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第11話 運命の日へのカウントダウン
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予想外の来客と、私付きメイドであるマリエッタの計らいによって、狭いクローゼットの中でドキドキ★ぎゅうぎゅうの密着時間を過ごしてしまった私、エリスレアとジェイドだったが、とりあえず無事に客人に気が付かれることなく、その場をやり過ごすことが出来た。
私たち二人をクローゼットから呼び戻したマリエッタは、私もジェイドもお互いに気恥ずかしさと気まずさから無言だったのを、恐らく"初々しい恋人達が恥らっているのだろう"とでも思ったのか、大変満足そうにニコニコとしている。
まったくこの女……。
「お嬢様にジェイド様、礼には及びませんよ!私はお二人の味方です。これからも何かあった時は遠慮なくこのマリエッタを頼って下さいね!!」
言葉とは裏腹にドヤ顔で褒めて褒めてとアピールしてくるマリエッタを、私は再び華麗に無視して、とりあえずジェイドに帰還を促すことにした。
王子付きである彼を長時間拘束してしまうのも色々と問題があるし、あんなことがあったせいで、私としても結構気まずかったのは確かだ。
そして、その辺は彼も同じ気持ちだと思う。
「…ジェイド、今日は色々と面倒に巻き込んでしまって本当にごめんなさいね」
「…いえ、そんな…!エリスレア様が自分に謝罪するようなことは何もありません。むしろ、自分が―…」
「ジェイド」
その言葉の続きを言わせてはいけないと思った私は、咄嗟にぴんと立てた自分の人差し指を彼の唇に押し当てた。面食らった表情で固まるジェイド。
私の後ろの方でまたマリエッタがキャーキャーと騒いでいるが、あの子はまた後で〆ればいい。今はジェイドへのアフターフォローの方が先決だ。
「お茶会、楽しかったですわね?」
それはもう「はい」か「YES」しか許さない問いかけだ。
それ以外の余計な言葉など有無を言わさず封じ込めて微笑む私に、ジェイドは観念したように小さく頷いた。
彼がいつも通り丁寧に頭を下げて部屋を出て行った後、私はマリエッタに、自分が指示していない余計な行動をとるのは絶対に止めろということを、マリエッタがもう許してくれと泣いて懇願してくるまで、延々懇々と説教した。
確かに私は、ジェイドが私に惚れるくらいの好感度を稼ごうとはしていた。
けれど、それはあくまで"そのくらい"の数値を上げたいということであって、それを自覚させるような決定的なイベントを起こしてしまってはダメだったのだ。
あんな風に、突然のトラブルに巻き込まれたとは言え、狭い暗所で二人きり密着して…、互いの早まる心臓の音と熱を伝えあってしまったら…。そしてそれを意識して気まずくなってしまったら… それはもう恋愛イベント第一段階なのである。
全く全く全くもう… 予想外… もとい大誤算だった…。
ジェイドが、あんな表情を私に見せるくらいに私を意識しているなんて思っても見なかった。
少なくともゲームで彼を攻略した時は、彼が照れた顔なんて見せてくれるまでにもっと時間がかかっていた記憶がある。だからこそ、まだまだ好感度を上げても大丈夫だと見積もっていたのに…。何故だ何故だ…。
ジェイドは、私の可愛い可愛いアリシアよりも、本当はエリスレアみたいなちょっとキツめの美人顔や勝気で我儘な性格が好みだったの?なんて、頭を抱えてしまう。
アリシアを取られてしまうのは絶対に嫌だが、自分にとって最強に可愛いヒロインであるアリシアよりも本当は別の女の方が好み…なんて話になったら、それはそれでムカつくという非常に面倒くさいジレンマが自分の中にあることを自覚する。
そして、それはそれとして…、彼が暗闇の中自分を見た切なげな、少し熱の篭った眼差しや、自分の肩を強く抱いた彼の腕の感触が、体にまだ残っているような気がして、また少しだけ複雑な気分になる。
言ってしまえば"エリスレア"も"波佐間悠子"も、恋愛経験には乏しい恋に恋する乙女なのだから、あんな風に見つめられたら、あんな風に身体を抱かれたら… 胸がざわつかないで済むわけがない。
そんな風に動揺する心を守る為、私は、桜色の髪をした愛しいあの娘が「浮気者」って、愛らしく唇を尖らせて私を睨む妄想で心を奮い立たせるのだった。
************
あの日から私は、ジェイドとの好感度をこれ以上上げないように、これまで以上に気を遣う立ち回りを要求されることになった。
ジェイドが私に好意を抱いてくれているのは確かだったし、これ以上親密になってしまったら、彼が何か行動を起してしまうかも知れないからだ。
いきなり駆け落ち話なんてことにはならないにしろ、告白なんてされた日には振ったら当然気まずくなってしまうし、受け入れてしまったら、それは彼と共に駆け落ちするルート待ったなしになってしまう。それはまずい。非常にまずい。
言葉にすると中々に最低な要求になるのだが、彼には"私のことが好きなまま、これ以上関係が進展することは永遠にない生殺しの現状維持の状態で居て欲しい"になる。もちろんこんなことを素直に口にしてお願い出来る訳がないので、私自身がうまく距離を調整するしかないのだけれどね…。
そして、そんな風にてんやわんやの好感度調整の日々を慌しく過ごしている中で、とうとう私の運命が動く日は訪れた。
それは、何かが起こることを何処か予感させるような風が強い日のこと。
窓を開けた私の長い髪を、スカートの裾を、その風は大きく靡かせた。
風と共に部屋の中に入ったきたのは知らない花の花びらと、甘い香り。
この日、王様からの呼び出しがあり、私は謁見室へと向かうことになった。
それの意味する事は一つだけ。
