弟との婚約を破棄した伯爵令嬢に『泥』を塗り付けてやります。絶対に許しません。

冬吹せいら

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伯爵令嬢の過ち

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「お父様! あいつめちゃくちゃ強いじゃない!」
「予想外だ……。しかし、慌てることは無い。まだまだ策はある」

 オズベル家の屋敷から帰る道中である。
 完敗であったにも関わらず、まだ抵抗する意思があるらしい。

「正攻法で攻めたところで、奴には勝てん。……クレセンド家は、賢く挑まねばな」
「なになに? 教えてよお父様」
「ははっ……。簡単だよ。人質を取ればいい」
「なるほど! さすがお父様!」
 
 あまりに安直な作戦だった。
 雇っていた暗殺者たちが、すでにハナンに先回りされ、無効化されていたという出来事を、もう忘れてしまったのだろうか……。

 ◇

 翌日、意気揚々と、ハナンは複数人の大柄な男たちを連れて、ガージット家を訪れていた。
 レイダーが、自分と別れてすぐに、この家の令嬢、スミリーと良い関係になり始めたことを、マーシャは知っていた。
 ガージット家のドアをノックする。

 スミリーが、少し怯えた様子で顔を出した。

「マ、マーシャ様……」
「ちょっとこちらにいらっしゃい?」

 伯爵家には逆らえない。
 スミリーはマーシャに連れられ、人目の無い路地裏へと向かう。

 しばらく進んだところで、いきなり振り向いたマーシャが、スミリーの頬を引っ叩いた。

「ムカつくのよ! あんたたちのこと、もう噂になってるじゃない! 私とランバー様の婚約に泥を塗るつもり!?」
「そんなつもりは……」
「ほら! こっちを向きなさいよ!」

 マーシャが……。注射器を取り出した。

「な、な……なんですか? それ」

 震える指で注射器を指差すスミリー。
 マーシャは不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「これを顔面に刺すとね? ぶくぶくに膨れ上がってしまうの。さすがに心優しいレイダーでも、あなたを捨てるでしょうね!」
「いやぁ!」
「こらっ! 逃げるんじゃないわよ! あなたは人質になってもらうの!」

 顔を膨れ上がらせた上に……。人質として拘束するつもりなのか。
 様子を見張っていたハナンは、怒り狂いそうだった。
 注射器は魔法によって、どう頑張っても針を刺せないように細工してある。

 スミリーにも魔法をかけてあり、頬を叩かれたダメージはほとんどない。

 だが……。これ以上黙って見ているわけにはいかなかった。
 次、何か行動すれば、制裁を加える……。
 ハナンは拳を握りしめ、状況を見守った。

 さすがに、あの注射器は脅しのつもりのはず。
 そんな淡い期待は……。すぐに砕かれた。

「くらいなさい! この注射であなたの人生は終わるのよ!!!」
 
 マーシャが、スミリーの顔面に向かって、注射器を突き立てた。

「……もう許さないわ」

 ゆっくりと、ハナンは二人の元へ向かった。
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