最果ての僕等 【ハイエナ】

コハナ

文字の大きさ
4 / 13

4.

しおりを挟む
休憩所として解放された教室のドア開けると誰もおらず貸しきりだった。祐は窓側の机に座りふうっと息を吐いた。窓を開ければ秋らしいカラッとした少し冷たい風が肌に当たると心地いい。たくさん歩いたせいか、吏都と蜂谷のやり取りが気に障ったせいか体が怠い。このまま帰ってしまおうかと思っていると廊下から声が聞こえてきた。聞き覚えのある声に、祐は教室のドアに近寄った。


「吏都ちゃん。」
「あれ?蜂谷君どうしたの?」
「吏都ちゃんが出ていく所が見えたから。」
「え?」
「誰か探してるの?‥祐?」
「‥うん。友達連れて来てくれたからお礼言わないとと思って。」
「そんなの気にしなくていいよ。佐々原達が言い出して祐は強引に連れて来られたんだから。」
「そうなんだ。」
「その荷物は祐に?」
「うん。甘い物好きだけど家だとあまり食べられないみたいだから。」
「吏都ちゃんは優しいね。」
「そんな事ないよ!たす君には余計なお世話って怒られてばかりだし。私が勝手にやってるだけだから。」
「祐が羨ましいよ。」
「そうかな?蜂谷君こそ優しいから女の子に人気あるでしょ!?さっきうちの部員の子達が騒いでたよ!」
「吏都ちゃんは?」
「え?」
「僕の事どう思う?」


蜂谷が吏都を廊下の壁に追い詰めると吏都はうつむき祐に渡す紙袋をぎゅっと胸に抱いた。そこへガラっと教室のドアが開き、祐が廊下に出てきた。


「わりぃ。邪魔した?」
「祐、まだ休んでたの?」
「佐々原達のグループメッセージがうるせぇから今から合流するとこ。蜂谷はここで何してんの?」
「吏都ちゃんがこっちに行くのが見えて。文化祭誘ってくれたお礼まだ言えてなかったから。ね?」
「‥うん。」
「ふーん。俺先に行くわ。‥お前は?」
「え?」
「まだ蜂谷の用済んでねぇの?」
「あっ!ううん。蜂谷君、またね!」
「うん、またね。」


祐がスタスタと歩いて行く後ろを吏都が慌てて追いかける。蜂谷は2人に微笑を浮かべ手を振り見送るが、2人の後ろ姿が小さくなる頃には真顔になり手を振るのをやめた。


誰もいない廊下で祐が立ち止まると吏都は祐の傍へ駆け寄った。


「たす君、今日は来てくれてありがとうね。」
「‥お前さ、しっかりしろよ。」
「え?」
「誰にでもヘラヘラしてんなよ。」
「そんなのしてないよ。」
「は?じゃあ何蜂谷に付け込まれてんの?」
「付け込む?蜂谷君はそんな人じゃないでしょ?たす君の友達だから仲良くしたいなって‥」
「そうゆうとこウザい。仲良くしてって頼んでないけど。」
「‥たす君、糖分切れた?」
「は?」
「糖分切れるとイライラするんだって!これね、マカロン入ってるから食べて。さっき出した野菜のフレーバーとは違ってたす君の好きなキャラメルとチョコのフレーバーだから。家だと明日香さんに見つかったら怒られちゃうかもしれないし、帰りにでも食べてね!私抜けさせてもらってきたから戻る!じゃあね!」


