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海溝バケツ

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生きているだけで偉い?

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※以前、小説家になろうに投稿した短編に手直しを加えたものです。





社会に出て組織に入ること。


それは僕らが社会の歯車になることであり、これによって僕達は代替可能な“物”となる。

そもそも社会の多くの仕事や立場は代替可能な物である。つい最近、自民党総裁選(菅→岸田)があり、すぐに総選挙もあるが、一国のトップたる内閣総理大臣や国民の代表である国会議員だって、その気になればすぐに変えが効く交換可能な役職に過ぎない。

社会において役職や立場の大きさは歯車のサイズの大きさと言えるかもしれない。回れば多くの歯車を巻き込んで社会を動かしていく。しかし、そんな大きな歯車でさえ代替可能だし、小さな、社会に出たばかりの歯車の変えなんて幾らでもいると言っても過言ではないだろう。



それでも、大前提として歯車として社会に貢献することは偉大な事である。

どんなに小さな歯車だったとしても、組織に属し、社会を動かすのは偉大な事である。アルバイトでも、パートでも、新入社員でも、たった今、ここで為されている仕事が例え他の誰かでもできる仕事だとしても、今まさにそれをその人自身がしている事こそ尊敬されるべきことで、それをしている人こそ尊敬されるべきだと言える。



歯車の歯の数は人によって違う。

もちろん嚙み合わせの悪い相手もいるだろうし、出世してサイズが大きくなるにつれて噛み合うこともあれば、噛み合わなくなることも多いだろう。もしかしたら誰とも嚙み合わないかもしれないし、丁度いいサイズになれる場所もないかもしれない。それでも、そんな中で社会に揉まれながら歯車として社会を生きている人は、それだけで偉いし尊敬に値する。

もちろん、合わない環境を飛び出てより噛み合わせの良い環境に身を移すのも正しいし、それができる人は自分を正しく理解できている人なのだと思う。



では、歯車の“歯の数”とは何かと考えた時に、僕はそれは「個性」なのではないかと考える。

歯車という比喩では単純化しすぎている感はあるが、きっとその人の個性が組織にその人を噛み合わせ、その個性こそが組織においてその人を変えの効かない、不可欠な部品にさせるように感じる。

没個性として表現される歯車の比喩でこんな話になるのも皮肉だが、社会に“唯一の正解”のないからこそ個性が重視されるべきだし、自分なりの考え方や歩き方も大切にしてあげる時があってもいいのかもしれない。



僕達は社会に出た以上は食い扶持の為に稼がなければならない。

無理しすぎるべきではないし、自分の歯をすり減らしてしまう環境からは逃れるべきである。

少なくとも、社会の一部として働き日々の糧を耕すことは尊敬されるべきことで、そんな人々によって社会は動いている。



一億総活躍という押しつけがましい言葉もあるが、僕にとっては活躍なんかしなくても閉塞感の漂う日本において「生きているだけで偉い」という言葉は正しいように感じてしまう。

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