127 / 158
【百二十六話】思い出の中の妹。
しおりを挟む初めて妹と出会った時、あまりの可愛さに、目が逸らせなかった。
本当に生きている人間? とも思った。
それくらい彼女の美しさは規格外だったように思う。
そして、その美しさは彼女の性格にも起因しているのではないかと思い始めたのは、いつの頃だっただろうか?
◇ ◇ ◇
「シンデレラ?」
「何ですか、ミシェールお姉様」
「今日は、森で野イチゴを摘むから、バスケットを持って着いて来てくれるかしら」
年子の妹は、今年出来たばかりだった。
可愛い子だなと、度肝を抜かれたものだけど、時と共に大分慣れた。
可愛いは可愛いかったが、妹は妹。
年子だろうが、三歳差だろうが、私がお姉様だ。
つまりは私の方がちょっぴり年上。
人生経験もちょっぴり上。
なので、私は絶好調にお姉さんぶっていた。
妹のシンデレラも別に反発はして来なかったし、私も態度を改めたりはしなかった。
そういう意味では弟と同じ対応だったと思う。
つまり、上から目線?
二人で領地内の森に入る。
入って直ぐの所に素敵な花畑が広がっていて、私はなんだか無性に花が摘みたくなった。
でも、苺パイも食べたい。
花束も欲しいけれど、甘酸っぱい苺パイも食べたいのだ。
九歳の少女の小さな我が儘。
けれど、私は一人じゃないし、家来のように従順な妹がいるし。
これが三歳年下の弟だったら、そんな事は言わなかっただろう。
さすがに、六歳児じゃ可哀想だという頭は働く。
でも一歳下なら、そんなに下だと感じない。
都合が良いところで、同年代扱いが出来るのが、年子の良い所。
「シンデレラ」
「なんですか? ミシェールお姉様」
「私、食卓を彩るお花をここで摘むから、あなたは野いちごを摘みに行ってくれる? 百個を数えるまで帰って来ちゃダメよ?」
姉って何だろうね?
年下姉妹の使い方凄いよね?
「あなたも苺パイ好きでしょ? だから百よ?」
そう言って、私と妹は別れた。
そのうち、雨が降って来たり、暗くなって来たりで、私はとっととお屋敷に戻ったのだが、夕刻、シンデレラがいないことに気付いた。
アレ?
彼女、まだ帰ってないの?
召使い達も慌てたし、私も大いに慌てた。
何と言っても元凶は私なのだから。
家の者に、「シンデレラには苺摘みをお願いした。森にいるはずだ」と言い残して、私も準備をしてから森に入る。
こういう一大事の時でも、私はしっかり準備するタイプで。
まあ、そつの無い性格だ。
私はランプの明かりを頼りに、森の中へ進む。
公爵家の庭師を三人、契約猟師を一人連れて、総勢五人で入った。
マジで、自分の安全はしっかり確保していたのだ。
いや、九歳女児がこんな夕刻に一人で森に入るとかないから。
いつもの野苺摘み場の少し奥で、シンデレラは直ぐに見つかった。
「シンデレラ? あなたまだ苺を摘んでいたの? もう帰りましょう?」
「でも、お姉様。まだ七十七しか摘めてないのです。だからもう少し頑張らないと百には届きません」
私は大いに呆れた。
良いじゃないか、百には届かなくても。
もう充分だ。
こんなに真っ暗な中、苺だって見えやしない。
そうは思ったのだが、雨なのか夜露の所為なのか、濡れてしまったシンデレラにそんな無神経な言葉を掛ける訳にもいかず、私とシンデレラとそれに付き合う羽目になった大人四人で、高速で残り二十三個の苺を集めて帰路に就いた。
バスケットは庭師に持ってもらい、私はシンデレラと手を繋いで歩いた。
冷たく小さな手だった。
昼から摘み始めて、彼女は一人で半日も摘み続けた事になる。
マジか。
摘んで来いと言った相手だって、百なんて数えないだろう。(面倒なので)
そういう事考えないのかな?
もしも百を数える相手でも、「雨が降って来たから」と言えば、許される相手かどうかの判断は八歳児でも出来そうだが。
ちなみに私はお嬢様であるが、九歳までは男爵家育ちなので、結構融通が利くタイプだ。
というか。
雨の中、苺を摘ませるような鬼じゃない。
多分。
そこまで無理に摘ませる人間は、摘まないと困る何かがある。
旦那様に叱られる。
自分の評価が落ちる等。
私は使用人ではないので、そういった事はないのだ。
故に、鬼になる必要がない。
少し考えれば、そういった絡繰りは分かりそうなものだが。
私が育った男爵家の人間は、そういう事を高速で算段する。
私もオリヴィアお姉様も母もそうだ。
新しく出来た妹は、全然違う人種に見えた。
「ミシェールお姉様」
シンデレラが私の手を握りながら、顔を上げる。
「これでおいしい苺パイが食べられますね?」
「……そうね」
「楽しみですね」
八歳の彼女は、屈託なく笑った。
天真爛漫な子だと思った。
そして、人の言葉を言葉の通り受け止める。
ある意味素直で。
ある意味、考え方に整合性がない。
不思議な子。
これはオリヴィアお姉様に嫌われそうだなと思った。
オリヴィアお姉様は知的で頭の回転が良く、典型的な頭脳派だ。
一を見れば十を理解するあの姉が、一を見て零点一くらいしか理解しない、シンデレラとどうやって仲良くするのかしら?
ちょっと想像が出来ないわね?
でもーー
オリヴィアお姉様だって、苺パイはお好きだから。
きっと彼女も喜んで食べるだろうと思った。
◇ ◇ ◇
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました
タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。
ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」
目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。
破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。
今度こそ、泣くのは私じゃない。
破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる