最果ての僕等 【ハイエナ】

コハナ

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「吏都ちゃんとデートだったんだ。」
「そんなんじゃねぇよ。」
「え?喫茶店でお茶するのは立派なデートだよ?」
「見てたのかっ!?いつから?」
「祐が佐々原達の誘いを断ってウキウキで帰って行く姿が見えたからさ。何かあるのかな?って気になってね。」
「お前、何がしてぇの?」
「だって、吏都ちゃんが不憫だろ?遊ばれてるんだから。」
「蜂谷君‥何の話?」
「何にも知らないんだね、可哀想に。」


 蜂谷が祐と吏都の周りを回りながら話している。蜂谷の異様な姿に祐の背筋に冷たいものが走った。吏都も祐の制服を掴み不穏な顔をしている。すると蜂谷が吏都の腕を引っ張り自分の方へ引き寄せた。


「やっ!」
「蜂谷、やめろ!」
「祐、静かにしててよ。今から吏都ちゃんに本当の祐の姿を教えてあげるんだから。」
「え?」
「祐はね、僕の姉さんを弄んだんだよ。」
「っ!?」
「知らないなんて言わないよね?僕は見てたんだから。」
「たす君、蜂谷君は何言ってるの?」
「‥。」
「あれ?祐忘れちゃったの?じゃあ思い出せるように全部教えてあげる。」


 高校2年生の時、クラス替えで祐と蜂谷は出会った。他の同級生に比べて大人びいてるのか少し冷めたように感じたのが祐の第1印象だった。蜂谷も騒がしいのが得意ではなかった為、祐と仲良くなるのに時間はかからなかった。2人でつるむようになると、放課後は蜂谷の家で過ごす事が増えた。蜂谷の母親は蜂谷が小学生の頃に他界。父親と姉と蜂谷の3人で暮らしていたが、父親は単身赴任をしており、蜂谷の姉の亜紀がほぼ家事を担っていた。亜紀は面倒見が良く遊びに来る祐にも優しく接し、夕飯を振る舞ったりと世話を焼いていた。祐は祐の体の事情を知らない蜂谷達と過ごすのが居心地が良く、暇さえあれば蜂谷の家に遊びに行っていた。何時ものように放課後、祐と蜂谷が蜂谷の家に向かっていると買い物帰りの亜紀と遭遇した。亜紀は2人に気付くと「お帰り。祐君、今日も夕飯一緒に食べていくでしょ?」と祐に微笑みながら尋ねると、「はい、頂きます。」と頷き、お礼とばかりに買い物の品がひしめき合っているエコバッグを亜紀の手から取るとひょいっと自分の肩に掛けた。「さすが男の子ね!助かるわ!」と亜紀が祐に笑いかけた。3人で一緒に帰り家に着くと、亜紀が「あっ!」と大きな声をあげる。「どうしたの?」と蜂谷が尋ねると「お醤油きらしてたのに買ってくるの忘れちゃった。今日の夕飯で使うのに。」と、しょんぼりとうつ向いた。「おっちょこちょいだな。いいよ、僕が買ってくるから。」と蜂谷が笑うと、亜紀から財布を受け取りスーパーへ向かった。「ありがとう、准平!気を付けてね。」と蜂谷の後ろ姿に声を掛けると「うん。祐、俺の部屋でゆっくりしてて!」と亜紀と祐に手を振った。亜紀と祐が家に入り、祐がエコバッグをダイニングテーブルに置いた。「ご苦労様。」と亜紀が冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぎ祐に手渡した。祐は「すいません。」と亜紀から受け取るとぐいっと一気に飲み干した。夏は終わり、9月下旬だというのに残暑が厳しく少し動いただけでも汗が滲む。祐のこめかみから首筋に汗が伝うと、亜紀がポケットからハンカチを取り出して祐の汗を拭った。「暑いね。今エアコンつけたから。」と亜紀が祐の目を見つめ微笑むと、亜紀と息がかかりそうな距離に恥ずかしくて祐はそっぽを向いた。すると、亜紀は祐の両頬に手を添えて自分の方を向かせると「可愛い。」と笑って唇を押し付けた。何が起きたのか理解できず祐が固まっていると、祐が動けないでいるのをいいことに亜紀は角度を変えては唇を押し付け酸素を奪っていく。祐が耐えきれず酸素を求めて薄く口を開けば、生温かい小さな舌が祐の口の中を這った。祐はようやく亜紀の肩を押し亜紀を引き剥がした。