そこでエリスレアは、正式にクルーゼ王子の婚約者候補の"一人"としての指名を受けるのだろう。そしてもう一人…
そう、もう一人の婚約者候補がこの国にやってくる――――――――。
私たち二人をクローゼットから呼び戻したマリエッタは、私もジェイドもお互いに気恥ずかしさと気まずさから無言だったのを、恐らく"初々しい恋人達が恥らっているのだろう"とでも思ったのか、大変満足そうにニコニコとしている。
まったくこの女……。
「お嬢様にジェイド様、礼には及びませんよ!私はお二人の味方です。これからも何かあった時は遠慮なくこのマリエッタを頼って下さいね!!」
言葉とは裏腹にドヤ顔で褒めて褒めてとアピールしてくるマリエッタを、私は再び華麗に無視して、とりあえずジェイドに帰還を促すことにした。
王子付きである彼を長時間拘束してしまうのも色々と問題があるし、あんなことがあったせいで、私としても結構気まずかったのは確かだ。
そして、その辺は彼も同じ気持ちだと思う。
「…ジェイド、今日は色々と面倒に巻き込んでしまって本当にごめんなさいね」
「…いえ、そんな…!エリスレア様が自分に謝罪するようなことは何もありません。むしろ、自分が―…」
「ジェイド」
その言葉の続きを言わせてはいけないと思った私は、咄嗟にぴんと立てた自分の人差し指を彼の唇に押し当てた。面食らった表情で固まるジェイド。
私の後ろの方でまたマリエッタがキャーキャーと騒いでいるが、あの子はまた後で〆ればいい。今はジェイドへのアフターフォローの方が先決だ。
「お茶会、楽しかったですわね?」
それはもう「はい」か「YES」しか許さない問いかけだ。
それ以外の余計な言葉など有無を言わさず封じ込めて微笑む私に、ジェイドは観念したように小さく頷いた。
彼がいつも通り丁寧に頭を下げて部屋を出て行った後、私はマリエッタに、自分が指示していない余計な行動をとるのは絶対に止めろということを、マリエッタがもう許してくれと泣いて懇願してくるまで、延々懇々と説教した。
確かに私は、ジェイドが私に惚れるくらいの好感度を稼ごうとはしていた。
けれど、それはあくまで"そのくらい"の数値を上げたいということであって、それを自覚させるような決定的なイベントを起こしてしまってはダメだったのだ。
あんな風に、突然のトラブルに巻き込まれたとは言え、狭い暗所で二人きり密着して…、互いの早まる心臓の音と熱を伝えあってしまったら…。そしてそれを意識して気まずくなってしまったら… それはもう恋愛イベント第一段階なのである。
全く全く全くもう… 予想外… もとい大誤算だった…。
ジェイドが、あんな表情を私に見せるくらいに私を意識しているなんて思っても見なかった。
少なくともゲームで彼を攻略した時は、彼が照れた顔なんて見せてくれるまでにもっと時間がかかっていた記憶がある。だからこそ、まだまだ好感度を上げても大丈夫だと見積もっていたのに…。何故だ何故だ…。
ジェイドは、私の可愛い可愛いアリシアよりも、本当はエリスレアみたいなちょっとキツめの美人顔や勝気で我儘な性格が好みだったの?なんて、頭を抱えてしまう。
アリシアを取られてしまうのは絶対に嫌だが、自分にとって最強に可愛いヒロインであるアリシアよりも本当は別の女の方が好み…なんて話になったら、それはそれでムカつくという非常に面倒くさいジレンマが自分の中にあることを自覚する。
そして、それはそれとして…、彼が暗闇の中自分を見た切なげな、少し熱の篭った眼差しや、自分の肩を強く抱いた彼の腕の感触が、体にまだ残っているような気がして、また少しだけ複雑な気分になる。
言ってしまえば"エリスレア"も"波佐間悠子"も、恋愛経験には乏しい恋に恋する乙女なのだから、あんな風に見つめられたら、あんな風に身体を抱かれたら… 胸がざわつかないで済むわけがない。
そんな風に動揺する心を守る為、私は、桜色の髪をした愛しいあの娘が「浮気者」って、愛らしく唇を尖らせて私を睨む妄想で心を奮い立たせるのだった。
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あの日から私は、ジェイドとの好感度をこれ以上上げないように、これまで以上に気を遣う立ち回りを要求されることになった。
ジェイドが私に好意を抱いてくれているのは確かだったし、これ以上親密になってしまったら、彼が何か行動を起してしまうかも知れないからだ。
いきなり駆け落ち話なんてことにはならないにしろ、告白なんてされた日には振ったら当然気まずくなってしまうし、受け入れてしまったら、それは彼と共に駆け落ちするルート待ったなしになってしまう。それはまずい。非常にまずい。
言葉にすると中々に最低な要求になるのだが、彼には"私のことが好きなまま、これ以上関係が進展することは永遠にない生殺しの現状維持の状態で居て欲しい"になる。もちろんこんなことを素直に口にしてお願い出来る訳がないので、私自身がうまく距離を調整するしかないのだけれどね…。
そして、そんな風にてんやわんやの好感度調整の日々を慌しく過ごしている中で、とうとう私の運命が動く日は訪れた。
それは、何かが起こることを何処か予感させるような風が強い日のこと。
窓を開けた私の長い髪を、スカートの裾を、その風は大きく靡かせた。
風と共に部屋の中に入ったきたのは知らない花の花びらと、甘い香り。
この日、王様からの呼び出しがあり、私は謁見室へと向かうことになった。
それの意味する事は一つだけ。
そこでエリスレアは、正式にクルーゼ王子の婚約者候補の"一人"としての指名を受けるのだろう。そしてもう一人…
そう、もう一人の婚約者候補がこの国にやってくる――――――――。
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