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【百四十九話】永遠の規則性。
しおりを挟む私は天井裏で目的の再確認をしていた。
シンデレラの待遇の改善と修道院への転居。
もう二度と接触をして欲しくない旨。
そして、彼自身がした事を、今後はしないで欲しいという事だ。
でもーー
当然、こちら側の欲求だけしたところで、交渉にはならない。
それが故に、オリヴィアにお願いしたのはストッパー。
ーー結婚か……。
二人の言葉が、ネズミだとか人形だとか例えになっていて、分かりにくいが、『金色の悪戯ネズミ』とは彼の事で良いのよね?
シンデレラの髪も金色だから、微妙に分かりにくいわ。
「オリヴィア」
「何?」
「簡単だよ、悪戯ばかりしているネズミは小さな檻に入れてしまえば良い」
「やっぱりそうなるかしら?」
「……ただ、檻に入っているだけだと逃げ出してしまう危険があるから、安心は出来ないけれど……」
「じゃあ、どうすれば良いの?」
「……眠り薬を入れた食事を沢山与えて、そのまま永久の眠りに就けば、お互い幸せなんじゃない?」
「……物騒な発想ばかりね?」
「……そう? 希望だよ。希望」
何?
金色のネズミってやっぱり実行犯のシンデレラ?
「一昨年のダンスパーティーで君は薄い水色のドレスを着てたよね? オリヴィア」
「……ええ、着てたわね」
「普段は濃いドレスばかり着ているのに、あの日は違っていた……」
「確かに少しイメージが違ったわね?」
「……君が結婚するのなら、金色のネズミは檻に閉じ込めるべきなんじゃないの?
薬を飲ませるのなら、第三公爵家に相談すれば良い。紹介するよ?」
やっぱりこの人、第三公爵令嬢であるティアナを知ってる?
「私の末の妹に第三公爵令嬢を紹介したかしら?」
「していないよ。影の一人が彼女と同窓だから少し噂を流しただけかな……」
「その影君が間接的に色々指導したって事で良いのかしら?」
「……まあ、面白半分、退屈凌ぎ程度にね」
嘘?
今、口を割った?
何で?
「二年前、金色のネズミは水色の花を手折った。あんまり可憐だったから………」
………。
水色の花ってオリヴィアお姉様よね?
「オリヴィアが結婚するというのなら、金色のネズミはきっとまた、花を折ってしまうよ?」
「……花を手折った贖罪のために口を割ったの?」
「違うよ? オリヴィアに選択を迫る為」
「………」
「……何が欲しいの? オリヴィア。正式な結婚が決まった訳でもないのに、わざわざ僕に言いに来て、何が欲しかったの? 言ってごらん?」
……お姉様。
相手の纏う空気が変わったわよね?
攻撃的になった?
嗜虐的になった?
「……末の妹を貴族牢に移して欲しい事。刑は修道院送りにして欲しい事。次女の婚約を祝福して欲しい事。次女の婚約者にも三女にも今後手を出さないで欲しいこと」
「………ほう」
オリヴィアお姉様は一息に言い切った。
私がお姉様にお願いした件だ。
次女の婚約者に手を出すな…。
というのは彼女のオリジナルね。
「オリヴィアの上の妹は馬鹿なのか? 自分を殺そうとした相手を助けようなんて……」
………。
そう来るんですね? 分かります。
「……次女と三女は、心の一部が少しだけ繋がってしまっているのよ」
「ふーん」
「……あなたには分からない感覚?」
「打算的なオリヴィアにも分からない感覚だろ?」
「……そんな事はないわ。私の中にもある感覚ね。だから飽きもせずあなたに会いに来る」
「……怖くないの? オリヴィア」
「怖くないわね、まったく」
「勇敢だね?」
「それ程でもないわ。金のネズミさんは可愛いものよ? 私に噛み付いた事をずっとずっと後悔してる。傷を舐めたいのに舐めることも出来ない、可愛い私のネズミさん」
「……へー」
「だからね、私、決めたのよ? 私のお人形を今後囓らないって約束してくれたなら」
「……約束したら」
「許してあげようって」
「……」
……何か。
話の内容が、かなり深くなってきた。
盗み聞きが少し心苦しい。
「……許してどうするの? 何もなかった事にして、オリヴィアは嫁ぐの?」
「私が嫁いだら、金のネズミさんがまた暴れ出すわ」
「でも、約束の代償に許すのなら暴れないんじゃない?」
「そう? あなたはそう思う?」
「思うも思わないも、金のネズミには二つの選択肢しかない。約束をして大人しく生きるか。約束を反故にして暴れるか」
ちょっと苦しい二択ね?
言葉の絡繰りに隠れているけど、金のネズミには何のメリットもない。
「その約束で、金のネズミさんは前者を選んでくれるかしら?」
「選ばないと思うよ? 所詮嫁ぐのなら金のネズミに約束を受ける意味が無い」
「……どうすれば約束は果たされるのかしら?」
「オリヴィアが、未来永劫誰のものにもならないとかだと代償に値するね?」
「そんな事を金のネズミさんは望むかしら」
「……望むんじゃない?」
「じゃあ、決まりね。さっき言った五件を約束して。私も誰にも嫁がないって約束するわ」
決まったーー。
オリビアお姉様ナイス交渉術。
しかし。
オリヴィアお姉様の行かず後家も決定した瞬間だ。
良いのかな?
これで……。
こんな身内の軽減行為には書面なんて残さないだろうけど。
一応、彼の彼女の間の約束だ。
後家は決まりだろう。
「オリヴィア」
「なに?」
「……生涯誰にも嫁がないの?」
「あなたがそれを言う? 約束させたのはあなたではなくて?」
「…………」
オリヴィアお姉様はクスリと笑った。
「嫁ぐかも知れなくてよ? ちゃんと約束が守られたなら」
「それは契約違反だよ」
「違反じゃないわ? あなたは気付いていて? この契約には一つ穴があるのよ?」
「どこに?」
「未来永劫誰にも嫁がない。けれどーー」
………。
「金色のネズミさんに嫁ぐのだけは有りじゃない?」
お姉様の朗らかな笑い声が天井裏まで響いた。
「約束を守ってね。私の可愛い金色のネズミさん。二年前、私、あなたにプロポーズされたのよね? そうなのでしょう?」
聞こえたもの……。
耳元で。
あなたの声が……。
そう受け取っておくわ。
姉は小さな声でそれだけ呟いた。
金色のネズミは、やがてこの国の階に上る人。
姉はいつか、第二王子様の身分さえ超えて、この国の頂点に並び立つ。
そんな気がしてきた。
そして、姉こそがその場所に一番似合っている。
×××××××××××××××
いつもお読み頂きありがとうございます。
執筆に当たりブクマ&感想&誤字脱字報告をしてくれた皆様。
皆様の存在がとても励みになりました。
この場を借りて感謝を申し上げます。
全百五十話になりましたこの作品もこの話で一区切りとなります。
以後は、数話のエピローグを添えて一章了となります。
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