「何するんですか!?」
「男の子なら興味あるでしょ?」
「俺は亜紀さんをそんな目で見てません!」
「私、祐君ならいいよ。」
「は!?」


 亜紀がゆっくりとブラウスのボタンを外していく。ボタンの外れたブラウスの隙間から白く透き通った肌と下着に包まれた膨らんだ胸が祐の視界に映る。祐は慌てて腕で目を覆うと「着てください!」と小さく叫んだ。亜紀はボタンを外し終わると、床の上にブラウスを脱ぎ捨てて祐に近づき、背伸びをすると祐の耳元で「いいよ?」と囁く。祐の空いている手をとると亜紀の胸に置いた。祐の手がビクリと跳ねて、亜紀の胸から手を退かそうとすると、その上に亜紀が手を重ね祐の手は逃げ場をなくした。亜紀のもう片方の手が祐の胸に触れると腹へ更にその下へと白く細いしなやかな指先をゆっくりと滑らせていく。「やめてくださいっ!」と祐が目を覆っていた手で亜紀の腕を掴んで止めると亜紀と視線が合った。赤く染めた頬に濡れた唇。潤んだ瞳で祐の目を捉えている。いつもと違う扇情的な亜紀の姿に思わず祐は生唾を飲み込んだ。理性の際に立たされている祐はこれ以上刺激をされないよう目を瞑り吏都を思い浮かべた。その時亜紀を掴む手の力は緩んでいたようで、祐から手を振り払うと祐の首に腕を回し抱きついた。自分と違うシャンプーの匂いと華奢で柔らかな体に祐の心臓が早鐘を打つ。祐が「離して‥」と亜紀の両腕を掴むと亜紀は祐の顔を見上げて「祐君。」と艶っぽく名前を呼んだ。亜紀の色香ある顔を見下ろせば、理性は脆くも崩壊して細い亜紀の腰に腕を回し祐から唇を押し付けていた。何度も角度を変えながら唇を押し付け亜紀をソファに組み敷く。亜紀は両手を広げると祐は白い首筋に吸い付いた。亜紀がビクリと体を揺らし段々と息遣いが荒くなっていく。


蜂谷が買い物を済ませ家に着き「ただいま。」と知らせるがどちらも返事は返ってこない。リビング前のドアに立つとくぐもったような甘い声が聞こえてくる。蜂谷は背筋に冷たいものが走りながらそっとドアを少し開けると、ソファの上に上半身下着姿の亜紀が寝転がっている。亜紀の上には制服のシャツがはだけた祐が亜紀の首筋に顔を埋めていた。何が起きているのか理解が追い付かず目に映る光景をぼんやり眺めいると祐が亜紀の背中を支え浮かせると下着のホックを外し亜紀の唇に吸い付いた。見るに耐えない2人の姿に何とか体を動かし見つからないように家を出た。自分が知らない間に2人の関係が親密なものに変わっていたのかと思うと怒りが込み上げてきた。何よりも大事にしていた姉が汚されてしまった現実に絶望感に支配され息苦しく吐き気がする。何時間か外をさ迷い辺りが暗くなってから家に帰った。恐る恐る玄関のドアを開けるとそこに祐の靴は無かった。


「ね、ひどいやつでしょ?祐って。」
「‥。」
「ひどいじゃないか。あれから1度も家に来ないなんて。それとも僕の知らないところで姉さんと会ってるのかな?」
「‥会ってない。もう亜紀さんとはあれから1度も会ってない!」
「気安く亜紀さんなんて呼ぶな!」
「っ!?」
「なあ、姉さんの抱き心地はどうだった?」
「‥。」
「吏都ちゃん。僕はね吏都ちゃんを姉さんのような目に遭わせたくないんだよ。」
「‥たす君が悪いの?」
「ん?」
「同意‥だったなら、誰も悪くないよ。」
「え?姉さんが浅ましいと言いたいの?」
「違うよ。蜂谷君が見た事が全て正しいの?蜂谷君の中にわだかまりがあるなら、お姉さんとちゃんと話してみたら?」
「吏都ちゃんって頭悪いの?姉さんは自分から体を差し出すような卑しい女じゃない!」
「蜂谷君はお姉さんの事全て理解してるの?」
「煩いっ!」
「っ!?」
「僕が祐から吏都ちゃんを守ってあげるよ。姉さんみたいに辛い思いはさせないから。」
「私は蜂谷君に守ってもらわなくて大丈夫。」
「‥そんなに祐が好き?」
「‥。」
「どうなんだっ!?」
「痛っ!?」
「やめろっ!」


質問に答えない吏都に蜂谷は苛立ち吏都の腕を強く掴んだ。祐が蜂谷の肩を掴むが、蜂谷に押し返される。


「祐、僕の気持ちが分かる?唯一無二の姉さんが友達だと思ってた男に汚されて裏切られた僕の気持ち。」
「蜂谷、ごめん。蜂谷を傷つけたくなくて無かったことにするのがいいと思ったんだ。俺も亜紀さんもどうかしていたんだと思う。」
「謝ってほしくないな。祐に僕の気持ちを知ってほしいだけだよ。」
「はっ?!」


蜂谷は吏都の顎を掬うと自分の顔を近付けていく。鼻と鼻が触れそうな距離まで迫ると「やだ!っ」と吏都が顔を背けた。


「僕は頭の悪い女は嫌いなんだ。」
「わっ!?」
「吏都っ!?」


頑な吏都の態度に怒りが頂点に達すると蜂谷は吏都の背中を強く押した。吏都はよろめいて階段の手すりの装飾部分に強く胸を打ちつけるとそのまま気を失い階段から落ちそうになる。祐が吏都を引っ張り上げて抱き締めるがバランスを崩し吏都を抱き締めたまま階段を転げ落ちた。2人は階段の下で抱き合ったまま倒れこんでいる。蜂谷は「天罰だ。」と吐き捨てると何もなかったかのようにその場を去っていった。
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