王国一の魔導師(♂)でしたが、今では王子に溺愛されています。

日向雪

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四話 次期筆頭魔導師の行く末

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 リオが寝ている間に、事態は思わぬ方向に進んでいた。
 王国の魔導師次官は神の審判により、男から女に変わった。
 数刻の内にそれは関係者各所どころか、城下にまで響き渡り、秘匿にしたかった本人の気持ちなど露知らず、リオの失態? は瞬く間に広がり知らぬ人はいないという大ニュースになった。


 王都から発した情報が、今頃隣町で号外となって撒き散らされ、更には街道を伝って隣々町に。


 リオはもう恐ろしくて、ベッドから這い上がる事が出来なかった。
 気を失い、自室のベッドに寝かされている間に、想像を遙かに超えた事態に発展していたのだ。


 当たり前と言えば当たり前だが、王国はこの日を固唾を呑んで見守っていたのだ。
 それはそうだろう。自国の王子が豚になるなんて大事だ。


 当然隣国も固唾を呑んで見守っていた。
 百年に一度の隣国の審判だ。無関心ではいられないだろう。


 それがどうだろう。
 蓋を開けて見れば、王子は豚にならず、盟約を結んだ魔導師が男から女に変わるなど。


 そもそも意味が分からない。
 魔導師が百年に一度の神の審判で女になってどうする?
 何を審判したのだ?


 誰でも行き着く疑問だ。
 そして人々は早計に答えを出した。


 王子は未婚だ。
 王太子の癖に、婚姻に消極的だったと聞く。
 それは王太子の職務怠慢だ。
 故に、盟約の魔導師が女に変えられた。
 つまりこの魔導師を妃に迎えろという天恵だろう。


 そこからがまた早かった。
 神託で婚姻を結び、神のお怒りをお鎮めしなければ。
 そうだ婚姻の衣装を取り急ぎ用意しろ。


 そして何と侍女が数時間後に神官の衣服を少しアレンジした衣装をリオの自室に持って来たという寸法だ。


 リオはその衣装を見て再度気を失う所だった。
 だがしかし、ここで気を失ったら数時間前の二の前である。
 意識をしっかり持たなければ。


 白い婚姻衣装。
 ……皆の思考は一体どう飛躍したらこんな事になってしまったのだろう。

 魔導師次官と王子の婚約なんてーー
 有るわけないじゃなか。
 宰相と王妃を兼任するなんて聞いたことがない。


 次期筆頭魔導師は次期筆頭魔導師であり、結婚しようがその事実は変わらない。
 魔力を持って国の矛となり盾となる。
 由緒正しいルビウス家はどうなるのだろう?
 妹が婿養子を迎えるのか?
 結構解決の糸口はあるな?


 いや、そうではない。
 そもそもリオは男に戻りたい。
 ルビウスの守護者。絶対的な存在。王すら跪かせる程の存在なのだ。
 見目麗しく、有能な王太子補佐官。
 結構順風満帆な人生だった。
 王太子が婚約した暁には、リオも婚姻しルビウス家の長子として家督を継ぐ。
 そんな未来が広がっていたのだ。


