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【百三十三話】夜明け前3。
しおりを挟むベッドの上で。
私は下着姿のまま。
彼は上着を羽織らない状態で。
固まっていた。
うーん。
そろそろ夜明けなのですが。
夜明け前というのは、非常に暗いと言われる。
まっくらな場所に。
日の片鱗が差し込み出す。
すると。
仄かに世界が紫色に染まり出すのだ。
前世では
『春はあけぼの』
で始まる有名な随筆があったけど……。
そんなハッピーな気分じゃないわよね?
春はほのぼのと明けていく時が良いって……。
清少納言の言う春よりは、大分季節が通り過ぎているけれど……。
現代人の私からすると、まだまだ、薔薇の季節は春ですがね。
日が昇る時って、山が陽射しを遮るから、山の輪郭に沿って光が仄かに白み出す。
その山に掛かった雲にも光が当たり、真っ黒だった雲が、紫色になる。
つまりはさ。
朝陽って言うのは、雲よりも山よりも下にある訳。
陽射しというのは上に有るイメージが強いけど、真横より下にある。
だんだんだんだんと日が昇り始めると、空と地の境目がボンヤリと淡くなって行き、世界が明るくなっていく感触が伝わる。
ああ。夜が明けていく。
世界が明るくなって行く。
そんな風に思う人がいっぱい居たのね。
いっぱい居る所が微妙に悲哀なのだが……。
素敵っちゃあ素敵よ。
ついでになんだか清涼としてロマンチックですらある。
ただね……。
私は下着姿にベッドの上で正座なんでね。
朝陽なんか見えやしない訳だけど。
私達。
結局一睡もしていません。
眠くはないし……。
頭も冴えている。
ルーファスの方をチラリと見ると、彼も完徹コース。
しかも微怒中?
「……ミシェール」
「……ハイ」
「その願いは聞かなかった事にします」
「…………」
私は下着の端をひらひらと弄る。
そう来るんだ。
「……なぜ?」
「………言わなくても分かると思いますが、危険だからです」
……危険か。
そりゃ、大物ですものね?
私なんか簡単に捻り潰される?
意味ない?
「無駄な事は、楽しい事以外しない主義です」
無駄でも楽しければするんだ………。
ここはさー。
普通なら。
『無駄なことはしない主義です』
と来る所だけど。
微妙なカーブね………。
でも。
私も無駄なことは嫌いなタイプだ。
頑張ってやるのなら。
意味のあるものが良い。
危険ならば。
危険をおかす価値がなければいけない。
そして出来れば。
危険を取り除いてからやるべきだ。
そうでなければ、今より事態は悪化する。
目的の再確認だ。
私は、殺人幇助をしたと思われる人間の動かぬ証拠揃える。
そして、その相手を正式に追い込む。
それが目的?
いいえ。
違うわ。
殺人幇助をした人間に嫌味を言う?
これも全然違う。
それこそ意味がない。
そんな些末な感情の充足を求めている訳じゃない。
実行犯であるシンデレラの減刑。
修道院送り。
そして幇助者の手の届かない所に軟禁。
コレでしょ?
中心を見失って軸がずれる所だったわ。
早計は全てを失う。
私が死んだら誰がシンデレラを助けるんだ。
という話だ。
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悔しかったのね?
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あの子は全てを失った。
最愛の人の恋人になれなかっただけじゃない。
姉という立場も失ったのだ。
文字通り全てを失った………。
身分も。
自由も。
未来も。
お金も。
本当に、綺麗さっぱり何にもないわね?
だからさ?
姉Bくらい居てもいいじゃない?
それくらい許されるわよね?
最低ラインで掬い上げる。
目立たぬように。
騒がぬように。
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