弟との婚約を破棄した伯爵令嬢に『泥』を塗り付けてやります。絶対に許しません。

冬吹せいら

文字の大きさ
10 / 14

最後の復讐

しおりを挟む
 次にハナンが向かったのは、クレセンド家。
 見張りの執事たちやメイドたちに事情を説明して、避難させる。
 抵抗する兵たちはゴーレムで脅し、とにかく屋敷から追い出した。

 そして……。当主である、ファーマーの部屋へ。

 突然部屋に入ってきたハナンに、ファーマーは驚き、カップを落としてしまった。
 
「な、なな、なんだ貴様! どうやって入ってきた!」
「そんな話はどうでもいいの。あなた反省してる?」
「誰に口を聞いている……? 私はクレセンド家の当主、ファーマー・クレセンドだぞ!」

 それも……。今日で終わりだけど。
 ハナンは、心の中で呟いた。

「婚約者様は、今どこに?」
「隣国の都市だ。今日マーシャを連れて、隣国の王都を巡ろうと思っておってな。まぁ、元婚約者の姉である貴様には関係の無い話だが」
「あらあら。それは残念。あなたの娘さん、顔面のコンディションが最悪なのよ」
「……はぁ?」

 いきなりこいつは、何を言い出したのだろう。
 マーシャの現状を知らないファーマーは、疑問を持った。

 それよりも、目の前の娘の態度に、怒りが収まらない。

「婚約者は侯爵家の令息だ。軍人の家系であるから、兵器も動かせる。……オズベル家の屋敷を破壊してやるからな!」
「同じようなことを、あのブサイク令嬢も言っていたわね……」
「ブサイク!? 私の可愛い娘のことを侮辱しおって……!」

 これ以上話していると、気分が滅入る。
 ハナンはファーマーを魔法で動けなくして、ゴーレムに運ばせた。

「や、やめろ! 離せ! なんだこいつ!」

 そして、屋敷の外へ。
 立派な屋敷だ。伯爵家ともなれば、当然とも言えるだろう。

「ファーマー。見える?」
「何がだ……」
「あなたの家よ。目の前にあるでしょう?」
「それがどうしたと言うのだ」

 ハナンは……。お得意の土魔法を使った。

 ドロドロと……。屋敷が泥に変わっていく。

「あ、あぁ……」

 ファーマーは絶望で、言葉が出てこなかった。

「どう? クレセンド家が大事に守ってきた家が……。ただの泥に変わってしまったけれど」
「貴様ぁ……!」

 ファーマーの目が血走っている。
 しかし、身体が動かないので、何の抵抗もできなかった。

「冗談よ。私は優しいから、新しく家を建ててあげるわ」

 今度は泥を固めていき、大きな建物へと形を変えていく。
 やがて、出来上がったそれは……。

 巨大な犬小屋だった。

「どう? 気に入った? 人間並みの知能を持ち合わせていないクレセンド家には、とってもお似合いだと思うのだけれど」
「……」

 ファーマーの怒りは、綺麗に消え去ってしまった。
 悪魔のような魔女に対する、恐怖の感情のみ。

 あまりの出来事に、ファーマーは気を失ってしまった……。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

悪役令嬢カタリナ・クレールの断罪はお断り(断罪編)

三色団子
恋愛
カタリナ・クレールは、悪役令嬢としての断罪の日を冷静に迎えた。王太子アッシュから投げつけられる「恥知らずめ!」という罵声も、学園生徒たちの冷たい視線も、彼女の心には届かない。すべてはゲームの筋書き通り。彼女の「悪事」は些細な注意の言葉が曲解されたものだったが、弁明は許されなかった。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。 しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。 その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。 どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。 そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが…… 一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。 当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。

婚約破棄されましたが気にしません

翔王(とわ)
恋愛
夜会に参加していたらいきなり婚約者のクリフ王太子殿下から婚約破棄を宣言される。 「メロディ、貴様とは婚約破棄をする!!!義妹のミルカをいつも虐げてるらしいじゃないか、そんな事性悪な貴様とは婚約破棄だ!!」 「ミルカを次の婚約者とする!!」 突然のことで反論できず、失意のまま帰宅する。 帰宅すると父に呼ばれ、「婚約破棄されたお前を置いておけないから修道院に行け」と言われ、何もかもが嫌になったメロディは父と義母の前で転移魔法で逃亡した。 魔法を使えることを知らなかった父達は慌てるが、どこ行ったかも分からずじまいだった。

「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました

ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」  王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。  誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。 「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」  笑い声が響く。  取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。  胸が痛んだ。  けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。

処理中です...