最果ての僕等 【ハイエナ】

コハナ

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休憩所として解放された教室のドア開けると誰もおらず貸しきりだった。祐は窓側の机に座りふうっと息を吐いた。窓を開ければ秋らしいカラッとした少し冷たい風が肌に当たると心地いい。たくさん歩いたせいか、吏都と蜂谷のやり取りが気に障ったせいか体が怠い。このまま帰ってしまおうかと思っていると廊下から声が聞こえてきた。聞き覚えのある声に、祐は教室のドアに近寄った。


「吏都ちゃん。」
「あれ?蜂谷君どうしたの?」
「吏都ちゃんが出ていく所が見えたから。」
「え?」
「誰か探してるの?‥祐?」
「‥うん。友達連れて来てくれたからお礼言わないとと思って。」
「そんなの気にしなくていいよ。佐々原達が言い出して祐は強引に連れて来られたんだから。」
「そうなんだ。」
「その荷物は祐に?」
「うん。甘い物好きだけど家だとあまり食べられないみたいだから。」
「吏都ちゃんは優しいね。」
「そんな事ないよ!たす君には余計なお世話って怒られてばかりだし。私が勝手にやってるだけだから。」
「祐が羨ましいよ。」
「そうかな?蜂谷君こそ優しいから女の子に人気あるでしょ!?さっきうちの部員の子達が騒いでたよ!」
「吏都ちゃんは?」
「え?」
「僕の事どう思う?」


蜂谷が吏都を廊下の壁に追い詰めると吏都はうつむき祐に渡す紙袋をぎゅっと胸に抱いた。そこへガラっと教室のドアが開き、祐が廊下に出てきた。


「わりぃ。邪魔した?」
「祐、まだ休んでたの?」
「佐々原達のグループメッセージがうるせぇから今から合流するとこ。蜂谷はここで何してんの?」
「吏都ちゃんがこっちに行くのが見えて。文化祭誘ってくれたお礼まだ言えてなかったから。ね?」
「‥うん。」
「ふーん。俺先に行くわ。‥お前は?」
「え?」
「まだ蜂谷の用済んでねぇの?」
「あっ!ううん。蜂谷君、またね!」
「うん、またね。」


祐がスタスタと歩いて行く後ろを吏都が慌てて追いかける。蜂谷は2人に微笑を浮かべ手を振り見送るが、2人の後ろ姿が小さくなる頃には真顔になり手を振るのをやめた。


誰もいない廊下で祐が立ち止まると吏都は祐の傍へ駆け寄った。


「たす君、今日は来てくれてありがとうね。」
「‥お前さ、しっかりしろよ。」
「え?」
「誰にでもヘラヘラしてんなよ。」
「そんなのしてないよ。」
「は?じゃあ何蜂谷に付け込まれてんの?」
「付け込む?蜂谷君はそんな人じゃないでしょ?たす君の友達だから仲良くしたいなって‥」
「そうゆうとこウザい。仲良くしてって頼んでないけど。」
「‥たす君、糖分切れた?」
「は?」
「糖分切れるとイライラするんだって!これね、マカロン入ってるから食べて。さっき出した野菜のフレーバーとは違ってたす君の好きなキャラメルとチョコのフレーバーだから。家だと明日香さんに見つかったら怒られちゃうかもしれないし、帰りにでも食べてね!私抜けさせてもらってきたから戻る!じゃあね!」


