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浅はかな伯爵家。
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「アリア・テスタロト! 君との婚約を破棄する!」
私の婚約者である、伯爵家の令息――ローイ・ランドルフ様が、大げさな得意顔で宣言なさいました。
「……このような、人目に付く庭で、申すことでしょうか」
「うるさい。どうせ婚約を破棄するのだから、関係無い」
はぁ。今日は風が心地良い、快晴でしたのに。
よりにもよって、こんな日に嵐を起こさなくても良いでしょう。
「婚約を破棄すると、そう聞こえたのですが」
「あぁ。そう言ったよ」
ローイ様が、指を鳴らすと……。
ランドルフ家の使用人が、一人の女性を連れて参りました。
「紹介しよう。彼女の名前はマリナ。隣国の伯爵家の令嬢さ」
「ごきげんよう。マリナ・マキベルです」
二人は嬉しそうに目を見合わせて……。
あろうことか、私の目の前でキスをしたのです。
なんてはしたない……。
「マリナはとっても素敵な人だ。君とは違ってね」
「私が、何か気に障るようなことを?」
「とぼけないで。ローイ様に、散々なことを言ったのでしょう?」
「あなたではなく、ローイ様に聞いたのですよ?」
私がそう言うと……。
マリナ様は、テーブルを強く叩きました。
……本当に、ご令嬢?
みっともなくて、恥ずかしくなります。
「ローイ様は! あなたにすっごくすっごく傷つけられたの! だから、これからは私が、その傷をたっぷりと癒してみせますわ!」
「……何事か知りませんが」
私は紅茶を一口飲んで……。
ローイ様を、見つめました。
「婚約破棄をするということは、どういうことか、ご存じで?」
「もちろんもちろん。……逆に、僕の方から尋ねたいと思っていたくらいだよ」
「ほぉ。それはつまり?」
「……すでに、侯爵家の領土には、たっぷりと我が伯爵家の建設した建物が並んでいる。移住もスムーズに行われているんだ。皆まで言わなくても、わかるだろう?」
要するに。
侵略が成功したと言いたいのでしょう。
思わず笑ってしまいそうになりますが。
――正直、こうなることは予測していました。
ランドルフ伯爵家が、お金に困っていること。
様々な悪事を、秘密裏に働いていること。
さらには――。
今、隣にいるマリナ様の、マキベル家の悪評でさえ、知り尽くしているのです。
最初から、潰しても良かったのですが――。
こう言った出来事は、できるだけ大きな規模にした方が、名前が知れ渡ります。
テスタロト家に喧嘩を売ると、どうなってしまうのか――。
あらゆる貴族の耳に届かせるため、あえて騙されているフリをしていたのです。
「どうした? 言葉も出ないか?」
……ふぅ。
ようやく、笑いを噛み潰すことに成功致しましたわ。
「婚約破棄をなさるのなら、明日、家同士で話し合いましょう。それでよろしくて?」
「もちろん。今日で君の侯爵令嬢人生も終わりだね……。せいぜい楽しむが良いさ!」
「うふふ。一体どこの僻地に飛ばされるのかしらね。あなたみたいな最低で最悪の女は――地獄の果てがお似合いよ」
よくもまぁ初対面の人間に、ここまで敵意をむき出しにできますね。
ローイ様に、何を吹き込まれたのかは知りませんが……。
……盲目的に人を信じるということの怖さを、身をもって知ることができる、良い機会になるでしょう。
◇
「順調ですね……父上」
「全くだ。よくやったぞローイ。あの馬鹿な侯爵家を、すっかり騙し込むことができた。お前のおかげだ」
勝利のワインは、格別の味だ……。
明日、いよいよ僕は、アリアとの婚約を破棄する。
そして、アンナと婚約を結び直すのだ。
マリナを騙してしまったのは心苦しいけれど、計画のためだから仕方無い。
侯爵家の令嬢、アリアと偽装婚約し――。
領地をある程度奪ったところで、破棄する。
これで、侯爵家はへばって、土地は僕たちのものになる!
完璧な作戦だ!
「ローイ。お前の部屋に、婚約に関しての書類があるだろう? あれを破くことで、婚約も破棄されるのだ」
父上が、ビリビリと紙を破く素振りを見せてきた。
「目の前で……ビリっとな!」
「あはは! さすがです父上!」
明日が待ち遠しい。
これからランドルフ家は、大きな領土を持つことになる。
たくさんの領民と……。
……ちょっぴりの犯罪。
アリアの悪態を世に知らしめることで、きっと国の人々の評価も得られるようになるだろう。
ランドルフ家の将来は安泰だ!
◇
翌日。
我が屋敷を訪れたローイを、別の部屋へと案内しました。
「なんだいアリア。もし、頭を下げたとしても、僕は許さないよ?」
「二人きりでないと、恥をかくと思ったのですよ」
「……あぁ。そうかい」
どうやら、私が恥をかく。そう思ったと勘違いしているみたいですね。
言うまでもなく、恥をかくのはあなたですよ。ローイ・ランドルフ。
あのやかましい令嬢から距離を取りたかったという、もう一つの理由もありますが――。
本題は、やはりこの男に、恥をかかせること。
心をへし折ってあげます。
ふふっ。覚悟してくださいね?
