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執事の苦悩
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「なにぃ!? 暗殺者が仕事を断った!?」
クレセンド家当主、ファーマーは、自室で大声を出した。
報告にやってきた執事の顔に、唾が飛ぶほどである。
「なぜだ! 奴らは金のためなら、どんな仕事も断るはずはない!」
「それが、すでにハナンと出くわしたそうでして……。あの悪魔には勝てないと、皆揃って申しております」
「なんということだ……。そんなに強いのか? あの不気味な魔女は」
「……さぁ。全く情報も出て参りませんので」
「なるほどわかったぞ……。金だ」
オズベル家が、なけなしの金を、奴らに支払い、買収したのだろう。
ファーマーはそう考えたが、実際は全く違う。
「我が家よりも多額の報酬を支払うとは……。褒めてやらねばならぬな。いや待てよ? ということは、奴らはここを襲いにやってくるということだろうか」
「その様子もありませんでした。どうも意気消沈。と言った様子でして……」
「ううむ……。事情はよく分からんが。であれば早速、アギーラ家を頼ることとしよう」
「アギーラ家を、でございますか?」
「そうだ。武器の生産を主とする我々に対し、向こうは優秀な軍人を次から次へと世に産み出す名家……。どちらにとっても有益な交渉ができる。つまり、すぐにでも隣国の優秀な戦士たちを、こちらに送り込んでくれるだろうさ」
クレセンド家は武器を貸し、アギーラ家は隣国での名誉を得る。
ファーマーが言いたいのは、そういうことだろう。
しかし……。軍人が金属を手に持ったところで、何人集まろうと同じであることを、まだファーマーは知らないのだ。
ハナンの土魔法で、全員地面に埋められて終わりである。
「ついでに反逆を企てたオズベル家も破壊するのだ。奴らは魔法使いの家系。怪しい噂も山のように抱えておる……。潰れたところで、味方をする国民はいないだろう!」
オズベル家の悪い噂が、全て嘘であるのに対し、クレセンド家の悪い噂は、全て事実である。
この両家の対決は……。始まる前から、勝負が決まっているようなものだ。
それでもファーマーは、そんなこと知る由も無い。大きな声で笑いながら、クレセンド家の面々を磔にし、公衆の面前で処刑する妄想を膨らませていた。
その下品な笑い声に、執事は引きつつ、部屋を後にする。
「あら。お父様の随分と愉快そうな笑い声が聞こえたわ。何かあったのかしら」
執事は、たまたま出くわしてしまったマーシャに、事情を説明した。
すると、マーシャもまた、大きな声で笑い始めた。
「つまり明日、大勢の戦士たちと、私は帰国することになるわけね」
「えっ? 日帰りなのですか?」
「そうよ? 朝の六時に出て、昼過ぎには到着する予定だから」
「隣国の王都までは、馬車で一日かかるはずでは……?」
「それがね? 私と早く会いたいみたいで、こちらの国に近い都市まで、出てきてくれるって言うのよ!」
なるほど。それであれば、兵たちを大勢連れているだろうし、七時間ほどでここまでやって来られるかもしれない。
……こちらに着くのは、夜になる、ということか。
明日くらいは仕事を休めると思って、ワクワクしていた執事だったが。
夜となればきっとパーティが行われる。休みなどないのだろうと理解し、うんざりした。
クレセンド家当主、ファーマーは、自室で大声を出した。
報告にやってきた執事の顔に、唾が飛ぶほどである。
「なぜだ! 奴らは金のためなら、どんな仕事も断るはずはない!」
「それが、すでにハナンと出くわしたそうでして……。あの悪魔には勝てないと、皆揃って申しております」
「なんということだ……。そんなに強いのか? あの不気味な魔女は」
「……さぁ。全く情報も出て参りませんので」
「なるほどわかったぞ……。金だ」
オズベル家が、なけなしの金を、奴らに支払い、買収したのだろう。
ファーマーはそう考えたが、実際は全く違う。
「我が家よりも多額の報酬を支払うとは……。褒めてやらねばならぬな。いや待てよ? ということは、奴らはここを襲いにやってくるということだろうか」
「その様子もありませんでした。どうも意気消沈。と言った様子でして……」
「ううむ……。事情はよく分からんが。であれば早速、アギーラ家を頼ることとしよう」
「アギーラ家を、でございますか?」
「そうだ。武器の生産を主とする我々に対し、向こうは優秀な軍人を次から次へと世に産み出す名家……。どちらにとっても有益な交渉ができる。つまり、すぐにでも隣国の優秀な戦士たちを、こちらに送り込んでくれるだろうさ」
クレセンド家は武器を貸し、アギーラ家は隣国での名誉を得る。
ファーマーが言いたいのは、そういうことだろう。
しかし……。軍人が金属を手に持ったところで、何人集まろうと同じであることを、まだファーマーは知らないのだ。
ハナンの土魔法で、全員地面に埋められて終わりである。
「ついでに反逆を企てたオズベル家も破壊するのだ。奴らは魔法使いの家系。怪しい噂も山のように抱えておる……。潰れたところで、味方をする国民はいないだろう!」
オズベル家の悪い噂が、全て嘘であるのに対し、クレセンド家の悪い噂は、全て事実である。
この両家の対決は……。始まる前から、勝負が決まっているようなものだ。
それでもファーマーは、そんなこと知る由も無い。大きな声で笑いながら、クレセンド家の面々を磔にし、公衆の面前で処刑する妄想を膨らませていた。
その下品な笑い声に、執事は引きつつ、部屋を後にする。
「あら。お父様の随分と愉快そうな笑い声が聞こえたわ。何かあったのかしら」
執事は、たまたま出くわしてしまったマーシャに、事情を説明した。
すると、マーシャもまた、大きな声で笑い始めた。
「つまり明日、大勢の戦士たちと、私は帰国することになるわけね」
「えっ? 日帰りなのですか?」
「そうよ? 朝の六時に出て、昼過ぎには到着する予定だから」
「隣国の王都までは、馬車で一日かかるはずでは……?」
「それがね? 私と早く会いたいみたいで、こちらの国に近い都市まで、出てきてくれるって言うのよ!」
なるほど。それであれば、兵たちを大勢連れているだろうし、七時間ほどでここまでやって来られるかもしれない。
……こちらに着くのは、夜になる、ということか。
明日くらいは仕事を休めると思って、ワクワクしていた執事だったが。
夜となればきっとパーティが行われる。休みなどないのだろうと理解し、うんざりした。
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