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6 出発
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「お嬢さま、本当によろしいのですか?」
リリアは大きなトランクを両手で持っている。それを馬車に詰め込もうとしていたのだが、ミアが止めたのだ。
「ええ、いらないわ。その辺に捨てちゃってちょうだい」
その中に入っている荷物は、ご丁寧にルイーズとティナが詰めたものだった。
二人の話によると、生活必需品が入っているらしいが、そうではないことは明らかだった。
「何が入ってるんですか?」
リリアは興味しんしんといったふうにトランクの留め金をはじいた。
中から出て来たものを見て、ミアは眉を上げた。思ったとおりである。
「何ですか、これ」
リリアが詰まっていた物をつまみ上げる。
「私のドレスね」
ぼろぼろの、麻のドレスだった。ミアのクローゼットに詰まっていたものだ。
「ここ」
スカートを指さすと、リリアはそこを覗き込んだ。リリアはあっと声を上げる。
「ひどい」
スカートに、何かの液体をかけたのだろう。大きなシミが広がっていた。
もう一枚のドレスはそでが破かれている。
「まったく、暇な人たちね」
ミアは肩をすくめ、トランクを閉じる。最後の最後まで。その徹底ぶりはいっそ見事と言ってもいい。
でも、とミアはもう一つのトランクを持ち上げた。
「こっちは持っていくわ」
「それは?」
リリアは首を傾げる。
ミアはそのトランクを置き、留め金をはじく。
「これって……」
現れたのは、燦然と輝くドレスの山だった。
いちばん上には指輪、ネックレス、ブレスレット、イヤリングなど、きらびやかなアクセサリーが重ねられている。
「少し失敬してきたの」
いたずらっぽく笑うミアに、えらはあぜんとする。
「それって、ティナお嬢さまの」
「そうよ。もともとは私のものなんだし、少しくらいなら大丈夫。気付かれないわ」
このドレスとアクセサリーは、全て、ミアのものだ。
ティナは嫌がらせのためにミアの持ち物をうばったのだから、彼女が本当に欲しかったものはふくまれていないはずだ。
巨大なクローゼットの奥に眠っていたものたちを、こっそりと持ち出した。ついでに、宝石の類もいくつか。
ティナとルイーズが買い物のために外出したすきに、部屋に忍び込んだのだ。
「お嬢さまって本当に」
リリアがミアを見上げてつぶやいた。
「なに?」
リリアはにっこりと笑った。
「最高です」
二人は顔を見合わせて微笑み合った。
今日はいよいよ、旅立ちの日だ。
小さな二頭立ての馬車は、いつでも出発できるように準備されている。
ミアは邸の小道にぼろぼろのドレスが詰まったトランクを放ると、ティナから奪い返したドレス入りのトランクを御者に預ける。
誰一人見送ってくれない、門出、とはとうていいいがたい旅立ちだったが、ミアの心は不思議に落ち着いていた。
自分が持っている中では一番のドレスを着ているし、髪はサファイアブルーのベルベットリボンでとめている。
「旅立ちっていうより、夜逃げですね」
リリアのぼやきに笑いながら、ミアは馬車に乗り込む。
たった一人きりで嫁ぐのだと覚悟を決めていたが、リリアも行くと名乗りを上げてくれた。
こっちに家族はいませんし、あたしはお嬢さまのメイドですから。と彼女が言ってくれた時、胸が痛くなるほどうれしかった。
絶対に幸せになってやろう。
改めて決意する。
「出してください」
御者に声を掛けると、馬車は静かに動き出した。
リリアは大きなトランクを両手で持っている。それを馬車に詰め込もうとしていたのだが、ミアが止めたのだ。
「ええ、いらないわ。その辺に捨てちゃってちょうだい」
その中に入っている荷物は、ご丁寧にルイーズとティナが詰めたものだった。
二人の話によると、生活必需品が入っているらしいが、そうではないことは明らかだった。
「何が入ってるんですか?」
リリアは興味しんしんといったふうにトランクの留め金をはじいた。
中から出て来たものを見て、ミアは眉を上げた。思ったとおりである。
「何ですか、これ」
リリアが詰まっていた物をつまみ上げる。
「私のドレスね」
ぼろぼろの、麻のドレスだった。ミアのクローゼットに詰まっていたものだ。
「ここ」
スカートを指さすと、リリアはそこを覗き込んだ。リリアはあっと声を上げる。
「ひどい」
スカートに、何かの液体をかけたのだろう。大きなシミが広がっていた。
もう一枚のドレスはそでが破かれている。
「まったく、暇な人たちね」
ミアは肩をすくめ、トランクを閉じる。最後の最後まで。その徹底ぶりはいっそ見事と言ってもいい。
でも、とミアはもう一つのトランクを持ち上げた。
「こっちは持っていくわ」
「それは?」
リリアは首を傾げる。
ミアはそのトランクを置き、留め金をはじく。
「これって……」
現れたのは、燦然と輝くドレスの山だった。
いちばん上には指輪、ネックレス、ブレスレット、イヤリングなど、きらびやかなアクセサリーが重ねられている。
「少し失敬してきたの」
いたずらっぽく笑うミアに、えらはあぜんとする。
「それって、ティナお嬢さまの」
「そうよ。もともとは私のものなんだし、少しくらいなら大丈夫。気付かれないわ」
このドレスとアクセサリーは、全て、ミアのものだ。
ティナは嫌がらせのためにミアの持ち物をうばったのだから、彼女が本当に欲しかったものはふくまれていないはずだ。
巨大なクローゼットの奥に眠っていたものたちを、こっそりと持ち出した。ついでに、宝石の類もいくつか。
ティナとルイーズが買い物のために外出したすきに、部屋に忍び込んだのだ。
「お嬢さまって本当に」
リリアがミアを見上げてつぶやいた。
「なに?」
リリアはにっこりと笑った。
「最高です」
二人は顔を見合わせて微笑み合った。
今日はいよいよ、旅立ちの日だ。
小さな二頭立ての馬車は、いつでも出発できるように準備されている。
ミアは邸の小道にぼろぼろのドレスが詰まったトランクを放ると、ティナから奪い返したドレス入りのトランクを御者に預ける。
誰一人見送ってくれない、門出、とはとうていいいがたい旅立ちだったが、ミアの心は不思議に落ち着いていた。
自分が持っている中では一番のドレスを着ているし、髪はサファイアブルーのベルベットリボンでとめている。
「旅立ちっていうより、夜逃げですね」
リリアのぼやきに笑いながら、ミアは馬車に乗り込む。
たった一人きりで嫁ぐのだと覚悟を決めていたが、リリアも行くと名乗りを上げてくれた。
こっちに家族はいませんし、あたしはお嬢さまのメイドですから。と彼女が言ってくれた時、胸が痛くなるほどうれしかった。
絶対に幸せになってやろう。
改めて決意する。
「出してください」
御者に声を掛けると、馬車は静かに動き出した。
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