 リオは毛布を頭までスッポリ被ってガタガタと震える。
 皆を正気に戻さないと。
 どうやって?
 取り敢えずは。

「おい、アシュリー」

 ベッドの傍らで、リオのセレモニードレスを見ていた王子に声を掛ける。

「お前と俺は親友というか兄弟というかそいう近しい関係だ。お前も俺と結婚などとはゆめゆめ望むまい。皆の意識を正して来てくれないか?」

 アシュリーはというと、軽く首を横に振って答える。

「本気で言っているのかリオ。神の審判に逆らえる王族などどこにもいない。まだ妃を迎えていない身だからね、神に従うのが無難だろう」

「………」

 本気か。
 この王子は。
 リオと結婚しようというのか。

「無難で俺と結婚するのか?」

「ああ、無難は大切だ」


 リオはベッドの中で泣きたくなった。
 唯一の味方だと思っていた人間が味方をしてくれない。
 どころかあっさり裏切った。


「お前は男を抱けるのか?」

「今のリオは絶世の美女だ」

「……そうなのか」

「控え目に言って、大陸一の美少女だな」


 嬉しくない。


「腰まで伸びた漆黒の髪に、ルビウスの瞳。色白の肌に長い手足。スラッとしているのに胸はしっかりある。誰もが振り返る程の美しい女性だ。もちろん王太子妃としても何の問題も無い」


 アシュリーにしてはよく喋るな。


「だからって俺はリオだぞ。どの面下げて婚姻を結ぶんだ」

「どの面もその面もこの面しか持ち合わせていない。普通に結ぶよ」

「随分と聞き分けが良いんだな」

「王族としての長所だ」

「………(涙)」


 リオとて筆頭貴族の人間だ。
 婚姻に夢を見ていた訳ではない。
 だがしかしーー
 幼馴染みのように育った王子と結婚?
 想像つかないのだか。


「おい。どの面下げて俺を抱くんだ」

「どの面もその面もこの面しか持ち合わせていない。普通に抱くよ」


 今、普通に抱くと言ったか?


「抱けるの? 親友なのに?」

「抱けるさ。親友だからな」

「仮面でも付けさせるの?」

「そんなものは付けないよ。言ったろ、大陸一の美女だって」

「美女でも俺の面影はあるだろ」

「面影も何も、美少年が美少女に変わったというだけで、リオのパーツは基本リオのパーツだ。少々作りが女性的になったようだが。そもそもが女顔だった」

「それは禁句だ」

「……まあ、そうだが。もういいだろ」

 アシュリーは以前を思い出したのか軽く笑った。

「王宮一の美少年。魔力を無詠唱で操る天才。九歳にして逆らう者なし。王も頭を垂れ、王妃すら道を譲る。かつての君はそんなだったかな?」

「そんな不遜じゃないだろ」

「まあ、そこまで不遜じゃないけれど、逆らえる人間はいなかった。兄殿下ですら君の意見は退けられない」

 長子の王子の事を言っているのか?
 懐かしいな。
 どこぞの離宮で引き籠もっているらしいが。


「幼馴染みの俺を何で抱けるんだ?」


 昨日まで男だった人間だぞ。
 しかも側近。


「抱けるさ。得体の知れない女の方が抱けないよ」

「得体の知れない女?」

「ああ。昨日まで顔も知らなかった女。毒を盛られるかも知れない。刺されるかも知れない。信頼を寄せていない者の前で、衣服を脱ぎ、無防備な姿はさらせない」

「ほう」

「どのみち、寝所には魔導師を入れる予定だった」

「初耳だな」

「最中に殺されたら、たまったものではないからね」

「俺が見張るのか」

「そうなるな」

「それも嫌だな」

「リオと僕なら見張りはいらない。リオは最強で信頼も出来る」


 色々とドライなんだな。
 何度も暗殺されかけた王子だものな。


「もう一度言うが、俺は男だ。この儀式に反対してくれ」

「もう一度言うが、神に逆らえる王族はいない」


 泣きたくなった。
 いや死にたくなった。
 誰か嘘だと言ってくれ。
 そうでなければ、リオは数時間後にこの王子と結婚させられる。


「リオ」

「なんだ」

「諦めが肝心だ」

「簡単に言うな」

「未来を見た方が建設的だ」

「軽いな」

「そうで無ければやっていけないだろ。王族なんて」


 そう言って、ラベンダーの花に似た、薄紫色の瞳が笑う。
 なんだか楽しそうだなアシュリー王子。
 それはそうだよな。
 お前は豚になってないもんな。
 俺は女になったけど。


 割り切るか。
 諦めないか。
 未来は二択だ。
 さあどうする?


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