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1年目夏

57 私と猫宮くんと誕生日

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ケーキを食べ終わった後、あとは若い2人で楽しみなさいと、リビングから追い出されてしまった。そういう気遣いも恥ずかしすぎて嫌になる。けれど、今日猫宮くんを家族に紹介できてよかったと思っている。

「私の部屋いこ?プレゼント用意してるから。」
「これ以上僕を喜ばせてどうするつもり?胸がいっぱいで張り裂けそうだよ。」
「また泣いちゃうかもね。」
「小春ちゃん、それは意地悪だよ。」

お母さんがお父さんをからかう気持ちが少しわかった気がする。少し口を尖らせて照れる猫宮くんが可愛い。
私は部屋のドアを開けて猫宮くんを先に入れる。

「僕、小春ちゃんの部屋好きだなあ。」

もうレオはいないのに、いつまでも猫グッズを置いておくのもどうかと思うけど。それでもそれぞれに思い出がいっぱいあって捨てられないでいた。

「そろそろ片付けなきゃなって思ってるんだけど。」
「ううん、このままがいい!」
「そう?じゃあ、もうしばらくこのままでもいっか。」

そのうち片付けはするつもりだけど、もうしばらくはこのままでも良いかな。
私は猫宮くんに適当な所に座ってもらって、用意していたプレゼントを渡す。

「気に入ってくれればいいんだけど。」
「ありがとう、開けて良い?」
「うん、もちろん。」

何をあげたら喜ぶのか全然わからなくて、本が好きって事以外猫宮くんの事全然知らないんだなって思って悲しくなった。よく考えたら猫宮くん私の事ばかりで、自分の事はあまり話してくれない。

「わあ、ありがとう!大事に使うね?」

私がプレゼントで選んだのは、革製のブックカバーとペンケースだった。本をいつも読むって言ってたのと、学校でも普段使いできるかなって思ってペンケースを選んでみた。

「気に入ってくれた?」
「もちろんだよ!すごく嬉しい。小春ちゃんからプレゼントをもらったって事が一番嬉しい!」

プレゼントをラッピングごと抱きしめる猫宮くんが大袈裟すぎてちょっと恥ずかしい。この感じなら私が何選んでも喜んでくれたに違いない。

「あー、生まれてきてよかった。神様に感謝しないと。」
「本当大袈裟。ふふ、生まれてきてくれてありがとう。」

神様にまで感謝し始めた猫宮くんが面白くて、少し近寄って目尻に浮かぶ涙を拭いてあげた。

「小春ちゃん、ありがとう。」
「うん、喜んでくれてよかった。」

猫宮くんが手を伸ばして私の顔にかかってた髪を少し耳にかける。これはいつものキスの合図だった。猫宮くんの顔が近づいてきて自然と目を閉じる。軽く何度も角度を変えて口付けられ少しくすぐったい。

「はぁ、……好き……。」

キスの合間に熱っぽい吐息と一緒に吐かれる言葉が私の胸を締め付ける。

「私も、すきっ……ん」

私も真似して口を開けて伝えたら、猫宮くんの手が頭の後ろに回って口付けを深くされた。苦しくて逃げようとしたけど、頭の後ろに回ってる手ががっちりと離してくれない。初めてする大人なキスは心をザワザワさせ私を少し欲張りにさせた。

猫宮くんの舌が私を意地悪するのに満足して離れたくれた時には、私の頭に酸素が足りなくてぽやぽやとした感じだった。猫宮くんは困ったように笑いながら私の唇についたどちらのものか分からない唾液を親指で拭いてくれる。

「ごめん、誕生日だから欲張っちゃった。」
「ううん。」
「そのキスした後の顔、誰にも教えたくない僕だけの可愛いポイント。」

私いまどんな顔しているんだろう。きっと間抜けな顔をしているに違いない。恥ずかしくなって向かい合ってる猫宮くんの首元に頭を預け顔を隠す。

「可愛いからもっと見せて?」
「……、またキスされるからダメ。」
「しちゃダメだった?」

甘えるような声色で私をぎゅって抱きしめて耳元で囁く猫宮くん。そんなの断れるわけがなく、私が顔をあげるとまた簡単にキスされる。

「ふふ、またしちゃったね。」

おでこをくっつけて、至近距離で猫宮くんに見つめられる。恥ずかしくて目を合わせられなくて、私は目線を下に落とす。

「もっとしたいけど、ダメ?」
「しても良いけど、舌はダメ……。」
「どうして?」

私の返事を待つ間、猫宮くんはいろんな所に唇を落とす。おでこ、目元、鼻先、頬。唇を挟んで軽く引っ張るようにキスをされる。そしてまた上目遣いで私を見つめてくる。今日の猫宮くんはいつもより甘えたになってて可愛い。

「頭おかしく、なる気がするから……。」
「へー、どうおかしくなるの?」
「猫宮くんの、事しか、考えられなくなる。」

その言葉は逆効果だって分かってたけど言ってしまった。もしかしたら私は口ではダメって言ってるだけでまたして欲しかったのかもしれない。猫宮くんは何も言わずに私の顔を優しく掴んでまたキスをする。

「それは、可愛すぎだよ、小春ちゃん。」

何度もキスをして、徐々に深いキスに変わっていく。私はもう猫宮くん以外の事は考えられなかった。


「っ、はぁあぁぁ……。」

次に唇を離した時には、猫宮くんが大きくため息をついて私に抱きついてそのまま体重をかけられ、一緒にベッドにもたれかかる。そして強い力で抱きしめられ苦しくなる。

「猫宮くん、力強いよっ。くるし……。」
「好きすぎて辛い。」

少しだけ力が緩められ耳元で囁かれる。

「もっとしたいのに、僕が我慢できない。」
「我慢って……。」

最初意味がわからなくて言葉を反復して、気づいてしまった。キスより先の事を言っているんだって。想像して体が固まってしまう。猫宮くんはがばっと起き上がって、焦ったように早口で言う。

「あ、まって安心して!僕するつもりはなくて、したくなるってだけで!小春ちゃんは大切な恋人だから!すごく大事にしたくて!だからその、ごめん!!」
「なんか私が断られてる気分なんだけど。」
「うわ、間違えた、違う!したいんだけど、今じゃなくて!……、ちょっと、笑いすぎ。」

猫宮くんの焦る所を初めて見て、面白くて笑いが堪えられなかった。いつもみたいに冷静な猫宮くんじゃなくて、焦ると年相応な感じがして可愛い。

「ご、ごめん……、ふっふ、すごく焦ってるのが、可愛くて。」
「可愛いって、あー、もう、恥ずかしいから……。小春ちゃんが大事なんだよ?」

照れてるのか、腕で顔を隠して目線を合わせない猫宮くんの反応が新鮮だった。私はそんな猫宮くんを両手で引き寄せて、一緒に床に倒れて頭を抱いて髪を撫でる。母性に目覚めてしまったのかもしれない。猫宮くんの髪の毛は少しワックスが付いてたから固かった。

「ねえ、そういう……の、もう。はぁ……、好きにして。」
「私も猫宮くんが大切だよ。可愛い。」

猫宮くんが何か言いたそうにしてたけど、諦めたかのように何も言わずにされるがままになった。床が硬くてベッドに行くか聞いたけど、猫宮くんがまた慌てて顔を赤くして拒否するから、そのまま床に寝そべって会話をしながら時間をゆっくり過ごした。


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