吏都は祐の胸に押し付けるようにして紙袋を渡すと早足で茶道部へと戻っていく。祐が「おい!」と吏都を呼ぶが振り返りもせず去って行った。祐と別れると吏都は別棟にある部室へ立ち寄った。誰も入れないようにドアに鍵を閉めてから椅子に座る。祐の鋭い目付きときつい物言いが吏都の胸を締め付けた。祐の前で泣き顔は見せまいと立ち振る舞うのが精一杯で限界を達する前に早口でまくし上げ逃げてきてしまった。祐の姿を思い出せば涙が落ちて浴衣にシミを作っていく。溢れる涙を抑えきれず、顔を手で覆い声を殺して泣いた。祐は吏都から手渡された紙袋の中を見ると、クリーム色と茶色のマカロンが2つずつ入っていた。先程見た蜂谷が吏都に詰め寄った場面が脳裏から離れず胸糞悪い。何だか食べる気になれず近くのゴミ箱へ捨てると、グループメッセージに『疲れたから先帰る。楽しんでって。』とメッセージを残し1人帰路に着いた。家に着くと「お帰り。」と明日香が玄関まで出迎えに来た。


「吏都ちゃんに会えた?」
「ああ。」
「撫子柄の浴衣着てたでしょ?」
「‥。」
「私にはもう似合わないからあげたの。似合ってたでしょ?」
「うざ。」
「え?」
「アイツもお前もごちゃごちゃうるせぇ。」
「祐?」
「疲れたから寝る。」
「‥そう、ゆっくり休んで。ごめんね。」


祐は明日香を避けて階段を登って自室へ入った。全く治まりそうにない祐の荒れた態度に明日香はため息を吐いた。祐は未だに吏都と蜂谷の2人でいる場面が頭から離れずドアを力強く叩いた。胸糞悪いままベッドに倒れ込み目をぎゅっと瞑るとそのうち眠りに落ちていた。


祐の後ろを吏都が微笑みながら話しかけてついて歩く。そのうち吏都の声が聞こえなくなり後ろを振り返ると姿がない。「祐!」と誰かが呼ぶ。辺りを見渡すと蜂谷が立っていた。「何してんの?」と蜂谷の元に歩みを進めると蜂谷の横には吏都が立っていた。「は?」と祐の口から思わず声が漏れる。「ごめんね、祐。」と蜂谷が不適に笑うと吏都の腰に手を回して自分の方へ引き寄せた。祐は突然の出来事に我が目を疑った。「何やってんの?」と何とか言葉を絞り出す祐とは裏腹に蜂谷が自分の物だと見せつけるように吏都を自分の腕の中に収めていく。吏都もなすがまま黙って蜂谷に身を預けている。「おい!」と祐が吏都を呼ぶが、吏都は祐の方を見ると首を横に振って涙目でこちらを見ている。祐が吏都に手を伸ばすと、「ごめんね、たす君。」と目に涙を浮かべた。


「‥はっ!!?」


祐は目を覚ましベッドから勢いよく起き上がった。全身に汗をかき体も気分も重い。ベッドに投げ捨てたスマートフォンの電源ボタンを押せば午前3時を過ぎたところだった。時刻の下には佐々原達のグループメッセージと吏都からのメッセージが表示されていた。グループメッセージを開くと、『先に帰る』と送った祐のメッセージに佐々原が『大丈夫か?気を付けて帰れよ。』波多野が『付き合ってくれてありがとうな。』木戸が『また来週!学校でな!』と祐を気遣うメッセージが並んでいた。吏都のメッセージを開くと『今日は来てくれてありがとう。初めて文化祭に来てくれたから嬉しかったよ。』と文字が打たれていた。吏都からのメッセージを眺めていると夢で見た吏都の涙目の表情を思い出し気分は滅入ったままだというのに、劣情を煽り立たされたようで下半身を熱くしていく。吏都を身勝手に汚したくなくて頭と体を冷やしに風呂場に向かった。シャワーの冷水を頭から被れば少しだけ昂りを抑え込めた。吏都の事は考えまいと自分の好きな音楽を頭の中で流し冷静さを取り戻そうと努める。するとトントンと風呂場のドアをノックする音がする。


「祐か?」
「は!?今入ってるだろ!風呂使いたいなら待ってろよ!」
「すまん。」


志治の声に背筋が冷えて一気に燻った熱は消えていった。うざったい志治に助けられ胸中は複雑だが平常心を取り戻せた状況に祐は胸を撫で下ろした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...