婚約破棄は受け入れますが、呪いが発動しますよ?

冬吹せいら

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完全勝利

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「ふふっ……。勝利のワインは格別ね」
「そうですわね。お母様」

 パーティの前に、大部屋にてパルメスとイア―ナがワインを嗜んでいた。
 現在、執事たちがパーティの参加者を集めるために、街を駆け回っている最中である。

「これからは私たちの時代よパルメス。もっと税を上げて、より豊かな暮らしを目指しましょう」
「楽しみですわ。伯爵家も潰してしまえば、もう私たちに逆らう者もきっといないでしょうし……。隣国の王子など、たかが知れています。公爵家の力を恐れ、逃げ出してしまう哀れな男……ふふっ」

 愉快そうに会話を楽しむ二人。
 そこへ、執事がやってきた。

「あら。もう集まったの? 早いわね」
「すぐにお逃げになってください!」
「え?」
「漁師たちが――。ここへ襲いかかってきます!」

 突然の報告に、二人は顔を見合わせる。
 そして、大きな声で笑った。

「これから王家になる公爵家に、どうして喧嘩を売ろと思うのよ」
「その通りですわ。あなたの勘違いでは?」
「ふ、不幸なことに……。漁師のうち一人が、魔力に目覚めたのです」
「……なんですって?」

 公爵家にとっては不幸だが、社会にとっては間違いなく幸運な出来事だった。
 低賃金で働かされている漁師たちに、光が差したのだ。

 ◇

「没落どころではないみたいです」

 公爵家の外にいた、リスターとクレアの二人。
 ずしんずしんと、大きな音を立てながら――。
 巨人が、公爵家の屋敷に向かう様を見つめている。

「非常に強い魔力を感じます。……まさに、不幸な出来事と呼ぶべきでしょう」
「その通りですね。いやはや、魔女であるあなたでも、アレを止めるのは苦労するのでは?」
「巨人になりたてですから……。対抗策はあると思います。――もっとも、敵が共通していますから、争う必要もないのですが」
「あっ……」

 大きな音を立てながら、屋敷が踏みつぶされた。
 その場で足踏みをすることで、あっという間に屋敷は崩壊してしまう。

 巨人が小さくなったので、二人は様子を見に行くことにした。

「いやあぁあああぁっ!!!」

 酷い叫び声がしたので様子を確認すると……。
 パルメスが、涙を流して膝をついていた。

 どうやら彼女だけは、間一髪逃げることができたらしい。

「わりぃが、これまであんたらに歯向かって殺された仲間たちもいる。女、子供、老人……。容赦なく殺してきたあんたらに、生きる資格なんてない」

 漁師が、パルメスを抱えて、どこかに去って行った。

「……一つだけ、言えることがあるのですが」
「なんでしょうか」
「今夜はきっと、眠れないでしょうね」
「夜という時間は、存在しないでしょう」

 少なくとも、王子がここにいてくれて良かったと、クレアは思った。
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