婚約破棄は受け入れますが、呪いが発動しますよ?

冬吹せいら

文字の大きさ
2 / 13

呪いの始まり

しおりを挟む
「全く! なんてことはありませんね!」
「ふふっ。その通りだよ」

 サイモンがクレアとの婚約を破棄した翌日の夕方。
 二人は王宮の食堂で食事をしていた。
 
「呪いなんて、やっぱり嘘です。あの不気味な魔女の嫌がらせだったのでしょう」

 今のところ、二人に目だった呪いの効果は表れていなかった。
 ……昨日のように、よく躓く程度である。 

 しかし、食事を進めていたところ――事件は起きた。


「うぅ……」
「どうしたんだいレオナ。顔色が悪いみたいだけど……」
「い、いえ。大丈夫です」
「そうかい……?」

 レオナの様子は、明らかにおかしかった。
 びっしょりと油汗をかき、顔色は青ざめている。

(どうしてかしら……。酷い腹痛が……)

 突然、腹痛が襲い掛かってきたのだ。
 しかし、王宮の食堂にて振る舞われた料理で食あたりを起こしたなど、恥ずかしくて言えるはずがない。
 元よりプライドの高いレオナは、誰かを頼ることができなかった。

「もしかして……。口に合わなかったとか?」
「全くそのようなことはございません。とっても美味しいです」
「う~ん……」

 サイモンの疑いを晴らすために、レオナは必死で食事を続けた。
 すでに、腹痛は限界を超えそうなレベルに達している。

「うぅ……ふっ……」

 とうとう歯を食いしばり始めたので、サイモンは執事を呼んだ。
 薬草などに詳しい、王家専属の治療師が現れ、レオナの症状を目視。

 ……調べるまでもなく、見るからに腹痛を起こしていることは明らかだ。
 腹を抑え、苦しんでいるのだから。
 治療師は無言で、レオナに薬草を溶かした飲み物を手渡した。

「……ありがとうございます」

 さすがに耐え切れなかったのか、レオナはすぐにそれを飲み干した。
 それで楽になるかと思ったが……。
 
 これは『魔女の呪い』の効果である。
 薬草の効果など、ほとんど無いと言ってよかった。

「くぅううう……!」
「レ、レオナ。もういいから。部屋で休んでくれ」
「だい、大丈夫……っですっ……」

 テーブルの上のフォークに必死で手を伸ばし、肉を切り分ける。
 その時だった――。

 ぴちゃぴちゃと、水の音が響く。
 床に……茶色の何かが垂れていた。

「……」
「あっ……ひぅ……」

 レオナは顔を真っ赤にして、俯いている。
 サイモンは再び執事に耳打ちをした。

 数人のメイドが現れて、顔をしかめながら掃除を始める。
 顔を伏せたままのレオナを連れて……部屋を出た。

「驚いたよ……」

 執事と二人きりになったところで、サイモンは呟いた。

「ここまで酷くなる前に、言ってくれれば良かったのに」

 サイモンは自室に戻ろうとした。
 
 しかしそこに、血相を変えた別の執事がやってきた。

「どうしたんだい? そんなに慌てて」
「……工場が崩れました!」
「……え?」

 魔女の呪いは、まだ始まったばかりである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄した王子が見初めた男爵令嬢に王妃教育をさせる様です

Mr.後困る
恋愛
婚約破棄したハワード王子は新しく見初めたメイ男爵令嬢に 王妃教育を施す様に自らの母に頼むのだが・・・

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

何でもするって言うと思いました?

糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました? 王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する

satomi
恋愛
醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。    もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

王家の賠償金請求

章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。 解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。 そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。 しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。 身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。 『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...