転生したらシンデレラの義理の姉でした！？ ～悪役令嬢まっしぐらです～

【百十二話】見えない皮膚のその先。

　外科手術って。

　基本術野が存在する。





　手術を執行するに当たっての、視野確保の事だ。





　例えば病巣が胃の場合。

　当然、胃が直接視認出来るように、表皮を切る。





　皮を切り。

　肉を切り。

　胃を視認する。





　今は、内視鏡手術というものもあり、数カ所開けた小さな穴から、手術器具、カメラ等を入れて、テレビモニターに映しながら、病巣を切る場合もある。





　けどーー





　どちらにしろ、術野確保は行われている訳だ。

　それが、直接肉眼で内臓を見るか、テレビモニターに繋いで投影するかの違いだ。







　魔法はどうだろう？





　テラスで止血処理をした時、キースは服を着ていた。

　ナイフも刺さっていたから、どの血管が切れてーー……というのは、外からはまったく見えなかったように思う。





　素人目だから断定は出来ないが……。

　こちらの部屋に運んでからは、服こそ脱いだが、メスのような刃物で術野を広げるなんて事はしていない。





　術野はどこなんだ？





　という話だ。





　キースの胸の位置、ナイフの刺さった場所。

　ルーファスは先程、かなり時間を掛けてナイフを抜いていた。





　魔法で抜くのかな？

　と思っていたが、魔法の力をアシストにして手で抜いていた。





　刺された時のナイフが通過した、通り道を戻る感じで。

　手順としては、止血処理をして、ナイフで抜く。





　その時点で、ナイフを抜いても、血が大量に吹き出す事はない。

　ナイフで切られた血管と内臓を、そっくりそのまま止血している為、吹き出さないわけだが……。





　表面はまだしも、奥は確実に目視出来ない。





　どうやっているの？

　という話だ。





　私が見た感じでは、ナイフと同じ形の魔法障壁を作り出して、ナイフが有った場所にそのまま魔法のシールドを置いているのじゃないかなと思う。





　それで、傷付いた場所を縫合したら、その部分だけ障壁を消す。

　見たいな方法。





　もちろんルーファスに直接聞くなんてことは出来ないし。

　無理矢理覗くなんて事もしたくない。





　私の希望は、処置が一分一秒早く終わること。

　彼の邪魔はしたくないのだ。





　それに疑問は後からでもいくらでも聞ける。

今は、自分の力だけで分かる所だけ分かれば良い。





　きっと透過してるのね。

　普通に考えて、見えないものが見えている訳だから。





　魔術透過が行われているのだ。

　しかし、当然それは魔力を要する訳だから、わざわざ服の上からするより、皮膚の上からの方が薄くなり、魔力消費量が抑えられる。





　だからきっと服を脱がせたのだと思う。





　この透過魔術。

　ルーファスの目に掛かっているのか？





　それとも、キースの皮膚に掛かっているのか？

　どっちなのだろう？　





　もちろん私には見えない。

　よって他者には術野は確認出来ないのだが。





　確認出来ないと言うことは、ルーファスの瞳に魔法が掛かっているのかな？





　私は彼の瞳をチラリと覗き見るが、私の角度からは良く見えない……。

　それでも、いつも通りエメラルド色に見える気がするが。





　うーん。

　術野が他者に見えないということは、他人にはアシスト出来ないという事を意味する。





　それはそうだろう……。

　なんといっても、見えなきゃ始まらない世界だ。





　でも、きっと。

　フィル様ならば見えるのだ。





　そうに違いないと思う。

　同じ性質の術を操るんだものね。





　フィル様がここに居たら、きっと力になってくれる。





　今、直ぐに。

　麻酔が実用化出来なくても。





　フィル様ならば、臓器の一つを受け持ってくれる筈だわ。





「…………？！」





　私は頭に雷が落ちたような衝撃を受ける。





　なんで気づかなかったんだろう。

　フィル様は、今、お忍びでアッシュベリー王国に滞在している筈ではないか。





　そうよ。

　だって、私、数日前に会ったのよ？

　いない訳無いじゃ無い。





　いる。

　絶対に。





　そして、きっと王女様と一緒に帰国するんじゃないかしら？





「ブレット」





　私は、何故か呼び捨てで第二王子様の側近を呼んでしまった。





　ええ。

　慌ててましたよね。





「お忍びで、彼の方が来ている筈よね？」





　なんとお呼びして良いか分からず、不思議な言い回しになってしまった。





「……彼の方とは？」





　かーっ。

　こんな火級時に惚けた。





　キースは私の弟ではあるけれど。

　元はと言えば、第三王子様なのよ。





「……ブレット。良い。御来し頂け」



「…………」





　やったーー。

　ルーファスのお許しが出た。





　と同時に、アッシュベリー王国はフィラル国にとんでもない大きな借りが出来たわね。





　まあ、そんな事は知ったこっちゃないが。

　私は、キースファーストだ。





　オリヴィアお姉様。

　あなた程ではないですが、私も自分の意志を最優先にしましたよ！





　あなたの妹で良かったって、初めて思いました。

　ええ。十六年妹をやって来ましたがけどね。

　初体験です。