飼い主と結婚したい猫は人間になる

Ryo

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1年目春

28 僕と体力テスト

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正直運動はそんなに好きじゃなかった。
出来ないわけじゃない、したくなかった。

だから体育の時間は、授業の中で一番苦手だと思う。

「ぜってえ負けないからな!」
「犬飼くんどうしたの、すごいやる気だね?」

何故か颯太に対抗意識を燃やされている。
あまり頑張る気しないんだけどな…。
そこに着替えが終わった女の子達が体育館に入ってくる。

「颯太!今日は女子も一緒だよ!」

里奈が走ってくる。わかりやすい。

「おう!頑張ろうな!」
「当たり前!負けないから!」

後から小春ちゃんもこっちに歩いてくる。
里奈の後ろに控えめに立って、僕と目が合う。

「小春ちゃんも頑張ろうね?」
「うん。あんまり、自信ないけど。」

小春ちゃんはあまり運動が得意じゃない。
そんな所も可愛いよね。

颯太の方を見るとこっちを見ていた。
そしてそのまま僕のところへ来て腕を掴んでひっぱる。

「行くぞ猫宮!」
「あ、猫宮くんも、頑張ってね!」

別れ際に小春ちゃんに頑張ってねって言ってもらえた。

「ごめん犬飼くん。僕頑張ることにしたから。」

さっきまでなかったやる気が、ふつふつと湧きあがる。

体力テストは、いろんな種目があって、
それぞれの記録ごとに1から10の点数がもらえるらしい。

どれも初めてやる事なので、見よう見まねで測定してもらう。

「猫宮握力いくつ?」

機械を握らされ、握力を測った。
すぐあとに颯太が飛んできて僕の数値を聞いてくる。

「47と46。」
「しゃっ!!」

反応だけで僕の数値より良かった事がわかる。
そんな大袈裟に喜ばれるのは癪に触る。

「まあ、俺はバスケ部だからな!気にするなって!」
「その反応すごくムカつくんだけど。」

握力なんて人間になって一度も鍛えた事もないんだから仕方ない。
普段から鍛えてる人間と比べられたら、負けるに決まってる。
その後も、上体起こしやハンドボール投げは颯太に負けて屈辱を味わった。

「運動嫌いな割にいい成績じゃん!」

僕の記録を見てフォローまでしてくる始末だ。
点数表と見比べると僕の記録はそこまで悪くないはずなんだけど、颯太がおかしすぎる。

そんな中でも僕の方が記録が良いものも何個かあった。

「猫宮くんすごい!」
「柔らか!」
「骨あんのかよ!?」

猫を舐めるな、と言いかけた言葉を飲み込んだ。
周りの男子の歓声にも近い声が上がる。

「無理無理折れる!!」

颯太は僕の記録に追いつこうとしていたけど、全然だった。

「犬飼くん体硬いね?」
「いだだだだっ!死ぬって!やめろ!いてええ!」

僕は颯太の背中に軽く腰掛けて前に伸ばしてあげた。
さっきまで優越感に浸ってた颯太の悲鳴が心地いい。

もちろん僕が颯太より優れていた種目はこれだけじゃない。
立ち幅跳びや50メートル走も、颯太よりいい記録を出せた。
猫の時に得意だった事は今でも優れている事が分かった。

「お前、陸上部入ったら……?」
「そんなの入ったら小春ちゃんとの時間無くなっちゃうからね。」

最後の種目はシャトルラン。
20メートルの間を音が鳴ってる間に行ったり来たりするテストらしい。

「これはバスケ部として負けられねえな。」
「僕だって負ける気ないよ。」

僕たちが走り出す頃には女の子達のテストは終わってて、小春ちゃんや里奈がコート脇で座って見ていた。
小春ちゃんの前で颯太にだけは負けたくない。
柄にもなく熱くなってる自分に驚いた。

70を超えたあたりで残っているのは運動部と僕だけになった。
90を超えたあたりでは、僕と、颯太と数人。

110を超えたら、僕と颯太だけになった。

息が上がって呼吸が苦しくなる。
もう、早く終わってくれないかな。

すぐ傍を走る颯太の背中を見る事が多くなる。
徐々に音にも合わせられなくなって、

「っはぁッ、はあっ……」

127回目で僕は足を止めた。もう限界。
颯太はまだ続けている。

「猫宮くん止まっちゃダメだよ、少し歩いて。」
「はぁ、はあっ、ごめん、無理。」

木村くんが僕の手を引っ張って立ち上がらせて、歩かせようとするけど足に力が入らない。
心臓がバクバクと鳴る音が聞こえる。

「ゆっくりでいいから歩いて呼吸を整えるんだ。」
「……、はぁ、……すーっ、はぁっ」

「だぁーっ!もう無理ッ!!」

やっと颯太が終わった。記録は138回。
8種目あったうち、僕が颯太に勝てた記録は3種目だけだった。

「悔しい。」
「猫宮くんも十分すごいよ。」

木村くんは僕が落ち着いたのを確認すると背中をポンと叩き去っていった。

「どうだ猫宮!今回は俺の勝ちだな!」
「……普段から運動してる颯太には勝てないよ。」
「え、お前、俺の名前」
「うわ、ごめん今の無し。」

疲れていたから、心で思った事がそのまま口に出てしまった。

「いいって別に!お前バスケ部入れよ!たまにムカつくけど、即戦力になっから!」
「入らないって。運動嫌いだし。」
「お前があんなに動けるなんて知らなかった!足も早いし、瞬発力あるし!」
「もう、しつこいって。」

疲れたし汗もかいてる。その上颯太に付き纏われるのはストレスだった。
僕が嫌な態度をとっても颯太は気にしないでまとわりついてくる。

「なあ、お願い。1回だけでいいから一緒にバスケを……」
「待て猫宮は陸上部がもらう。」
「いや猫宮サッカーやろうぜ!」
「甲子園行こうぜ!」

颯太だけじゃなくて、他の運動部の人たちも勧誘してくる始末。
僕は大きくため息をついて全員を無視して着替えるために体育館を出た。

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