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王子
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「誕生日の、ことなんだけど」
「え?」
ヘイサルとライロットは、祭りが始まるまでの間、サンバスタを見て回っていた。
他に誰もいない海辺で、二人は寄り添いながら、波を見ている。
しばらく、お互いに何も言わない時間が続いたが……。ヘイサルが、口を開いた。
「今日は無理だけど、落ち着いたら、何かすごいものを、プレゼントしたいなと思ってる」
「……なにそれ。期待するよ?」
「ははっ。そんなにハードルを上げられると、困るなぁ」
苦笑いをするヘイサルの肩に、ライロットが頭を乗せた。
何も言わずに、ヘイサルは、ライロットの頭を撫でる。
「たった二日で……。あの頃に戻ったみたい」
「そうだね……」
「この紋章の、おかげなのかな……」
ライロットは、自分の腕の紋章を見た。
不思議な形だ。
「二人とも! ここにいましたか!」
クリムの声が聞こえて、ライロットは慌てて体を起こした。
「ク、クリム……。びっくりさせないでよ」
ライロットは、少し笑いながら、そう言ったが――。
クリムの表情は、明らかに曇っていた。
「クリム。何かあったのかい?」
「……先ほど、昼にここへ到着する予定だった客船から、通信がありまして」
呼吸を整えながら、クリムは続ける。
「エージャリオンの王都、プロメリアで……。アージリオン教による暴動が発生している影響で、一旦こちらに来るのは、見送るとのことです」
「暴動……!?」
「はい……」
ライロットは、泣きそうな目で、ヘイサルを見た。
ヘイサルは、ライロットの肩を優しく叩き、立ち上がる。
「クリム。シブリエはどこにいる?」
「えっ……と、祭りの準備を手伝ってくれていますが」
「すぐに呼んできてくれるかな」
「は、はいっ!」
クリムが走ったのと同時に、ヘイサルも歩き出した。
「へ、ヘイサル。まさか……。戻るの?」
「うん……」
「待って!」
ライロットが、ヘイサルの腕を掴み、引き留めた。
「……危ないよ。暴動なんて。巻き込まれたらどうするの?」
「だけど、街の人が心配だ。……君だって、そうだろう? 花屋のことが、心配じゃないのかい?」
「でも……」
「僕を信じて……待っていてくれ」
「嫌だ。それだけは……。もう、離れたくないの」
「ライロット……」
ライロットの脳裏には、孤児院に、大勢の男たちがやってきた時の映像が浮かんでいた。
ヘイサルだけが、違う馬車に乗せられ……。
別れの挨拶すらできないまま、連れて行かれてしまったのだ。
次に再開した時、ヘイサルはもう、王子だった。
ライロットは、より強く、ヘイサルの腕を掴んだ。
「ここにいて……。お願い」
わがままなことを言っている自覚はあった。
しかし、今のライロットは、王子ではなく、ただの一人の国民。
暴動の鎮静は、国に任せておけばいいじゃないか。
そう思う反面、やはり、ヘイサルの言うように、街の人々が心配だった。
「……ライロット。暴動が起きた時、名ばかりとは言え、王子がそこにいなかったら、大変なことになる。容易に想像できるだろう?」
「わかってるよ……」
ヘイサルは、ライロットの頭を撫でた。
ちょうどそこへ、シブリエがやってきた。
「ヘイサル様。向かいましょう」
「あぁ。……ライロット。ここで――」
「私も行く」
「……」
「ライロット。それは危険です。どのような規模で、暴動が起きているかもわからないのに……」
「お願いします」
ライロットが頭を下げると、シブリエはため息をついた。
困ったように、頭を掻き、船着き場へと歩みを進める。
「……一人くらい紛れ込んでも、気が付かないかもしれませんね」
「……ありがとうございます」
「ライロットさん!」
クリムが、ライロットに駆け寄ってきた。
「クリム……」
「……行かれるんですね? プロメリアに」
「うん……。ごめん。せっかくのお祭りなのに、参加できなくて」
「そんなこと、気にしないでください。……待ってますよ。帰って来たら、最高の誕生日パーティ、絶対にしましょうね!」
「ありがとう。クリム」
ライロットとクリムは、抱き合って、別れを告げた。
船着き場に到着し、三人はクルーザーに乗り込んだ。
「ヘイサル……」
ライロットが、ヘイサルの手を握った。
「大丈夫。君がいるから……」
