偽物聖女を愛した国は滅びて当然です。

冬吹せいら

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エルモバルア 崩壊

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シーシアは憤慨していた。リーマスと、その母であるエメルが、国を脱走したのだ。

「どうしてくれるのよ!バンリスト!」
「申しわけございません……」

バンリストは、サンティーカの国王である。シーシアがこの国へ嫁いだ経緯などから、シーシアに対して、頭が上がらなかった。

「ふんっ。まぁいいわ。お父様からさっき連絡があったの。彼女の両親を囮にして、おびき寄せて……。私が殺す!」
「な、なぜシーシア様が自ら?」
「そんなの決まってるじゃない!聖女の」

そこまで言いかけて、シーシアは口を閉じた。聖女の力が無いことを、自らバラすところだったが、なんとか止めることができた。

「……とにかく!兵を引き連れて、エルモバルアに向かうわ!団長は?」
「……リーマスでございます」
「あ~もう!じゃあいいわ!今日から団長は私!」
「ま、まことですか?失礼ながらシーシア様。剣は」
「触ったことないわよ。でも、団長ってどうせ戦わないじゃない。指示を出すだけなら、私だってできるもの」
「……」

バンリストは、ため息を飲み込んだ。この聖女は、考えが甘すぎる。

「すぐに兵を集めなさい!五分後に出発よ!遅れた奴は死刑!いいわね!」
「はい……」

まるでメイドのように指示されたバンリストは、急いで兵士の宿舎へ向かった。


☆ ☆ ☆

「……よく来たのう。サンダルシア。もとい、偽物の聖女よ」

エルモバルアに着いた私は、唖然とした。

城下町の一番目立つ広場。そこに、私の両親がはりつけにされている。

どうやら酷く暴行をうけたらしく、今は気絶している状態だ。その付近には、大きな松明を持った兵士が数人、構えている。

「今すぐ自分を偽物であると認めれば、両親を解放してやろう。しかし、逆らえば……。塵となる」
「貴様……。卑怯な真似を」

怒りを露わにしたリルを、リーマスが手で制した。

「べリオル様。お言葉ですが、もし彼女が本物の聖女であった場合、逆にあなた方が大罪を犯したこととなり、必ずや神の裁きを受けることになりますが……。それは了承されていますか?」
「くっ……。戯言を!おいサンダルシア!両親が燃えるぞ!よいのか!」
「……サンダルシア様。どうぞ」
「……はい」

私は両手を組んで、祈りを捧げた。

この国の悪が……。敵意が……。全て神の怒りに触れ、裁かれますように。

……両親を、救いたい!

「なっ……」

べリオルと、兵士の動きが固まった。目玉と口だけが、せわしなく動いている。

「成功だ……。リル!二人を助けるぞ!」
「あぁ!」

リルとリーマスが、素早い手つきで両親を救いだしてくれた。

すぐに私は、二人の体を撫でて、回復させた。

「……んん。あれ。サンダルシア。どうしてここに」
「お父様!」
「あれぇ……?私、こんなところで寝ちゃったの?」
「お母様も……!あぁ!ご無事でよかった!」
「え?あ、そっか、私たち……」

状況を理解した両親は、私を優しく抱きしめてくれた。

「サンダルシア。よかった。心配したんだよ?」
「わ、私の方が心配しましたよ!」
「ふふ……」
「……二人とも、ありがとうございます。あなたたちのおかげで、両親を救うことができました」
「いえ、私はただ、聖女様の力を信じただけです」
「……えっと」

あ……そうか。リルは、私の両親に会うのは、初めてだっけ。

「ぼ、僕がその……、サンダルシア様と結婚した、リルビーです。リルと呼んでください」
「リルか……。サンダルシア、可愛いだろう?」
「はい。すごく」
「ちょっとリル……」

顔が赤くなってしまう。幸せなひと時だ。

「おおい貴様ら!いつまで我らをこのような状態にしておくつもりじゃ!!!」

……あぁ。忘れていた。

「リル、どうしようね。あの人たち」
「そのままでよいのでは?本当に反省すれば、きっと動けるようになるはずです」
「そうですね。行きましょう。ダントレイの民が待っていますから」
「そ、そんな!おいサンダルシア!聖女様ああ!!!」

無様な叫び声を無視して、私たちは……。二度と来ることはないであろう、エルモバルアを後にした。
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