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本編

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 ルビー上級ギルドは王領ルビーの北区にある国内最大のギルドである。王都エメラルドの南方にあるこの都市は王都への物流、王都からの物流によって、また王都よりも大きな敷地と広大な水資源によって大いに栄えた。その勢いはかつての領主がこの都市を返上する程である。
 冒険者という職業は多種多様な人々を内包する。それらが一箇所に集まると対処できないほど大きなトラブルになるため大きな街では二種類のギルドがあるのが一般的だ。
 上級冒険者ギルドは名家以上の子女と見目の良い女性のみが立ち入ることが出来、下級ギルドは誰でも利用できる。上級ギルドと下級ギルドの組織は同じで下級ギルドへの依頼は上級ギルドの受付で行えるので一定以上のステータスを持つものはわざわ下級ギルドへ赴く用がない。
 私は上級ギルドへの入場を見目の良い女性として許されていた。奥ゆかしく奨学生と呼ばれている。
 ここには朝早くに依頼ボートに張り付く人々はいない。上級ギルドでは護衛依頼や生産職向けの依頼がメインだからだ。その生産者向けの依頼を探すべく錬金術師のマリーは相棒の精霊術師をつれてボードの依頼を吟味していた。探すのは精霊術が必要な秘薬の錬成依頼である。
 秘薬の類は報酬が良い。この手の報酬は高ければ高いほどよいとされるが相場に対して高すぎるものは何かとトラブルになりがちなのでちょうど相場くらいを選ぶのが無難だ。酷いときは納品された秘薬が毒薬の材料にされ、暗殺の道具にされることもある。そうなればこちらも共犯者だ。
 ギルド経由で依頼を受ける限りその危険はほとんどないけれど警戒するに越したことはない。
 また、素材が依頼料を超えることもある。
 たまにギルドからそんな依頼を頼まれることもあるがそういうときは素材はむこうもちだから大丈夫、へんなことになってもこっちまで責任は来ない。これが指名依頼のいい所。断れないのが悪い所。
 精霊術を用いて錬成する秘薬はところにより精霊薬や霊薬と呼ばれることもあるのでそちらも確認するがそこまで多くは無い。
 問題なさげな依頼からできるだけ素材や工程が共通なものを3つほど選んで受付のお姉様に頼むと個室に通されて契約だ。納期は1週間。調薬に失敗してももう一度挑戦する時間も資金もあるから安心だけど油断しない。
 そのまま用意して市場に繰り出す。良いものがあればここで買うのが一番楽。ウルスラには頑張って相場を教え込む。そろそろ一人で買い出しに行けるようになって欲しい。いくら精霊が付いていてきっと困ることは無いのだとしてもやはりこのままでは心配だ。
 癒し草の鑑定をして、値切る。この草はよく使うがよく取れるためそこまで高くは無い。だいたい一束銀貨一枚くらい。それに銅貨一枚上乗せして魔力草やカラカの実、ヤノゴの根などのうち質の悪いものを買い取る。こっちは私の研究用。ここ数日売れ行きが悪かったらしく全部で木箱一つ分も買うことが出来た。全部私の時間停止アイテムボックス行き。

「疲れた( ´ ~ ` )」

 他にも何件か薬草店回って、次は魔石を見に行こうとしたら、ウルスラがそう言ってぐずり出した。お日様が南の空のてっぺんにある。気がつけばもうお昼だった。
 うっかりしていた。申し訳ない。きっと彼女はお腹ぺこぺこに違いない。近くのカフェで昼食にすることにする。今日は少し奮発してウルスラの大好きな魚料理の店に入る。彼女はムニエル、私はフライ。待ちきれない様子の彼女をなだめているとフライが思った以上に早く来た。やっぱりフライは早い。睨みつけるように皿を見るウルスラにフライを渡す。
 ザクっと油っこいアニジのフライに我先にとかぶりつく彼女を見守りつつ追加でもう1皿今度はシチューを注文する。
 そんなこんなで彼女は8皿も平らげて私はそこからちょうど1皿分くらい取った。合計銀貨5枚。日雇い一日分。でも下級ポーション5本の買取価格も同じくらい。
 午後からはしっかり働こう。



