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【百三十二話】夜明け前2。
しおりを挟むルーファスの瞳が私を見据える。
今ので甘い空気が一蹴されたわね?
「誰に? と聞いた方が良いですか?」
「……いいえ。聞かなくて良いわ。だってきっと分かっているのでしょ?」
あなただって、一瞬は頭を過った筈。
「……時期尚早ですね」
時期尚早って……。
「会った所で何にもならない。得られるものが一つもない。相手に警戒心と猜疑心を与えるだけ」
……それはそうかも知れないけれど。
でも確かめたいの。
「……切り札があるわ?」
「切り札?」
「オリヴィアお姉様よ。彼女に一肌脱いでもらう」
「…………」
そんな事?
と思った?
でも。
私の勘が当たっていれば、彼女は彼のアキレス腱だ。
一度しか会っていないけれど、そんな気がする。
そうよ。
最後の晩餐は四人で会いましょう?
全てが解決するでしょう?
ずっと違和感が有ったのだ。
シンデレラという少女。
彼女は非常に短絡的で思い込みが激しい。
更に、予測行動が出来ない。
そんな乏しい人間が、夜中に私の首を絞める際、関節を殺すなんていう小賢しい事するかしら?
私が思う。
人間の整合性の話。
ナイフを水平に持つような人間。
頭が良くて。
先の見通しが利く人間。
もしくは。
人殺しのプロ。
ナイフが肋骨に弾かれる感覚が分かる人だ。
それが知識で分かっているか。
経験則で分かっているか。
その違いがあるだけだ。
シンデレラはそういうタイプではない。
当然プロではないし。
そして見通しの利く人間でもない。
そもそも。
大前提として。
物事に見通しの利く人間は、人殺しなどしないものだ。
した瞬間に人生が終わる。
人を殺して得られるものより、リスクの方がずっと高いと理解している。
そんな人間は、もっと狡猾に動くもの。
そう例えば幇助ほうじょ。
幇助とは、俗にい言う力を加える事。
憎しみに駆られた人間の耳元で、そっと囁くだけで良い。
『こんな方法があるよ?』と。
そっと背中を押すだけ。
人の言葉には力が宿る。
力の宿った言葉が頭に響く。
そして、形となって現れるのだ。
この異世界で。
殺人幇助がどれくらいの罪になるか分からないが、無形であるが故に、立証されにくい性質は同じだろう。
当然私も立証する手立てがない。
ただ私に出来る事は、確かめるだけ。
この目で、感じるだけ。
自白なんて、百害あって一理もない事を敵はしない。
嘘というものは。
どんな人間にも暴けないのだ。
感じた所で、確実ではない。
嘘を嘘と断定するには、物的証拠しかない。
そうなって来ると、最早刑事の仕事。鑑識の仕事。となってくる。
嘘を公的に立証する手立てがあったなら。
きっと犯人の検挙率は数倍に跳ね上がるだろう。
罪が罪と問えない状態で、会う必要があるのか?
罪が罪と問える状態になってから会うべきだ。
ルーファスは、そういう事が言いたいのよね?
そりゃそうよね。
私だってそう思う。
虎視眈々と、物的証拠を集めるべきだ。
必ず。
やっている以上は何処かに証拠が残る筈。
その証拠を、慎重にそして、粘り強く洗い出すべき?
私が疑っていると分かったならば。
証拠は注意深く消されるし。
私自身が監視されて動き難くなる。
そもそも。
影をその手に一挙に掌握しているのだ。
ならば私なんて、鬱陶しくなれば潰されるだけ。
それこそ裁判なんて踏まずにいくらでも人を殺せる人間だ。
何故、私を路傍の石のように殺さなかったのか……。
それは、私自身を殺す事が目的じゃないから?
ただの余興?
退屈凌ぎ?
それともーー
オリヴィアお姉様の妹だったから?
きっとそうなのではないかしら?
私は、そう思えて仕方がない。
あの、いけ好かない男のアキレス腱。
大輪の花のようなオリヴィアお姉様。
そこに。
繋がりそうな、気がするの。
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