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第1話

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門を抜けると街の商店街が道沿いにまっすぐ
続いている。その商店街を抜けた先にある
教会、ラムリア教会がノアの家である。

「疲れた.....もう俺は動かないぞ.....」

ノアは祝福の書を本棚に向けて放り投げる。
本はバサバサと音を立てて落ちた。

「甲斐性が無いですねぇ。アメリダさん一人祝福しただけじゃないですか。」

そう言ってオリヴィアは祝福の書を拾い、
本棚にきっちりとしまった。

「祝福は思っている以上に疲れるんだよ。」

ノアがオリヴィアに愚痴をこぼしたその時、
玄関から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「こんちわー!アルド農場でーす!」

毎朝街に牛乳を届けている青年、テディの
声だ。ノアの教会もお世話になっている。

「はーい!今行きまーす!」

オリヴィアが元気よく答えて玄関を開ける。

「毎度ですオリヴィアちゃん!ところで
ノア牧師はおられますか?」

テディは教会の中を覗き込む。

「どうした、テディ?」

ノアは正装を脱ぎ捨てながら答えた。

「ビッグニュースですよ!実はこのラムリアの街を《勇者》が通るそうです!」

テディは興奮した様子で語る。

「........は?」

ノアは驚きのあまり声が出なかった。いつか来ると思って待ち続けた出来事が今日突然
来たのだ。

「オリヴィア!急いで準備だ!」

ノアは急いで正装を着直した。




「オリヴィア....準備はいいな?」

ノアはかつてないほどきっちりとした服に
身を包んでいる。

「はい、牧師様!」

オリヴィアも、いつもより綺麗な服を着て
いる。これでいつでも勇者を迎えられる
筈だ。

(多少のMPの疲れくらい大丈夫だ。)

その時、教会の扉が開いて、勇者が光の中
から現われる。

「ここがラムリア教会か。」

勇者は牧師を見据え、こちらに歩いて来る。

「初めまして、牧師殿。私はライアン。
王に仕える勇者です。どうか私に祝福を。」

勇者はノアの前に進み出す。

「分かりました。あなたに祝福を。」

ノアは書を取り出し、勇者の頭に手を当て、
祝福を開始した。

(少し疲れが出ているな。)

ノアは祝福中に目眩を感じた。だが、せっかく勇者に会えたこのチャンス、疲れくらい
では止めるわけにはいかなかった。



(.......ん?)

オリヴィアはノアの持っている本に違和感を感じた。

(あれは....《転換の書》!?)

オリヴィアは本の表紙の文字が違うことに
気付いた。

(牧師様、本を取り間違えてる!)

ノアが放り投げた本をオリヴィアが本棚に
入れた時、別の本と順番が入れ替わって
しまったようだ。

「牧師様!儀式を中断してください!」

ノアに向かって叫んだ。だが、ノアも勇者も既に意識がないようだ。

「ああ、嘘.......」

オリヴィアは感嘆の声を上げる。その時、
二人が同時に倒れこんだ。

























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