転生したらシンデレラの義理の姉でした！？ ～悪役令嬢まっしぐらです～

【百十一話】麻酔と毒３

　ティアナはスカートの中からスルスルと、小さなケースを取り出した。

　令嬢のスカートってアレよね？





　四次元ポケット？

　的な。





　なんでも詰め込んであるものね。

　実際、結構広めの空間だもの。





「第二王子様、こちら先程、取り急ぎ屋敷から持参したものです。良かったら使って下さいな」





　小さな桐の箱だ。

　開けると、中には細かい仕切りがある。





　毒姫は、私があげた猶予時間で、離席した実家に帰り毒を持参したと。

　そこなんだー……。





　人生最後かも知れない大切な時間の使い方。

　もう少し有効活用して欲しいなと思うのは、私だけではあるまい。





　しかしーー





　植物を干して粉末にしただけの粉を、今どうしろというのだ。

　使えないだろ？





　調合してない、効能見てない、実験してない。

　何にもないだ。





「私が丹精込めて育てた毒です。今こそお役立て下さい」



「………」





　ルーファスはチラリと視線だけで確認したが、直ぐに元の作業に戻る。





　開けられた小箱だけが、その空間に取り残されたように、有り続ける。





　えっと……。





　誰か……。

　誰かフォローした方が良くない？





　私は一瞬辺りをキョロキョロと窺う。

　ブレットもセイも目を逸らした。





　まあ、そう来るよね！

　分かります。





　ルーファスもガン無視しなくてもなー。

　一言『使えない』と言えば良いのに……。





　まあ、それどころじゃないって話だ。　

　彼は外科医で言う所の手術執行中だ。





　他事に気を取られたくないのは当たり前。

　というか術の執行中に話掛ける令嬢も、大概空気が読めてない。





「……あの、ティアナ様」





　仕方が無いので、私が話し掛ける。

　ずっとその体勢のまま固まっていられても迷惑だ。





「後日改めて、麻酔開発部門を作って研究してみるのはどうでしょうか？　今、直ぐには無理でも、後日殿下の助けになるかも知れません」





　二十年くらいかかると思うけどね。

　うん。





　でも……。

　ルーファスが欲しいと思っているなら、やるべきだと思う。





　ここに、今後の身の振り方が白紙の暇人毒元令嬢がいる訳だし。

　あとはアーロンとかその他の令息なんかも助手にすれば？　みたいな。





　だって、あの性格の悪さと、仕事への姿勢から、アーロン達って配属部署でも手に余ってるみたいだし。





　性格諸共叩き直せる良い機会よ。





「………そ、そうね。今直ぐにではなくても、後日殿下の恩為になるのなら、私は研究に生涯を捧げるわ」





　生涯って……。

　魔女か。





　グツグツグツグツ瓶で、来る日も来る日も薬の調合か……。

　髪黒いし、目も黒いし、黒いローブでも羽織れば完璧ね……。





　通称魔女部門。

　部長は毒姫。

　制服は黒衣。



　ああーー……。

　アホな女に振り回されて、無駄に思考を使ってしまったわ。





　今は何よりも、キースが優先なのに！







　私はベッドに寝かされたキースを見る。

　彼は淡い精霊術の光に包まれていた。