あなたが剣神になれたのは私のおかげなのに、全く気付いてないんですね。

冬吹せいら

文字の大きさ
6 / 17

異変を感じるミゲル

しおりを挟む
「はああああ!!!」

ミゲル・ゼファーノは、兵士を相手に訓練を行っていた。
剣神である彼に、一般の兵が敵うわけがない――そのはずだった。

「くっ!」

兵に剣を弾かれ、ミゲルはその場に片膝をついた。
体力はすでに限界。まだ三回勝負の二回目だというのに……。

(おかしい……。こんなに息切れすることなんて……)

まるで、教会で剣神と認定される前の自分に、逆戻りしてしまったかのような、体の重さを感じている。

心配した兵が、訓練を中止した。そして、ミゲルを医務室へと運ぶ。

「すまんな……。今日はどうもおかしい」
「ミゲル様は剣神として、あらゆる場所へ遠征されております。疲れるのも当然かと。ゆっくり休まれてください」
「あぁ……」

ベッドに横になったミゲルは、ここ最近のことについて考えていた。

ベネットが国を去り、一週間が経つ。
かつて、その真っ赤な髪に心惹かれ、一目惚れをし、王族の権限を利用して、無理矢理婚約をした相手だ。

嫌いではなかったが、とにかく固い女だった。
部屋に誘っても、何かと理由を付け断る。確かに、まだ夫婦関係にあったわけではない。が……。たかが男爵令嬢が、良い気になるなと。そんな不満は徐々に募っていき……。

やがて、下の妹、レオノンが賢者に目覚めたことが区切りとなって、国外追放を決めた。

偶然だろうが、あの日からとても疲れるようになった。剣神であれば、無限の体力を得ることができ、いくら剣を振っても疲れることはなく、睡眠すら必要としないほど、エネルギーが湧いてくるはずなのに。

今となっては少し走るだけでも、息切れを感じてしまう。何かの病気を疑い、いくつかの医師に話を聞いたが、誰に訊いても、異常は見当たら無いと言われてしまった。

まさか、ベネットが呪いを?
教会に行けば、それを確認してもらえる。が、教会は遠い。腰が重かった。

「お兄様? 大丈夫ですか?」

ベッドで横になっていると、上の妹のフレイアがやってきた。

「体調を崩されたと聞きました。私が祈りを捧げますわ」
「あぁフレイア……。ありがとう」

フレイアが手を組んで、目を閉じた。

そして、祈りを捧げる。
やがて、光がミゲルを包み込んだ。

「……どうでしょうか」
「すごくよくなったよ。ありがとうフレイア」
「それはよかったですわ。早くお兄様の元気な姿を見たいですもの」

ミゲルに手を振って、フレイアは元気に医務室を出て行った。

……今のは嘘だ。全く祈りなんて、効いていない。
きっと、自分の状態が、かなり悪いのだろう。
聖女の祈りが効かないなんてことは、ありえないのだから。

ミゲルは一旦、考えることをやめ、眠ることにした。

目を覚ましたら、また無限のエネルギーを感じられることを願って……。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

わたくしを追い出した王太子殿下が、一年後に謝罪に来ました

柚木ゆず
ファンタジー
 より優秀な力を持つ聖女が現れたことによってお払い箱と言われ、その結果すべてを失ってしまった元聖女アンブル。そんな彼女は古い友人である男爵令息ドファールに救われ隣国で幸せに暮らしていたのですが、ある日突然祖国の王太子ザルースが――アンブルを邪険にした人間のひとりが、アンブルの目の前に現れたのでした。 「アンブル、あの時は本当にすまなかった。謝罪とお詫びをさせて欲しいんだ」 現在体調の影響でしっかりとしたお礼(お返事)ができないため、最新の投稿作以外の感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

処理中です...