151 / 158
【百五十話】閑話1 金色のネズミ。
しおりを挟む
視点が主人公以外になります。
この話は金色のネズミです。
×××××××××××××××
父はこの国の最高位である王だった。
そして母はその王に愛されている正妃。
それだけ見たならば、誰が僕の不幸を疑うだろう?
いや。
実際不幸ではないのだ。
毎日の衣食住は確保されている。
メイドも使用人も沢山いて。
僕はそれらに傅かれる立場の人間。
けれどーー
胸の奥がぞわぞわする。
何が満たされていないのか?
何が僕を不安にするのか?
正体すら分からないーーけれど僕は。
けっして幸せではなかった。
もしも明日、僕が死んだとしても。
僕は決して哀しくないし。
きっと僕以外の人間も哀しくない。
そう多分。
僕はこの世の誰とも心が繋がっていないのだ。
誰の心も僕の心に触れてはいない。
つまるところーー
僕は本質的な意味で。
誰からも愛されていないのだ。
そこまで考えると、両方の目からぶわりと涙が吹き上がりそうになるから、急いで目頭を押さえる。
ひっこめ。
ひっこめ。
衣食住が保証された籠の中で、僕はただ息をしていれば良いのだから。
涙はひっこめて。
僕は何となく、表情を作れば良い。
僕が泣くと少し大事になるし。
美味しいご飯を美味しいと。
綺麗な服を綺麗だと。
ただただ感謝して生きれば良いのだ。
実際僕は、物質的な面では国で一番恵まれている。
愛情に恵まれていないのは些末なことなのだ。
全部が恵まれている人など、きっとこの世にはいないのだから。
一転したのは、二歳下の弟と会った時。
折り合いをつけていた感情に罅が入った。
全てに恵まれている人間はこの世にいるのだと。
知ってしまったのだ。
彼は僕の弟で有りながら。
全てに恵まれていた。
物質的な環境も。
そしてーー両親の愛情も。
この世は残酷だと思う……。
僕を産んだ両親さえも、子供への愛情へ差を付ける。
この世界には、親にすら差を付けられた兄弟が五万といて。
そんな現実を、受け入れる事しか出来ずに藻掻いている。
だってそうでしょ?
僕は何をした分けでもない。
弟が母の体質を色濃く顕現させた。
その事で。
彼は両親から愛され、僕は愛されなかったのだから。
僕は僕のまま、髪がプラチナブロンドに変わったのなら、きっと彼らは僕を愛しただろう。
僕が母と同じ翠色の瞳になったのなら、きっと彼らは僕を愛しただろう。
けれどーー
そんなあやふやな愛なんていらない。
髪の色で決まる愛なんて。
瞳の色で決まる愛なんて。
そんなものはいらないのだ。
真っ黒く染まっていく心の中で。
僕は僕だけを愛してくれる人を切望していた。
悔しさや悲しみが体中から溢れ出しても、僕は僕を止められない。
僕は全てに恵まれた弟に、兄弟愛だけは与えないと。
そんな醜い誓いの中で。
静かに狂っていった。
綺麗な声でさえずる、可愛い小鳥。
快活で聡明な水色の羽をした小鳥。
手の中に閉じ込めて、羽を折ってしまった。
飛べない小鳥。
耳元で小鳥が囀る。
可愛い声で鳴き続ける。
君さえーー
君さえ。
僕の側にいてくれたなら。
僕は人に戻れるだろう。
鳴き声が耳に響く。
僕の可愛い小鳥。
僕だけの小鳥。
この話は金色のネズミです。
×××××××××××××××
父はこの国の最高位である王だった。
そして母はその王に愛されている正妃。
それだけ見たならば、誰が僕の不幸を疑うだろう?
いや。
実際不幸ではないのだ。
毎日の衣食住は確保されている。
メイドも使用人も沢山いて。
僕はそれらに傅かれる立場の人間。
けれどーー
胸の奥がぞわぞわする。
何が満たされていないのか?
何が僕を不安にするのか?
正体すら分からないーーけれど僕は。
けっして幸せではなかった。
もしも明日、僕が死んだとしても。
僕は決して哀しくないし。
きっと僕以外の人間も哀しくない。
そう多分。
僕はこの世の誰とも心が繋がっていないのだ。
誰の心も僕の心に触れてはいない。
つまるところーー
僕は本質的な意味で。
誰からも愛されていないのだ。
そこまで考えると、両方の目からぶわりと涙が吹き上がりそうになるから、急いで目頭を押さえる。
ひっこめ。
ひっこめ。
衣食住が保証された籠の中で、僕はただ息をしていれば良いのだから。
涙はひっこめて。
僕は何となく、表情を作れば良い。
僕が泣くと少し大事になるし。
美味しいご飯を美味しいと。
綺麗な服を綺麗だと。
ただただ感謝して生きれば良いのだ。
実際僕は、物質的な面では国で一番恵まれている。
愛情に恵まれていないのは些末なことなのだ。
全部が恵まれている人など、きっとこの世にはいないのだから。
一転したのは、二歳下の弟と会った時。
折り合いをつけていた感情に罅が入った。
全てに恵まれている人間はこの世にいるのだと。
知ってしまったのだ。
彼は僕の弟で有りながら。
全てに恵まれていた。
物質的な環境も。
そしてーー両親の愛情も。
この世は残酷だと思う……。
僕を産んだ両親さえも、子供への愛情へ差を付ける。
この世界には、親にすら差を付けられた兄弟が五万といて。
そんな現実を、受け入れる事しか出来ずに藻掻いている。
だってそうでしょ?
僕は何をした分けでもない。
弟が母の体質を色濃く顕現させた。
その事で。
彼は両親から愛され、僕は愛されなかったのだから。
僕は僕のまま、髪がプラチナブロンドに変わったのなら、きっと彼らは僕を愛しただろう。
僕が母と同じ翠色の瞳になったのなら、きっと彼らは僕を愛しただろう。
けれどーー
そんなあやふやな愛なんていらない。
髪の色で決まる愛なんて。
瞳の色で決まる愛なんて。
そんなものはいらないのだ。
真っ黒く染まっていく心の中で。
僕は僕だけを愛してくれる人を切望していた。
悔しさや悲しみが体中から溢れ出しても、僕は僕を止められない。
僕は全てに恵まれた弟に、兄弟愛だけは与えないと。
そんな醜い誓いの中で。
静かに狂っていった。
綺麗な声でさえずる、可愛い小鳥。
快活で聡明な水色の羽をした小鳥。
手の中に閉じ込めて、羽を折ってしまった。
飛べない小鳥。
耳元で小鳥が囀る。
可愛い声で鳴き続ける。
君さえーー
君さえ。
僕の側にいてくれたなら。
僕は人に戻れるだろう。
鳴き声が耳に響く。
僕の可愛い小鳥。
僕だけの小鳥。
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました
タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。
ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」
目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。
破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。
今度こそ、泣くのは私じゃない。
破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる