転生したらシンデレラの義理の姉でした!? ~悪役令嬢まっしぐらです~

日向雪

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【百五十三話】閑話4 フィラル国王。

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海洋王国フィラル国王の視点です。

×××××××××××××××








 まだ若かった頃。

 何も知らない若造と言ってよかっただろう頃。





 大きなミスを犯した。

 人生、生きていれば誰だとてミスは起こすものだと思う。





 ーーけれど





 ミスが許されない人種も確かにいる。





 医師や薬師は、薬の調合を間違えましたでは済まないだろう。

 人の命にダイレクトに関わる仕事だから。





 あと御者だろうか……?

 馬の手綱を取る人間が間違えましたでは事故に繋がる。





 一時でも人の命を預かる事を生業とするもの……。

 そういう種類に類する仕事。





 それ故彼らは、指差呼称を行うという。

 音と動作を入れて確認するということだ。





 薬師は薬棚に向かって、指を差し、桂皮良し、芍薬良し、甘草良しと確認する分けだ。







 王に取って指差呼称とはなんだろうか?







「ウンディーネの古い因習に囚われてはいけません。王族自らか革新的に生きねばなりません。それが国民の勇気に繋がります」



「プラチナブロンドや薄い金髪の女性しか妃になれないなど、これは王家が行っている国民差別です。王自らこの差別を無くすべきです」



「我が国が水の都と言えど、茶色の髪や黒い髪の国民とているのです。赤子が生まれればどんな子供でも祝福されるべきです」







 なんと耳触り良い言葉なのだろう。

 この言葉を疑う人間なんているのだろうか?





 それはもちろんそうだ。

 どんな髪の色の子も愛おしい我が国民だ。





 そんなもので差別した事は一度たりともない。

 私自身、薄い栗色を綺麗に思うし、黒髪には神秘を感じる。





 それは一つの長所だとすら思う。





 私の婚約決議に、賛成した貴族の声は今もハッキリと憶えている。





 しかし彼らは。





 何故賛成した?

 理由は必ず在るはずだ。





 決して黒や茶色の髪をした赤子の為ではあるまい。

 自分の思惑の為に、赤子や国民を利用したに過ぎない。





 目的をつらつら考えるに、多岐に渡るが……。

 しかし……。





 小事で考えるなら、自分の娘を王子妃にする道筋を作る為。

 もしくは、本当に何も考えていない、浅慮な正義。





 大事で考えるなら、王家の弱体化だ。

 フィラル国は精霊と共にある国。





 王族と精霊の絆さえ断ち切れば、国は弱体化する。

 海洋王国フィラルを狙った隣国の内部工作。

 もしくはクーデターを狙う国内の反乱分子。





 精霊を敵に回して、王家と争う馬鹿はいない。

 故に、王と精霊を引き離そうと思うのは当たり前ではないか。





 王は注意深く精霊を切り離そうとする輩を見定めなければならない。

 王の最大の仕事と言っても良いはずだ。



 古来賢王達は、どんな甘言にも乗らなかった。

 ウンディーネの好みそうな娘を王妃にしてきた。





 それは徹底していた筈なのだ。







 国王の過ちというのは許されるのだろうか?

 いいや。

 決して許されない。





 この手に何人もの命を乗せている。

 決して間違ってはならないのだ。







 思えば苦言を申し立てた貴族だって二分する程いたではないか。





「王家は決して差別などはしていない。側妃には何人でも好きな髪色の娘を迎え入れたら宜しい。何の問題もない。ただし、正妃はウンディーネ様にお伺いを立て、了承を得た者でなくてはならない」



「その基準があやふやだと言っているのだ」



「なんだと、何があやふやなものか。分かり易いではないか? 精霊の祝福を与えられれば妃なのだ」



「精霊が実際にいるかなど、分からないではないか!」



「なんだと! この国を守り続けて来た奇跡の力を愚弄する気が!」





 言い合いは果てしなく続いたし、最早大人の喧嘩だった。





 けれどーー





 彼らは彼らの貴族生命を賭けて、国を守ろうとした愛国者ではなかったか。





 若いとは恐ろしい。

 なんとも浅はかで恐ろしい。





 何も見えていない所が恐ろしい。

 見えずに藻掻いているのが苦しい。





 そして体中に充満する後悔が、少しずつ精神を侵蝕している。

 後悔という名の虫に喰われ続けた身が痛い。





 痛くて、痛くて、切り裂けそうだ。



 ああ……。



 血の臭いが……。



 喉の奥に迫り上がってくる。





 ブホッと噎せた所で、右手で口元を押さえる。





 もう……。

 もう……許して下さい。





 私はもう体中が後悔で埋め尽くされているのです。





 もう……。

 私には………。





 口元に迫り上がった真っ赤な鮮血を押さえていると、ドアをノックする者がいる。





 コンコンとノックする。





 ノックをされても返事が出来ない。

 口の中は血で満たされている。





 ドア越しに不審に思った人物が恐る恐るドアを開け、驚いたように駆け出す。





「お父様」





 彼女は血を拭い、背中を擦り介抱してくれた。

 私の一人目の娘。





 よくできた優しい娘なのだ。

 彼女の母を側妃として召し上げたなら、こんな不幸な子にはしなかったのに……。







 ベッドに寝かされ落ち着いた頃。

 彼女は言った。





「私の二十歳の生誕祭に国民に広く絵本を配ろうと思います。子供のいる家には全て。絵も字も版画です。そこに父と叔母様の物語を載せます。そして隣国に王子が生まれる所までーー」





 彼女は私の手を取りながら笑う。





「広く叔母様がお産みになった御子の事を知ってもらう為です。私がしっかり布石を作ります。お父様、安心して下さい。もう心配しないで下さい。私がしっかり元在った道へ戻します」





 心配しないで、と言って何度も何度も私の手を撫でた。

 優しい優しい娘。

 彼女の母に良く似ている。





 綺麗な亜麻色の髪が陽に透ける。

 動く度に揺れる綺麗な髪。  





 その髪が……。

 今は目に沁みる。











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