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第1章

1.日常

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 鳴り響いたスマホのアラームに、手探りでその音の原因を探し当て、手に取ると、ぼんやりと目を開けて画面を見た。

 画面には大きく時間が表示されている。アラームを止めて、いつものように画面をスワイプする。
 通話機能の付いたアプリにはなんの変化も見られない。そのことに、少しがっかりしながらもアプリを開いた。
 一番上にピン止めしている優斗ゆうとの文字。バイクのアイコンを押す。画面の履歴は、昨日私が”おやすみ”と打ち込んで送信したところでとまっている。既読がついているということは、見てはくれているのだろう。

 返ってこなかった返事に、少しだけ気落ちしながら今度は”おはよう”のスタンプを送信した。暫く画面をじっと見つめるけど、どうやら既読が付く気配はない。

「はー、なにやってんだろ……」

 それに縛られている自分が少しだけ虚しくなる。
 相手にだって相手の都合がある。分かっているけど、こうして返事が返ってこないことにどうしても悲しくなってしまうのは、私が彼の事を好きだから。

(昨日は仕事のつきあいで飲み会だって言ってたし。返信がなかったのは、きっと疲れて帰ったからだよね…)

 気持ちを切り替えるように起き上がると、布団を畳む。
 1Kの部屋。角部屋のためについている出窓のスライド式の窓を完全に開けると、顔を洗うためにキッチンへと続く扉を開けた。目の前には玄関。右側にキッチンシンク、左側に二つ扉が並んでいる。その玄関側の扉を開けて、お風呂場に入ると設置されている洗面台の前に立つ。

 眠い頭をハッキリさせるためにも、洗顔料をしっかりと泡立てて顔を洗う。洗い終わってタオルで顔を抑えるように拭いてから鏡に目を向けた。
 ザーザーと出続けるお湯からは湯気が立って、鏡を白く曇らせていた。顔を拭いたタオルでそれをふき取る。
 途端に出て来た冴えない顔に、手を止めて、はあ、と小さくため息をついてから流れ続けていたお湯を止めて、その場を離れた。

 そのままキッチンに立って、食パンと目玉焼き、コーヒーを準備してから部屋に戻る。出窓側にくっつけるようにして設置しているコタツ机の上にそれらが載ったトレイを置いてから、タブレットを開いた。

「やった。新しいの上がってる」

 お気に入りの配信者が新しい動画をアップしてくれている、そのおかげで少しだけ気分が上向きになる。
 動画を見ながら朝食を済ませると、画面はそのままにクローゼットを開けてブラウスに腕を通した。
 歯磨きをするついでに食器をシンクにおいて、再び部屋の机に向かい、今度は動画をBGMにメイクをする。
 机の上に置いた折り畳みの鏡に映るのは、さっきと同じ冴えない顔。人より小さめな目がコンプレックス。アイメイクを入念にして、二種類ある口紅でどちらの色を使うか迷ってから、前に優斗に可愛いと言われた事を思い出して、ピンク系を選んだ。続けて髪のセットをしようとして、そこで通知音が鳴る。

 慌ててそばに置いていたスマホを手に取ると、アプリを押した。”おはよう。”のスタンプにほっとする。
 
《おはよう。今日は仕事終わったら一緒に居られる?》

 待ちに待った金曜日。お泊りとかも考えて、ドキドキしながそう送って、待つこと数秒で返って来た”ok”の文字に、

(嬉しい)

 と、一気に気分が上がって早く会いたくなるけど仕事が終わるまでの我慢だと自分に言い聞かせる。そして髪の毛のセットをきっちりとしてから、手荷物とジャケットを片手に部屋を出た。
 
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