オーシャンエッジプロジェクト プロミネンス 

sin art

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5話 朝焼けの帰艦

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 マリアは夢を見ていた。淡い光に包まれた幼い日の記憶。


 温かい手が自分の頬を優しく撫でる感覚。


 目の前には柔らかな笑顔で自分を見つめる母、アルテミスの姿があった。


「マリア、もう大丈夫だ。これからは私が守ってあげるから」



 その優しい言葉を最後に夢は徐々に遠ざかり、マリアは静かに目を開けた。


 船室の窓から微かに明け始めた空が見え、夢の余韻に浸りながら、マリアは小さくため息をついた。

 母であるアルテミスは任務のために長い間家を空けており、最後に一緒に食事をしたのはいつだっただろうか。

 食卓で「今度はいつ帰れるか分からない」と言った母の顔がよぎった。

 最近は任務の関係でほとんど帰ってこない。しかし、新しく迎える子供たちと一緒に暮らすことを考えると、寂しさの中にも温かな期待が芽生え始めていた。

 


 甲板へと向かうと、水平線の彼方が少しずつ白くなり始めていた。


白くなっていく光の片隅に、手を組んだ1人の男の姿があった。

エドガーは朝焼けに照らされるオーシャンエッジの影をじっと見つめていた。その視線には任務を終えた安堵感と同

時に、救えなかった命への重い悔恨がにじんでいた。

 

彼の脳裏には、炎に包まれた貨物船の光景が焼き付いていた。

逃げ惑う乗客たち、波間に沈んでいく命、鳴り響く銃声。間に合わなかった。エドガーは無意識に拳を握りしめ、息を整えるように深く息を吸った。

 しかし、今は帰還の時だ。沈む記憶を振り払うようにまばゆい朝日を見つめ、彼は静かに心を引き締めた。

マリアはそんなエドガーの後ろに立ち、彼の張り詰めた雰囲気を感じ取ったが、あえて何も言わずにそっと並んだ。



「帰艦ですね」そんな視線を送るとエドガーは短く頷いた。船は波間をかき分けて静かにオーシャンエッジに向かって進んでいった。

 


――――――――




 港に到着すると、オーシャンエッジの関係者が待機していた。


その中にキャプテンマーチャントの姿もあった。



「キャプテン、マーチャント、特務艦ザバステメス、ただいま帰還いたしました!」

 エドガーは帰還の挨拶をしようとした時、「アル……」と呼びかけそうになるのを咄嗟に飲み込んだ。


「マーチャント」と改めて口にしたエドガーに対して、マーチャントは一瞬、エドガーの顔を見つめ、かすかに口元を緩めた。それも一瞬のことで、すぐに表情を引き締める。



「エドガー艦長、被害の状況はどうだ?」

 マーチャントの声は低く抑えられていたが、その響きには緊迫感が漂っていた。彼の視線は冷静さを装いながらも、わずかに険しさを帯びている。


「はっ。我々が貨物船を発見し救助活動を始めようとした時、突如として黒光りした潜水艦が姿を現し貨物船の乗客を襲撃し始めました。海へ逃げた乗客に銃口を向けていたため、我々は追い払うために抵抗しましたが……救助者は子供3名のみです。いずれも低体温状態で衰弱しています。特に男児はショック状態がひどく、回復に少し時間がかかっています」



「3名のみ…か」

 マーチャントは深いため息をつきエドガーの肩をポンと叩く。


「任務ご苦労、救助された子供たちの現在の体調は?」

「はい。徐々に回復し、今では話せるレベルにまでなっています。3名のうち、2人は身元確認済みですが、1人だけが確認取れず、緊急案としてマリアの姪として収容する予定です」


「…そうかわかった。それではマリア、その子達は責任を持って君が面倒を見るように」

 エドガーの隣にいたマリアに視線を送る。

「はっ!了解いたしました!」


 マーチャントは短く整えられた銀髪を風になびかせ、マリアに温かい眼差しを一瞬だけ送った後、背筋を伸ばし毅然とした態度で二人の背後に待機している車の方へ向かって歩き出した。


その途中、エドガーのすぐ横を通り過ぎる際、わずかに肩を寄せ、小声で釘を刺すように囁いた。

「エドガー、ここでは慎重に、な」

 その声は冷静さを保っていたが、内に秘めた警告の響きを含んでいた。

「は、申し訳ありません、以後気をつけます」

 
小さく頷いたマーチャントは、そのまま甲板を後にした。そのやり取りを不思議そうな顔で見ていたマリアに、エドガーはごまかすような笑みを浮かべた。



「俺はもう少しこの事件について調査しようと思っている」


「はい。わかりました。私にできることがあればいつでも指示してください。子供たちは護衛艦隊の施設で保護しする予定ですか?」

「今は事件でバタバタしている。指示があるまでは一旦君の家で保護しておいてくれないか?」

「はい、了解しました!」


マリアは心なしか少し嬉しそうな笑顔を浮かべた。


最近は母が帰ってこない寂しさがずっと胸にあったが、新しく家族が増えることへの期待と喜びがそれを少し和らげた。


彼女はエドガーに敬礼し、船の中へと足取り軽く入っていった。

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