弟との婚約を破棄した伯爵令嬢に『泥』を塗り付けてやります。絶対に許しません。

冬吹せいら

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 意気投合したスミリーとレイダー。
 そんな二人に、ハナンは、王都で一番腕効きのシェフを呼び、オズベル家の食堂で豪勢な料理を振る舞うことにした。

「好きなだけ食べて……。好きなだけ愛を深め合うのよ?」
「姉上……」
「……」

 スミリーとレイダーは、顔を赤くして見つめ合う。

 ハナンは慌てて食堂を後にした。
 普段の大食堂ではなく、小人数での食事会をするための食堂であるため、二人きりでも寂しさは感じ辛いだろう。
 
 一仕事終えて、スキップしながら廊下を進んでいたハナン。
 そんなハナンに、血相を変えた執事が駆け寄ってきた。

「どうしたの? そんなに怖い顔をして」
「ク、クレセンド家が、大量の兵を連れて、門の前に……」
「……ちっ」

 可愛い弟と、その恋人となるべき美しい令嬢の食事会を、邪魔するつもり?
 ハナンは、激しい憤りを覚えた。
 
 すぐに門へ向かうと、執事の言った通り……。大量の兵が並んでいた。
 その先頭に、憎らしい顔をしたマーシャと、クレセンド家当主、ファーマーが堂々と立っている。

「ハナン。貴様はどうやら、痛い目を見た方が良いようだな」
「そうよハナン。せっかく警告してあげたのに、わざわざちょっかいをかけてくるあなたが悪いの」
「……そうですね~」

 さて、どうしてやろうか。この馬鹿たちを。
 ハナンは、いくつも復讐の方法を考えていた。
 とりあえず、兵たちは殲滅せねばならない。

「ここは騒ぎになるわ。場所を移しましょう?」
「その必要は無いぞハナン」

 ファーマーが合図をしたところ……。

 突然、火の矢が放たれ始めた。
 ハナンはすぐに、その矢の進む方向を真逆にする。

「ぐあああ!!」
「う、うわぁああ!?」

 大量の火の矢が、加速度を増して兵たちの方向へ。

「話がちげぇじゃないですかぁ当主様ぁ!」

 ファーマーも目を見開き驚いている。
 ハナンはここを攻め時と見た。
 
 兵の身に着けている服を……。土に変える魔法を唱えた。
 
「な、なんだこれぇ!」

 兵たちが慌てふためき、中には逃げ出す者もいた。
 しかし、まだ七割程度残っている……。

 ハナンは、ゴーレムを召喚した。
 五メートルほどの、小さなゴーレムだが、それでも兵たちを怯えさせるには、十分すぎるほどの威圧感を放っていた。

「さぁ。このゴーレムを倒すことができるかしら?」

 勇敢な兵が、数人ゴーレムに突撃したが、もちろんダメージを与えることはできない。
 ゴーレムの剛腕により、丸裸の兵たちが、遥か向こうへ吹き飛ばされて行く。

 そして……。 
 とうとう、マーシャとファーマー以外……誰もいなくなってしまった。

「さぁお二人さん。どうするの? 新たな兵を呼ぶ? それとも……」
「……帰るぞ! マーシャ!」
「は、はいぃい……」

 二人は、尻尾を巻いて、逃げ出した。
 
 大切な食事会を……邪魔されてたまるもんですか。 
 ハナンはゴーレムに、地面に横たわっている兵たちを、街の外に運び出す命令を出し、屋敷の中へと戻って行った。
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