心の王子……。ヘイサルの姿が、どこにも見当たらない。
未だ、軍部の各部隊は、けが人の把握や、建物の修繕などで、忙しく動いている。
リオベルが統率を取ろうと努めているが、なかなか混乱は収まらなかった。
「……申し訳ございません。レイドル様」
レイドルの亡骸は、すでに棺桶に入れられている。
床に染みついてしまった血は、落とすのは難しいとのことだった。
長い歴史を持つエージャリオンにおいて……。王の間で、死者が出たのは、初めてのこと。
自分が……。若いせいだろうか。
リオベルは、悔しさを噛み殺すように、唇を噛んだ。
そして、そんなリオベルの横で……。
「ごめんなさい……。許して……」
棺桶にもたれながら、ユレイナが、涙を流している。
時折、リオベルが声をかけるが、小さく頷くだけだった。
「リオベル……。このままでは、何も進まないぞ」
第一部隊の副部隊長であり、リオベルとは旧知の仲である、イザンダが、疲れた様子で、リオベルに言った。
「イザンダ。すまない……。だが、ヘイサル王子の許可無しに、物事を進めるのは不可能だ」
「それはわかっている。しかし、もしこのまま、ヘイサル王子が見つからなければ……。いや、帰ってこなければ、自然、軍部のトップである、お前が国王ということになるだろう。臨時で、指揮を執ってもいいのでは?」
イザンダの言葉に、リオベルは引っかかりを覚えた。
「帰ってこなければ……。というのは?」
「……ヘイサル王子が、キリマール家の所有しているクルーザーに乗っているところを、通りがかりの船が見た。という話が、実はこの混乱の前に、あったんだ」
「そんな……」
「……花屋の娘との噂は、知っているだろう?」
「……」
ヘイサルが、ライロットと親密である。
……確かに、その噂を、リオベルも聞いたことがあった。
しかし、良く聞けば、単に花の話をしているだけ。という証言もある。
「イザンダ、場所を変えよう」
ヘイサルの婚約者の前で、する話では無い。
二人は王の間を出て、あまり人目につかない場所へ移動した。
「では、ヘイサル王子は……。婚約者を捨て、花屋の娘を追いかけたと?」
「単に、船員が見間違えたという可能性もある。だが……。可能性は高いだろう」
「……信じたくはないな」
「リオベル。どちらにせよ、王子を待っている時間は無い。仮でも良いから、君が指揮を――」
「隊長! 隊長はどこに!」
隊員が、リオベルを探しながら、走り回っている。
イザンダは、目で「行け」と合図をした。
「ここにいるぞ」
リオベルが呼びかけると、隊員が息を切らしながら、駆け寄ってきた。
「どうした?」
「ヘ、ヘイサル王子が……。花屋の娘を連れて、戻って参りました!」
「なに……?」
「ここに向かっております!」
「わかった」
……奇跡的なタイミングだ。
あと少し遅ければ、リオベルが、無理にでも指揮を執り……。国王の如く、振る舞わねばならなかったかもしれない。
自分は……。軍部だけで精一杯だ。
国民を動かすことなど、できるわけもない。
「リオベル。今の話は……」
「……あぁ」
リオベルの、ホッとしたような表情を見て、イザンダも微笑んだ。
「お前が国王になれば、俺は……。副国王だったのかもしれないな」
「副国王とは……?」
「冗談だっ」
「っ!」
イザンダが、笑いながら、リオベルの背中を叩いた。
予期せぬ衝撃に、リオベルは数歩、前に出た。
「イザンダ……。悪趣味だぞ」
「ヘイサル王子が、一言……。民よ一つになれ、と申せば、それで終わりだ」
「……そうだな」
リオベルは、肩の荷が下りたかのように、気持ちが軽くなっていた。
やはり、王子の力は偉大だ。
この混乱も……。すぐに収まるだろう。
そして、新たな国王が誕生する。
部隊長である自分も、気を引き締めなければ。
リオベルは、そう決心した。
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