吏都は祐の胸に押し付けるようにして紙袋を渡すと早足で茶道部へと戻っていく。祐が「おい!」と吏都を呼ぶが振り返りもせず去って行った。祐と別れると吏都は別棟にある部室へ立ち寄った。誰も入れないようにドアに鍵を閉めてから椅子に座る。祐の鋭い目付きときつい物言いが吏都の胸を締め付けた。祐の前で泣き顔は見せまいと立ち振る舞うのが精一杯で限界を達する前に早口でまくし上げ逃げてきてしまった。祐の姿を思い出せば涙が落ちて浴衣にシミを作っていく。溢れる涙を抑えきれず、顔を手で覆い声を殺して泣いた。祐は吏都から手渡された紙袋の中を見ると、クリーム色と茶色のマカロンが2つずつ入っていた。先程見た蜂谷が吏都に詰め寄った場面が脳裏から離れず胸糞悪い。何だか食べる気になれず近くのゴミ箱へ捨てると、グループメッセージに『疲れたから先帰る。楽しんでって。』とメッセージを残し1人帰路に着いた。家に着くと「お帰り。」と明日香が玄関まで出迎えに来た。


「吏都ちゃんに会えた?」
「ああ。」
「撫子柄の浴衣着てたでしょ?」
「‥。」
「私にはもう似合わないからあげたの。似合ってたでしょ?」
「うざ。」
「え?」
「アイツもお前もごちゃごちゃうるせぇ。」
「祐?」
「疲れたから寝る。」
「‥そう、ゆっくり休んで。ごめんね。」


祐は明日香を避けて階段を登って自室へ入った。全く治まりそうにない祐の荒れた態度に明日香はため息を吐いた。祐は未だに吏都と蜂谷の2人でいる場面が頭から離れずドアを力強く叩いた。胸糞悪いままベッドに倒れ込み目をぎゅっと瞑るとそのうち眠りに落ちていた。


祐の後ろを吏都が微笑みながら話しかけてついて歩く。そのうち吏都の声が聞こえなくなり後ろを振り返ると姿がない。「祐!」と誰かが呼ぶ。辺りを見渡すと蜂谷が立っていた。「何してんの?」と蜂谷の元に歩みを進めると蜂谷の横には吏都が立っていた。「は?」と祐の口から思わず声が漏れる。「ごめんね、祐。」と蜂谷が不適に笑うと吏都の腰に手を回して自分の方へ引き寄せた。祐は突然の出来事に我が目を疑った。「何やってんの?」と何とか言葉を絞り出す祐とは裏腹に蜂谷が自分の物だと見せつけるように吏都を自分の腕の中に収めていく。吏都もなすがまま黙って蜂谷に身を預けている。「おい!」と祐が吏都を呼ぶが、吏都は祐の方を見ると首を横に振って涙目でこちらを見ている。祐が吏都に手を伸ばすと、「ごめんね、たす君。」と目に涙を浮かべた。


「‥はっ!!?」


祐は目を覚ましベッドから勢いよく起き上がった。全身に汗をかき体も気分も重い。ベッドに投げ捨てたスマートフォンの電源ボタンを押せば午前3時を過ぎたところだった。時刻の下には佐々原達のグループメッセージと吏都からのメッセージが表示されていた。グループメッセージを開くと、『先に帰る』と送った祐のメッセージに佐々原が『大丈夫か?気を付けて帰れよ。』波多野が『付き合ってくれてありがとうな。』木戸が『また来週!学校でな!』と祐を気遣うメッセージが並んでいた。吏都のメッセージを開くと『今日は来てくれてありがとう。初めて文化祭に来てくれたから嬉しかったよ。』と文字が打たれていた。吏都からのメッセージを眺めていると夢で見た吏都の涙目の表情を思い出し気分は滅入ったままだというのに、劣情を煽り立たされたようで下半身を熱くしていく。吏都を身勝手に汚したくなくて頭と体を冷やしに風呂場に向かった。シャワーの冷水を頭から被れば少しだけ昂りを抑え込めた。吏都の事は考えまいと自分の好きな音楽を頭の中で流し冷静さを取り戻そうと努める。するとトントンと風呂場のドアをノックする音がする。


「祐か?」
「は!?今入ってるだろ!風呂使いたいなら待ってろよ!」
「すまん。」


志治の声に背筋が冷えて一気に燻った熱は消えていった。うざったい志治に助けられ胸中は複雑だが平常心を取り戻せた状況に祐は胸を撫で下ろした。


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