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高校生

第21話 学校イチ美少女からのバレンタインチョコ

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 新学期が始まり、約一ヶ月がたった今日。
 教室の男子は朝からそわそわしており、机の中や棚、靴箱を見たりしている。
 中には、髪型をバッチリ決めているやつもいる。
 なぜ、男子がこんなになっているかは分かるよね!
 そう。
 今日は二月十四日バレンタインだ。
 女子が好きな男子にチョコを渡すという風習。
 男子は今年こそ貰ってやると意気込んでいるようだ。
 
 「チョコ貰えない……今年もか。隼人は貰ったか?」

 そう聞いてきたやつは美月だ。
 なんというか、貰えないのも納得できてしまう。
 たぶんだが、美月が貰えないのはイケメンじゃないからだ。
 まあ、俺が言えたことじゃないが、少なくとも美月よりかはマシだと思っている。

 「俺は貰ってないぞ」

 別にチョコなんていらない。
 ただのチョコを貰って何がいいのかさっぱり分からない。
 いや、貰えないからこーいうことを言っているんじゃないからな!
 別に朝登校したとき、靴箱を見たり、机の引き出しを見たり、棚を見たりなんかしてないんだからね!

 「今はだけど、隼人は貰えるんじゃないか?」

 美月がふと、俺にそう言った。
 俺は疑問に思い、理由を聞くと、

 「六花ちゃんがくれるでしょ?仲がいいし、本命か義理かは分からないけど、たぶんくれるんじゃないの?」

 なるほど。
 たしかに六花とは仲がいいから義理チョコでもくれそうだが、家でチョコを作っているところ見たことないな。
 もしかしたら、手作りじゃなく、お店で買うとか?

 「なるほどね。まあ、とりあえず部室に行こう」

 俺がそう言うと、美月も部室に行くことにした。
 
 部室に入ると、奈々と瑠璃が先に来ていた。

 「六花は来てないのか?」

 俺がそう聞くと、どうやらこの後用事があるようで帰ったらしい。

 「それより、はい。わたくしからのバレンタインチョコ」

 「私も作ってきました。受け取ってください」

 二人はそう言うと、僕たちにそれぞれ丁寧に包装されたチョコを渡してきた。

 「ま、マジで?!いいの?!」

 美月はとても嬉しそうだ。

 「まあ、義理だけどね!」

 奈々がそう言うと、瑠璃も頷く。

 「ありがと!めっちゃ嬉しいよ!」

 美月が嬉しさのあまり、涙目になっている。
 そんなに欲しかったのかよ!
 俺も二人に礼を言い、チョコを一口食べてみると……
しょっぱい。
 奈々のやつ、塩と砂糖間違えたな。めっちゃしょっぱいよ!……でも、そんなことは言えず、せっかく作ってくれたので、しょっぱいのを我慢しながら、笑顔で、

 「おいしい!」

 と言ってやった。
 美月も俺の考えが分かったのか、しょっぱいものを

 「うまい!」

 と言っていた。
 次に瑠璃の作ったチョコを食べてみた。
 口に入れた瞬間……何これ?
 なんか生臭いし、石みたいに固く、食えない。
 さすがにこれには嘘がつけないので、俺と美月は口の中の異物を吐き出し、聞いてみた。

 「瑠璃、これチョコ?何入れた?」

 「失礼ですね。その中には生魚をミキサーにかけたものと……えーと、何入れたか覚えてないです」

 絶句である。
 普通チョコに生魚を入れるかな?というより、入れようという発想がそもそもないよ!
 それに、なんでレシピも忘れちゃってるの?!
 この子、見た目とは裏腹に結構ヤバい人かも……
 
 「と、とりあえず、部活でも始めるか!」

 周りが静かになって、どれくらいにたったのだろうか。
 美月がそう声をかけたと同時に我にかえり、部活を始めることにした。

 午後六時。
 俺は部活が終わると、家に帰った。
 帰り着くと、六花が夕飯を作り終え、俺が帰ってくるのをリビングで待っていた。

 「おかえりー」

 「おう、ただいま」

 荷物をおろし、手を洗い、夕飯を一緒に食べる。
 食べている最中、六花がいきなり席を立ち、キッチンの方に向かった。
 そして、戻ってきたと思ったら、手に何か包みを持っている。

 「はい、バレンタインのチョコだよ」

 「え……?」

 俺はてっきり、用意していないものだとばかり思っていた。
 六花からバレンタインチョコを受け取り、食べてみると、驚くほどにおいしかった。

 「もしかして、今日用事で帰ったのって、これを作るためだったの?」

 「そう!結構大変だったからね!……それより、おいしい?」

 「おいしいってもんじゃねーよ。プロのパティシエが作ったぐらいおいしいよ」

 そう言うと、六花は嬉しそうに微笑んだ。
 こうして、今年のバレンタインは終わった。
 ホワイトデーは必ずこのチョコよりもいいものを渡そうと俺は心に決めた。
 そして、来年も貰えることを願うのだった。
 
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