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つまらない令息
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「君といると本当に退屈でつまらないんだ」
ここは、リベルトン公爵家のとある一室。
令息のハメッド・リベルトンが、ワインの入ったグラスを揺らしながら、そんなことを言い放った。
「……それが言いたくて、私を呼び出したのですか?」
答えたのは、アリスベル伯爵家の令嬢――リゼッタ・アリスベル。
十六歳にしてブクブクと太っているハメッドと違って、同い年のリゼッタは背も高く、気品のある美しい令嬢だ。
容姿としては明らかに不釣り合いな二人であったが、政略結婚のために婚約を結んでいる。
「もちろんそれだけじゃないさ。……君との婚約を破棄しようと思ってね」
「……は?」
……たった今、その婚約が破棄されようとしていた。
リゼッタは戸惑いの表情を見せるが、ハメッドは当たり前とでも言いたそうな様子で、呑気にワインを飲んでいる。
「君の話はつまらない。それに、全く笑わないじゃないか。そんな人と二人で過ごしていくなんて、僕は嫌だよ」
「……私なりに、考えて過ごしてきたつもりですが?」
「考えていて……。あの程度なんだね。君は公爵家令息の婚約者なんだよ? 常に僕に媚びて何をしても褒めたたえるべきじゃないか?」
罵詈雑言が跳び出しそうになるのを、ぐっとこらえて、リゼッタは苦笑した。
「しかしですね。例えば先日の件を例に挙げてみましょうか。ハメッド様は私を呼び出し、何事かと思えば……。小鳥のさえずりがとっても美しいから、一緒に聞かないかい? なんて提案をなさったのです。私はそれなりに忙しい日でしたのに」
「おっと。まさか反論してくるとは思わなかったよ」
いちいち鼻につく態度を取るので、リゼッタの怒りのボルテージは上がり続けてしまう。
婚約してからというもの、とにかくハメッドはつまらないことを押し付けてくる人間だった。
小鳥のさえずりの件もそう。
他にも挙げればキリがない。
夜中に家まで押しかけてきて、蟻の巣を一緒に壊さないか? だとか……。
あるいは、一緒に食事をしていても、いきなり、椅子の形が綺麗だから一緒にデッサンしよう! だとか……。
人間、何を食べて、どんな生活を送れば、こんなにもつまらないことが要求できるのだろうと、リゼッタは不思議でならなかったのだ。
それでも政略結婚だからと耐えていた。
――にも関わらず、『お前がつまらないから婚約破棄』だなんて言われたら、腹が立つに決まっている。
「普通はね。公爵令息に怒られたら、大人しく土下座して許しを乞うものだよ」
「土下座……?」
耳を疑う要求だった。
さすがのリゼッタも、怒りが抑えきれなくなっている。
ちょうどそのタイミングで、ドアがノックされた。
ここは、リベルトン公爵家のとある一室。
令息のハメッド・リベルトンが、ワインの入ったグラスを揺らしながら、そんなことを言い放った。
「……それが言いたくて、私を呼び出したのですか?」
答えたのは、アリスベル伯爵家の令嬢――リゼッタ・アリスベル。
十六歳にしてブクブクと太っているハメッドと違って、同い年のリゼッタは背も高く、気品のある美しい令嬢だ。
容姿としては明らかに不釣り合いな二人であったが、政略結婚のために婚約を結んでいる。
「もちろんそれだけじゃないさ。……君との婚約を破棄しようと思ってね」
「……は?」
……たった今、その婚約が破棄されようとしていた。
リゼッタは戸惑いの表情を見せるが、ハメッドは当たり前とでも言いたそうな様子で、呑気にワインを飲んでいる。
「君の話はつまらない。それに、全く笑わないじゃないか。そんな人と二人で過ごしていくなんて、僕は嫌だよ」
「……私なりに、考えて過ごしてきたつもりですが?」
「考えていて……。あの程度なんだね。君は公爵家令息の婚約者なんだよ? 常に僕に媚びて何をしても褒めたたえるべきじゃないか?」
罵詈雑言が跳び出しそうになるのを、ぐっとこらえて、リゼッタは苦笑した。
「しかしですね。例えば先日の件を例に挙げてみましょうか。ハメッド様は私を呼び出し、何事かと思えば……。小鳥のさえずりがとっても美しいから、一緒に聞かないかい? なんて提案をなさったのです。私はそれなりに忙しい日でしたのに」
「おっと。まさか反論してくるとは思わなかったよ」
いちいち鼻につく態度を取るので、リゼッタの怒りのボルテージは上がり続けてしまう。
婚約してからというもの、とにかくハメッドはつまらないことを押し付けてくる人間だった。
小鳥のさえずりの件もそう。
他にも挙げればキリがない。
夜中に家まで押しかけてきて、蟻の巣を一緒に壊さないか? だとか……。
あるいは、一緒に食事をしていても、いきなり、椅子の形が綺麗だから一緒にデッサンしよう! だとか……。
人間、何を食べて、どんな生活を送れば、こんなにもつまらないことが要求できるのだろうと、リゼッタは不思議でならなかったのだ。
それでも政略結婚だからと耐えていた。
――にも関わらず、『お前がつまらないから婚約破棄』だなんて言われたら、腹が立つに決まっている。
「普通はね。公爵令息に怒られたら、大人しく土下座して許しを乞うものだよ」
「土下座……?」
耳を疑う要求だった。
さすがのリゼッタも、怒りが抑えきれなくなっている。
ちょうどそのタイミングで、ドアがノックされた。
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