ヘイサルは、その手を握り返し、さらに、もう片方の手を、包み込むように重ねた。
「え?」
ヘイサルとライロットは、祭りが始まるまでの間、サンバスタを見て回っていた。
他に誰もいない海辺で、二人は寄り添いながら、波を見ている。
しばらく、お互いに何も言わない時間が続いたが……。ヘイサルが、口を開いた。
「今日は無理だけど、落ち着いたら、何かすごいものを、プレゼントしたいなと思ってる」
「……なにそれ。期待するよ?」
「ははっ。そんなにハードルを上げられると、困るなぁ」
苦笑いをするヘイサルの肩に、ライロットが頭を乗せた。
何も言わずに、ヘイサルは、ライロットの頭を撫でる。
「たった二日で……。あの頃に戻ったみたい」
「そうだね……」
「この紋章の、おかげなのかな……」
ライロットは、自分の腕の紋章を見た。
不思議な形だ。
「二人とも! ここにいましたか!」
クリムの声が聞こえて、ライロットは慌てて体を起こした。
「ク、クリム……。びっくりさせないでよ」
ライロットは、少し笑いながら、そう言ったが――。
クリムの表情は、明らかに曇っていた。
「クリム。何かあったのかい?」
「……先ほど、昼にここへ到着する予定だった客船から、通信がありまして」
呼吸を整えながら、クリムは続ける。
「エージャリオンの王都、プロメリアで……。アージリオン教による暴動が発生している影響で、一旦こちらに来るのは、見送るとのことです」
「暴動……!?」
「はい……」
ライロットは、泣きそうな目で、ヘイサルを見た。
ヘイサルは、ライロットの肩を優しく叩き、立ち上がる。
「クリム。シブリエはどこにいる?」
「えっ……と、祭りの準備を手伝ってくれていますが」
「すぐに呼んできてくれるかな」
「は、はいっ!」
クリムが走ったのと同時に、ヘイサルも歩き出した。
「へ、ヘイサル。まさか……。戻るの?」
「うん……」
「待って!」
ライロットが、ヘイサルの腕を掴み、引き留めた。
「……危ないよ。暴動なんて。巻き込まれたらどうするの?」
「だけど、街の人が心配だ。……君だって、そうだろう? 花屋のことが、心配じゃないのかい?」
「でも……」
「僕を信じて……待っていてくれ」
「嫌だ。それだけは……。もう、離れたくないの」
「ライロット……」
ライロットの脳裏には、孤児院に、大勢の男たちがやってきた時の映像が浮かんでいた。
ヘイサルだけが、違う馬車に乗せられ……。
別れの挨拶すらできないまま、連れて行かれてしまったのだ。
次に再開した時、ヘイサルはもう、王子だった。
ライロットは、より強く、ヘイサルの腕を掴んだ。
「ここにいて……。お願い」
わがままなことを言っている自覚はあった。
しかし、今のライロットは、王子ではなく、ただの一人の国民。
暴動の鎮静は、国に任せておけばいいじゃないか。
そう思う反面、やはり、ヘイサルの言うように、街の人々が心配だった。
「……ライロット。暴動が起きた時、名ばかりとは言え、王子がそこにいなかったら、大変なことになる。容易に想像できるだろう?」
「わかってるよ……」
ヘイサルは、ライロットの頭を撫でた。
ちょうどそこへ、シブリエがやってきた。
「ヘイサル様。向かいましょう」
「あぁ。……ライロット。ここで――」
「私も行く」
「……」
「ライロット。それは危険です。どのような規模で、暴動が起きているかもわからないのに……」
「お願いします」
ライロットが頭を下げると、シブリエはため息をついた。
困ったように、頭を掻き、船着き場へと歩みを進める。
「……一人くらい紛れ込んでも、気が付かないかもしれませんね」
「……ありがとうございます」
「ライロットさん!」
クリムが、ライロットに駆け寄ってきた。
「クリム……」
「……行かれるんですね? プロメリアに」
「うん……。ごめん。せっかくのお祭りなのに、参加できなくて」
「そんなこと、気にしないでください。……待ってますよ。帰って来たら、最高の誕生日パーティ、絶対にしましょうね!」
「ありがとう。クリム」
ライロットとクリムは、抱き合って、別れを告げた。
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「ヘイサル……」
ライロットが、ヘイサルの手を握った。
「大丈夫。君がいるから……」
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