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第一章
10. 赤き獅子
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王都とはいえ普段は静かな石造りの街並みは、今は収穫の祭事を祝い賑わいを見せていた。民家の軒先のいたるところに飾られた小さな薄紅色の花は、祭りの間の数日間だけ散っては咲いてを繰り返す。
明るい柔らかな日差しの中で、人々は収穫の実りを祝い、降り注ぐ花の中を行き交いながら笑いあう。祭りに浮かれ、道化師や、仮装行列もこの時とばかりに溢れだす。夜になれば今度は蝋燭に火を灯し、臨時の夜店も開かれ、鳴り止まない音楽の中で人々は語り合い、飲み合い、踊り合う。
「見ろよ、すげえな!」
祭りに沸く街の様子に剣士の男はポカンと大きく口を開けながら、隣を歩くローブを被った男に向かって声をかけた。
「はいはい。わかったから、せめて前を向いて歩けよ」
ローブの男は呆れたように言葉を返す。
2人の男は、冒険の途中で補給に寄った王都が丁度よく祭りの最中であると知り、物見遊山も兼ねて何泊かしようと決めたばかりだった。この国を訪れるのは初めてだが、その見事なまでの賑わいや華やかな風景に、目の前の剣士ほどではないが注意したローブの男自身も少し浮かれていた。
そうなると当然というか、案の定というか、ドン!っと音を立てて剣士の男が誰かにぶつかるのは必然。しかしその後、ローブの男の目の前に映ったのは予想を大きく裏切る光景だった。誰かとぶつかり、無様に路上に転がったのは、相手ではなく重装備を身につけている剣士の方だったのだ。
「いってぇー!!」
「バカ!だから前を向けと言っただろうが」
ローブの男は友である剣士にそう声をかけた。そして、完全武装の友人を弾き飛ばすとは……相手はさぞ屈強な戦士なのだろうと、ぶつかった相手へと視線を向ける。
一瞬にして男は言葉を失った。そこに佇んでいたのは、美しいとしか形容しようがないほどに整った容姿の燃えるような赤い髪が印象的な……女だったからだ。
女は、髪とは対照的なアイスブルーの瞳で冷ややかに2人の男を見下ろしている。
「や、悪かったね。……っていうのも、弾き飛ばされたこっちが言うのもなんか変かもしれないけど」
剣士は少しの羞恥を誤魔化すようにして、頭を掻きながら言った。
「……」
女は男の言葉に眉ひとつ動かさず、何も言わない。
その時、遠巻きにこちらの様子を見ていた集団の中から声が上がった。
「お、おい、アイツらやばいんじゃないか?」
「よりによってハインツェル様に……」
周囲の人々が少しずつ渦中の3人から距離を取り離れ始めた。その周辺の異様な空気に、ローブの男は驚き周囲を見渡す。
「貴様の目は、後頭部にでもついているのか?」
「え……」
女の言葉に、剣士の男は戸惑いを返すことしかできなかった。女は心底不愉快そうな表情を浮かべて眉を顰めると、蔑むような鋭い視線で男を見下ろしながら続けた。
「二度は言わない。さっさと答えろ」
確かに自分が悪かったものの、そのあまりに不遜な女の態度に、食ってかかろうとした男だったが、ローブの男がそれを慌てて止めた。そして無理やりに剣士の頭を押さえつけながら、謝罪の言葉を口にした。
「いや、こちらが全面的に悪かった。この土地に慣れないもので失礼した」
「……運が良かったな。頭と胴が離れずに済んだ幸運を喜ぶがいい」
女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら男達を眺め、吐き捨てるようにそう言うと彼らの横をヒラリとすり抜けていった。
「なんだ、あの女……」
突然吹き荒れたまるで嵐のような出来事に、旅の冒険者たちはしばらくその場を動けずにいた。
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王都とはいえ普段は静かな石造りの街並みは、今は収穫の祭事を祝い賑わいを見せていた。民家の軒先のいたるところに飾られた小さな薄紅色の花は、祭りの間の数日間だけ散っては咲いてを繰り返す。
明るい柔らかな日差しの中で、人々は収穫の実りを祝い、降り注ぐ花の中を行き交いながら笑いあう。祭りに浮かれ、道化師や、仮装行列もこの時とばかりに溢れだす。夜になれば今度は蝋燭に火を灯し、臨時の夜店も開かれ、鳴り止まない音楽の中で人々は語り合い、飲み合い、踊り合う。
「見ろよ、すげえな!」
祭りに沸く街の様子に剣士の男はポカンと大きく口を開けながら、隣を歩くローブを被った男に向かって声をかけた。
「はいはい。わかったから、せめて前を向いて歩けよ」
ローブの男は呆れたように言葉を返す。
2人の男は、冒険の途中で補給に寄った王都が丁度よく祭りの最中であると知り、物見遊山も兼ねて何泊かしようと決めたばかりだった。この国を訪れるのは初めてだが、その見事なまでの賑わいや華やかな風景に、目の前の剣士ほどではないが注意したローブの男自身も少し浮かれていた。
そうなると当然というか、案の定というか、ドン!っと音を立てて剣士の男が誰かにぶつかるのは必然。しかしその後、ローブの男の目の前に映ったのは予想を大きく裏切る光景だった。誰かとぶつかり、無様に路上に転がったのは、相手ではなく重装備を身につけている剣士の方だったのだ。
「いってぇー!!」
「バカ!だから前を向けと言っただろうが」
ローブの男は友である剣士にそう声をかけた。そして、完全武装の友人を弾き飛ばすとは……相手はさぞ屈強な戦士なのだろうと、ぶつかった相手へと視線を向ける。
一瞬にして男は言葉を失った。そこに佇んでいたのは、美しいとしか形容しようがないほどに整った容姿の燃えるような赤い髪が印象的な……女だったからだ。
女は、髪とは対照的なアイスブルーの瞳で冷ややかに2人の男を見下ろしている。
「や、悪かったね。……っていうのも、弾き飛ばされたこっちが言うのもなんか変かもしれないけど」
剣士は少しの羞恥を誤魔化すようにして、頭を掻きながら言った。
「……」
女は男の言葉に眉ひとつ動かさず、何も言わない。
その時、遠巻きにこちらの様子を見ていた集団の中から声が上がった。
「お、おい、アイツらやばいんじゃないか?」
「よりによってハインツェル様に……」
周囲の人々が少しずつ渦中の3人から距離を取り離れ始めた。その周辺の異様な空気に、ローブの男は驚き周囲を見渡す。
「貴様の目は、後頭部にでもついているのか?」
「え……」
女の言葉に、剣士の男は戸惑いを返すことしかできなかった。女は心底不愉快そうな表情を浮かべて眉を顰めると、蔑むような鋭い視線で男を見下ろしながら続けた。
「二度は言わない。さっさと答えろ」
確かに自分が悪かったものの、そのあまりに不遜な女の態度に、食ってかかろうとした男だったが、ローブの男がそれを慌てて止めた。そして無理やりに剣士の頭を押さえつけながら、謝罪の言葉を口にした。
「いや、こちらが全面的に悪かった。この土地に慣れないもので失礼した」
「……運が良かったな。頭と胴が離れずに済んだ幸運を喜ぶがいい」
女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら男達を眺め、吐き捨てるようにそう言うと彼らの横をヒラリとすり抜けていった。
「なんだ、あの女……」
突然吹き荒れたまるで嵐のような出来事に、旅の冒険者たちはしばらくその場を動けずにいた。
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