部屋に移動してからすぐ、私は婚約の際に署名をした書類を取り出しました。
ローイも、同じものを持っています。
「さて。ローイ様。こちらの書類、ちゃんとお読みになりましたか?」
「は? 書類? そんなの読んでいるわけないだろう」
「あらあら……」
「……なんだい? その態度は」
ローイ様が、いらついたように貧乏ゆすりをしています。
子供っぽいったらありゃしない。
「これは――婚約のための書類ではなく、単なる契約書類だったのです」
「……は?」
私の婚約者である、伯爵家の令息――ローイ・ランドルフ様が、大げさな得意顔で宣言なさいました。
「……このような、人目に付く庭で、申すことでしょうか」
「うるさい。どうせ婚約を破棄するのだから、関係無い」
はぁ。今日は風が心地良い、快晴でしたのに。
よりにもよって、こんな日に嵐を起こさなくても良いでしょう。
「婚約を破棄すると、そう聞こえたのですが」
「あぁ。そう言ったよ」
ローイ様が、指を鳴らすと……。
ランドルフ家の使用人が、一人の女性を連れて参りました。
「紹介しよう。彼女の名前はマリナ。隣国の伯爵家の令嬢さ」
「ごきげんよう。マリナ・マキベルです」
二人は嬉しそうに目を見合わせて……。
あろうことか、私の目の前でキスをしたのです。
なんてはしたない……。
「マリナはとっても素敵な人だ。君とは違ってね」
「私が、何か気に障るようなことを?」
「とぼけないで。ローイ様に、散々なことを言ったのでしょう?」
「あなたではなく、ローイ様に聞いたのですよ?」
私がそう言うと……。
マリナ様は、テーブルを強く叩きました。
……本当に、ご令嬢?
みっともなくて、恥ずかしくなります。
「ローイ様は! あなたにすっごくすっごく傷つけられたの! だから、これからは私が、その傷をたっぷりと癒してみせますわ!」
「……何事か知りませんが」
私は紅茶を一口飲んで……。
ローイ様を、見つめました。
「婚約破棄をするということは、どういうことか、ご存じで?」
「もちろんもちろん。……逆に、僕の方から尋ねたいと思っていたくらいだよ」
「ほぉ。それはつまり?」
「……すでに、侯爵家の領土には、たっぷりと我が伯爵家の建設した建物が並んでいる。移住もスムーズに行われているんだ。皆まで言わなくても、わかるだろう?」
要するに。
侵略が成功したと言いたいのでしょう。
思わず笑ってしまいそうになりますが。
――正直、こうなることは予測していました。
ランドルフ伯爵家が、お金に困っていること。
様々な悪事を、秘密裏に働いていること。
さらには――。
今、隣にいるマリナ様の、マキベル家の悪評でさえ、知り尽くしているのです。
最初から、潰しても良かったのですが――。
こう言った出来事は、できるだけ大きな規模にした方が、名前が知れ渡ります。
テスタロト家に喧嘩を売ると、どうなってしまうのか――。
あらゆる貴族の耳に届かせるため、あえて騙されているフリをしていたのです。
「どうした? 言葉も出ないか?」
……ふぅ。
ようやく、笑いを噛み潰すことに成功致しましたわ。
「婚約破棄をなさるのなら、明日、家同士で話し合いましょう。それでよろしくて?」
「もちろん。今日で君の侯爵令嬢人生も終わりだね……。せいぜい楽しむが良いさ!」
「うふふ。一体どこの僻地に飛ばされるのかしらね。あなたみたいな最低で最悪の女は――地獄の果てがお似合いよ」
よくもまぁ初対面の人間に、ここまで敵意をむき出しにできますね。
ローイ様に、何を吹き込まれたのかは知りませんが……。
……盲目的に人を信じるということの怖さを、身をもって知ることができる、良い機会になるでしょう。
◇
「順調ですね……父上」
「全くだ。よくやったぞローイ。あの馬鹿な侯爵家を、すっかり騙し込むことができた。お前のおかげだ」
勝利のワインは、格別の味だ……。
明日、いよいよ僕は、アリアとの婚約を破棄する。
そして、アンナと婚約を結び直すのだ。
マリナを騙してしまったのは心苦しいけれど、計画のためだから仕方無い。
侯爵家の令嬢、アリアと偽装婚約し――。
領地をある程度奪ったところで、破棄する。
これで、侯爵家はへばって、土地は僕たちのものになる!
完璧な作戦だ!
「ローイ。お前の部屋に、婚約に関しての書類があるだろう? あれを破くことで、婚約も破棄されるのだ」
父上が、ビリビリと紙を破く素振りを見せてきた。
「目の前で……ビリっとな!」
「あはは! さすがです父上!」
明日が待ち遠しい。
これからランドルフ家は、大きな領土を持つことになる。
たくさんの領民と……。
……ちょっぴりの犯罪。
アリアの悪態を世に知らしめることで、きっと国の人々の評価も得られるようになるだろう。
ランドルフ家の将来は安泰だ!
◇
翌日。
我が屋敷を訪れたローイを、別の部屋へと案内しました。
「なんだいアリア。もし、頭を下げたとしても、僕は許さないよ?」
「二人きりでないと、恥をかくと思ったのですよ」
「……あぁ。そうかい」
どうやら、私が恥をかく。そう思ったと勘違いしているみたいですね。
言うまでもなく、恥をかくのはあなたですよ。ローイ・ランドルフ。
あのやかましい令嬢から距離を取りたかったという、もう一つの理由もありますが――。
本題は、やはりこの男に、恥をかかせること。
心をへし折ってあげます。
ふふっ。覚悟してくださいね?
部屋に移動してからすぐ、私は婚約の際に署名をした書類を取り出しました。
ローイも、同じものを持っています。
「さて。ローイ様。こちらの書類、ちゃんとお読みになりましたか?」
「は? 書類? そんなの読んでいるわけないだろう」
「あらあら……」
「……なんだい? その態度は」
ローイ様が、いらついたように貧乏ゆすりをしています。
子供っぽいったらありゃしない。
「これは――婚約のための書類ではなく、単なる契約書類だったのです」
「……は?」
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