オーシャンエッジプロジェクト プロミネンス 

sin art

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4話 船底の囚人

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 船底にある収容施設へと続く通路の入り口で、エドガーは立ち止まった。暗闇に包まれた先を見据え、手元のランタンに手を伸ばす。



「船底は真っ暗か……仕方ないな」


 小さく呟きながら、エドガーはランタンのスイッチを入れた。ぼんやりとした光が周囲を照らし、金属製の壁に淡い影を作り出す。

 貨物船を襲撃した潜水艦から投げ出され、見捨てられた5人の兵士がそこに収容されていた。エドガーは無言で足を進めながら、薄暗い通路に漂う機械油の匂いを感じ取った。マリアもまた、わずかに眉をひそめる。



「エドガー艦長、入るときには…」 


マリアがエドガーに入室時の確認をする。 

「ああ、わかっている」 


 船底は暗闇に包まれていた。潜水艦との戦闘の衝撃で電力供給が損傷し、照明は機能していなかった。

 非常灯の回路も焼き切れ、復旧には時間がかかる。上層部の電力を優先するため、船底は完全に暗闇に閉ざされていた。



 エドガーはランタンのライトを点けた。暗闇に淡い光が広がり、ぼんやりと施設の扉が浮かび上がる。船底には5つの収容施設があり、そのうちの1つに兵士たちが収容されていた。


 監視窓越しに中をそっと覗くと、兵士たちは肩を落としうなだれている。



「艦長のエドガーだ。入るぞ」


 その声にびくっとなり、兵士たちは背筋を伸ばす。 エドガーがセンサーに手を触れると、扉の枠が青く光り、ガチャリと鍵の開く音がした。マリアが重い扉を開けると、結束バンドで縛られた兵士たちが背中合わせに座っていた。



 エドガーは兵士の数を目で数える。――4人。やはり、予想通りだった。


 彼は眉をひそめ、短く息をつく。この状況は想定内。しかし、それでも警戒を解くことはない。

 マリアと視線を交わす。彼女もまた、わずかに頷いた。


 兵士たちは沈黙し、どこか落ち着かない様子で互いの顔を伺っている。捕虜としての立場以上に、彼らは何かを隠している。エドガーはその動揺の理由を理解していた。


「……やはり、ですわね。艦長」


 マリアの言葉に、エドガーはわずかに笑みを浮かべた。



「そうだな。マリア、頼むぞ」

「はい。了解いたしました」



 エドガーとマリアが中に入ると、天井近くの鉄パイプに1人の兵士が身を潜めるようにしてしがみついていた。

彼は他の兵士たちとは違い、明らかに洗練された動きで、鍛え上げられた肉体が、彼が単なる雇われではなく、何者かの直属の兵士であることを示していた。


 エドガーとマリアが十分に部屋に入り、注意を兵士たちに向けた瞬間、彼は鋭い叫びとともに飛び降りエドガーとマリアに襲ってきた。




「お前らはここで終わりだ!!」



 襲ってきた兵士は、見た目がか弱そうなマリアを標的にする。 

しかし、マリアは一瞬、兵士の目の奥に焦りと必死さを見た。


――逃げ場を失った獣のような目。


彼がなぜこんな無謀な行動に出たのかを察しつつも、マリアは迷いなく動いた。



素早く兵士の腕を掴み、流れるような動作で関節を極める。



 男は抵抗しようとしたが、あっという間にマリアの技に絡め取られる。重力に引かれるように顔面から床へ叩きつけられ、ゴキィ!という音とともに肩が外れた。



「…うがぁ!!」


 兵士は床に叩きつけられた衝撃と、マリアに極められた関節技、さらに肩の激痛でうめき声を上げるしかなかった。

「おいおい、ずいぶん手荒だな……。」


エドガーは哀れみの目を兵士に投げかける。



「生きていたいなら、大人しくしておくことね」

 マリアは冷ややかに兵士の耳元にささやくと、指に仕込んでいた麻酔針を首に打ち込んだ。


「むぎゅ」



 兵士は情けない声を出し、徐々に膝から力が抜け、土下座したような格好で突っ伏した。


「とまあ、抵抗するとこういうことになるから気を付けてくれ」


 エドガーは残りの兵士たちに向き直り、注意を促す。兵士たちはぐったりと倒れた仲間と互いの顔を見合わせ、青ざめた。


「お前たちはどうせ雇われだろうが、俺たちが護衛するはずだった貨物船を沈めた罪は重い。」

 エドガーは兵士たちを見渡し、静かに言葉を続けた。



「そして……お前たちの中には、ただの雇われではない者もいるようだな。」

 一瞬の沈黙が流れる。

「だが、艦に見捨てられたということは、雇い主にとっても不要になったということだろう。」


 エドガーは冷ややかに告げる。



「この船はオーシャンエッジに向かっている。到着したら、お前たちは当局に引き渡す。それまで大人しくしていろ。」


 涙目になる男3人と女1人の兵士たち。


「接見は終了だ。その麻酔もじきに効果が消えて目が覚めるはずだ。三度の飯は保証してやる。しばらくおとなしくしてろ」




 エドガーは兵士たちに忠告し、部屋を後にした。マリアもエドガーとともに部屋を出るが、去り際に冷酷な視線を兵士たちに向け、「次はない」という無言の警告を刻みつける。

 

部屋の中には麻酔で動けなくなった兵士1人と、互いに背中を寄せ合う男女4人の兵士だけが残った。エドガーたちが部屋を出て、ガチャリと鍵が閉まると、兵士たちは一気に沈んだように肩を落とした。



「俺たちだって、こんなことしたくなかったんだ。まさか、こんな仕事になるなんて…」


 兵士の1人がポツリとつぶやく。



「ほんとよ。こんな仕事なんて全然聞いてなかったわ!」


「挙句の果てに艦に見捨てられるし。なんなんだよ、もう!!」

 女の兵士が同意するように舌打ちをする。



「それに……あの女、あんなに強かったのか?」

 倒れた兵士を見つめながら、別の男の兵士が低く呟いた。マリアの一瞬の動きが脳裏に焼き付いて離れない。

あの冷徹な目、ためらいのない仕草……まるで感情を切り捨てた機械のようだった。



「……あんな奴らを敵に回してたのかよ……」

 

別の兵士が小声で吐き捨てる。見張り役だった男が一瞬で沈められた恐怖が、じわじわと彼らの背筋を冷たくしていた。


「俺たちもだが、こいつも利用されるだけ利用されて、哀れなもんだ。」

 もう1人の兵士が苦々しげに呟く。



「……クライアントのために命がけで働いたのに、見捨てられるなんてね」

 女兵士がぽつりと呟いた。倒れた見張り役の兵士に視線を落とし、彼女は改めて自分たちの置かれた状況を理解し、青ざめた。



「分からない」


 一番背の低い、少年のような兵士がぼそりとつぶやいた。



 

薄暗い部屋全体に、低く響くエンジン音がこだましていた。



ゴウン、ゴウン、と鈍い振動が床を伝い、まるで船全体が唸りを上げているかのようだ。

沈黙の中、唯一の確かなものは、この音が船が確かに前へ進んでいることを示しているという事実だった。

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