「君の話はつまらない」と言われて婚約を破棄されましたが、本当につまらないのはあなたの方ですよ。

冬吹せいら

文字の大きさ
1 / 15

つまらない令息

しおりを挟む
「君といると本当に退屈でつまらないんだ」

 ここは、リベルトン公爵家のとある一室。
 令息のハメッド・リベルトンが、ワインの入ったグラスを揺らしながら、そんなことを言い放った。

「……それが言いたくて、私を呼び出したのですか?」

 答えたのは、アリスベル伯爵家の令嬢――リゼッタ・アリスベル。
 十六歳にしてブクブクと太っているハメッドと違って、同い年のリゼッタは背も高く、気品のある美しい令嬢だ。

 容姿としては明らかに不釣り合いな二人であったが、政略結婚のために婚約を結んでいる。
 
「もちろんそれだけじゃないさ。……君との婚約を破棄しようと思ってね」
「……は?」

 ……たった今、その婚約が破棄されようとしていた。
 リゼッタは戸惑いの表情を見せるが、ハメッドは当たり前とでも言いたそうな様子で、呑気にワインを飲んでいる。

「君の話はつまらない。それに、全く笑わないじゃないか。そんな人と二人で過ごしていくなんて、僕は嫌だよ」
「……私なりに、考えて過ごしてきたつもりですが?」
「考えていて……。あの程度なんだね。君は公爵家令息の婚約者なんだよ? 常に僕に媚びて何をしても褒めたたえるべきじゃないか?」

 罵詈雑言が跳び出しそうになるのを、ぐっとこらえて、リゼッタは苦笑した。

「しかしですね。例えば先日の件を例に挙げてみましょうか。ハメッド様は私を呼び出し、何事かと思えば……。小鳥のさえずりがとっても美しいから、一緒に聞かないかい? なんて提案をなさったのです。私はそれなりに忙しい日でしたのに」
「おっと。まさか反論してくるとは思わなかったよ」

 いちいち鼻につく態度を取るので、リゼッタの怒りのボルテージは上がり続けてしまう。

 婚約してからというもの、とにかくハメッドはつまらないことを押し付けてくる人間だった。

 小鳥のさえずりの件もそう。
 他にも挙げればキリがない。
 夜中に家まで押しかけてきて、蟻の巣を一緒に壊さないか? だとか……。
 あるいは、一緒に食事をしていても、いきなり、椅子の形が綺麗だから一緒にデッサンしよう! だとか……。

 人間、何を食べて、どんな生活を送れば、こんなにもつまらないことが要求できるのだろうと、リゼッタは不思議でならなかったのだ。

 それでも政略結婚だからと耐えていた。
 ――にも関わらず、『お前がつまらないから婚約破棄』だなんて言われたら、腹が立つに決まっている。

「普通はね。公爵令息に怒られたら、大人しく土下座して許しを乞うものだよ」
「土下座……?」

 耳を疑う要求だった。
 さすがのリゼッタも、怒りが抑えきれなくなっている。

 ちょうどそのタイミングで、ドアがノックされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~

希羽
恋愛
​「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」 ​才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。 ​しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。 ​無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。 ​莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。 ​一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄ですって?私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?

花見 有
恋愛
「ダーシャ!お前との婚約を破棄する!!」 伯爵令嬢のダーシャ・パレデスは、婚約者であるアーモス・ディデス侯爵令息から、突然に婚約破棄を言い渡された。 婚約破棄ですって?アーモス様は私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」 わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。 ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。 驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。 ※話自体は三人称で進みます。

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

処理中です...