 残念ながらいつも通り一部素材は市場で調達出来なかった。しかも定期便を利用できない朝早くに収穫するべき素材ばかり。仕方が無いので採取に向かう。女二人では危険なので冒険者を雇う。相場は金貨5枚に早朝手当でさらに1枚。布団に張り付くウルスラを引き剥がして日の出前に東門の前に集合。護衛代のもと取れるだけとってやる。だからウルスラもしっかり採取をしろ!
 森に入ればすっかりご機嫌になったウルスラがガンガン必要なものも必要でないものも集めていくのでそれを見守りつつ護衛の冒険者を警戒する。バラバラのパーティーを雇うようにしているがたまに結託していたり、結託しだしたりするから油断ならない。



 今日は何事もなく終わり、街へ帰還する。いつも以上に収穫があったのでホクホクだ。
 カウンターで使えない素材を売却した、それ以外は加工してから売り払うからだ。
 そうしてようやっと調合、の前にウルスラはお昼寝。メイドのリリアに任せて今度こそ調合開始。とはいえ霊薬はウルスラなしでは作れないため屑薬草で錬金薬を作っていく。屑薬草でも工夫しだいで中級が出来たりするからなかなか面白い。
 現金にもおやつの時間に起きてきたウルスラと一緒にアフターヌーンティーをーーー今日のおやつはスコーンだった。サクサクでクロテッドクリームをたっぷりつけて楽しんだーーーじっくり楽しんだらいよいよお待ちかねの霊薬の調合の時間だ。
 まずはウルスラが調合用の釜に喚起をかける。すると釜の周りに精霊が集まる。今回作るのは毒消しなので水精霊の青色。精霊は普通は見えないがウルスラの影響かある程度私も見ることができている。
 慎重に刻んだりすり潰した材料を投入する---ここで一部材料は直前で切り刻む方が良いが、ウルスラの体力が持たないため断念している---木べらで正確にかき混ぜる。ここ右に何回、左に何回と少しのことで結果が大きく変わるため緊張を強いられる。

 右3回、左3回、真ん中を切るように右左右.....

 錬金術師の職業を持っていても実際にそれを活用できる人が少ないのは調合の難易度ゆえだ。
 ゆっくり、ゆっくり、薬液自体が光を帯び始める。それに伴って精霊の動きが早く、激しくなり明滅し始める。その明滅が最高潮を迎えたその瞬間。

「調合終了(フィニー)」 

 ウルスラの凛とした声と共に精霊が見えなくなり、後には秘薬が残された。秘薬に杖を振って用意した瓶に詰め替える。上級毒消しの秘薬が10本。おおよそ白金貨1枚の価値。依頼品なのでさらに金貨10枚が上乗せされる。

「もうひとついける?」

「全部やりましょう。今日は精霊が楽しそうだからいけるわ(*ˊ艸ˋ)♬*」

そう言って楽しそうに笑ってくれる彼女が好きだ。

 さて、無事錬成と納品が終わると何をすべきだろうか?
 もちろん打ち上げである。
 利益の5割を貯蓄し、将来アトリエを得るために貯めているし、2割は設備投資に消えるがミノタウロス肉くらいは買えたりする。
 三人とも酒はあんまりなので酒はなしでたらふく食べる。

「美味しー」
「( ゚д゚)ンマッ!」
「肉がうめぇ肉がうめぇ」

 肉汁ハンパないんだからそりゃ美味い。料理上手のリリアが焼けばさらに美味い。カブリとときおりブロッコディーやポティトゥと言った副菜とライスを書き込みつつ食べるステーキの美味しいこと美味しいこと。やはりステーキを食べるならガーリックバターが一番。油と油があわさり最強に見える。


 三人とも心ゆくまで食べて深夜までしゃべり続けたのは言うまでもない。
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