その聖女、追放するべからず

べるんご

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四人目、漏洩貴族

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    その女は、生前から因縁のある相手だった。
その場その場の勝ち馬に乗ることで生き延び、財を成し、力をつけたその女が魔王に与するのは、当たり前のことだったのかもしれない。


「あなた……甦ったと聞いてはいたけど、まさかここまで来るだなんて……」


「ワタシも、まさか地下に宮殿を作っているとは思いませんでしたよ」


    入り口は一見、崩れそうな洞穴であった。
だがそれは擬装フェイク、まさかその先に貴族が隠れているなど、これまで誰も気付かなかっただろう。
もっとも、気付いたところで道中の罠にかかって死んでいただろうが。


「あの時は聖女という立場上、見逃しましたが……えぇ、今のワタシには関係ありません」


    この女は味方のフリをして五人に近付き、彼らの情報全てを魔王に流していた。
それに気付かれ、捕らわれた時、四人は殺害を希望したが一人だけ、その殺害を拒絶したのだ。
それでも、同じように焼き殺されたのだが。


「元帥が立案し、あなたがカネを出し、クソコックをはじめとする協力者や舞台のセッティングを行った。……よほど恨みがあったらしいですね、ワタシ達に」


    拷問にかけたりした覚えはないが、捕まるだけでも相当な恨みだったのだろう。
カネを出して処刑の手伝いをしたところで、この女に他の利益があったとも思えないのだ。


「恨みなんかあってもなくても同じよ。あなた達は危険因子でしかなかったのだから」


「……でも一番強いものにつくのがあなたでは?」


    貴族の女はケラケラと笑う。


「あなたは達は強いだけじゃない。人類全体に裏切られた以上、強さも意味を成さないし。……そういう生意気な口は、魔王に匹敵するようなパトロンになってから言うことね!」


    宮殿広間、聖女は一階、貴族は二階、そしてアリのようにわらわらと現れる貴族の私兵。
それは眼も眩む大金で雇われた、一騎当千の戦士達。


「殺しなさい。犯しても構わないわ」


「罪人の血を捧げます、エレヴィエル様」


    貴族もとい、エレヴィエルが命じると、私兵達が一斉に襲いかかる。
訓練され尽くした機敏な動きで一気に距離を詰め、逃げ場を塞ぎ、急所に刃を向ける。


「……チッ!」


    強い、強すぎる。
エレヴィエルがこれほどまでの手練れを、少なく見積もっても百人程度集めているとは考えていなかった。

    繰り出される攻撃を防ぎ、噴出する炎で牽制。
隙を見せたものから刺し貫き、切り裂き、燃やし尽くす。
だが彼らのなかには変わり身の妖術すら扱う者がおり、魔王を倒した彼女であっても殺し尽くすのは簡単ではないだろう。


「悔しかったら、また甦りなさいな。何度だって殺してあげるわ」


    高笑いしながら背を向け、広間から立ち去ろうとするエレヴィエルの背中に、何か固いものが衝突する。
悲鳴をあげて倒れ込んだ彼女が振り返ると、そこには――


「ヒイィッ……!」


――私兵のうちの誰かの生首が転がっていた。
眼を見開き、歯を食い縛った恐ろしいそれを、彼女は蹴飛ばして後ずさりする。


「上等じゃない、クソッタレ貴族。こいつらも、アンタも、全員ぶち殺してやるわ!」


    そう吠えた聖女の体には、すでにいくつもの傷があった。
致命傷は防ぎ、回避していても、完全に全てを避けきるなど不可能なようだ。


「へ、減らず口を――」


    階下の聖女へ向けて言葉を発しようとした瞬間、鼻先数ミリ先を業火の龍が立ち上ぼり、地下から地上までを貫通していった。
宮殿がまるごと一つ地下にあり、そこと地上を隔てる天井は数十メートルに及ぶであろうが、本気で炎を扱う聖女には薄っぺらな障子ほどの厚さも感じられないらしい。


「一人、また一人!どうしたんです?ワタシの首はここよ!まだ繋がっているわ!」


    全身に傷を負い、攻められ続けても、彼女の戦いは止まらない。
猛者を次々に斬り殺し、間にわずかにでも傷を癒す。
恐ろしいのは、そしてその状況を楽しむかのような笑みを浮かべていることだろう。


「こ、壊れている……あの女……!」 


    エレヴィエルは気付いているのだろうか。
目の前の壊れた聖女を作り出した責任の一端は、彼女にもあるということを。


「がふっ……ぐ、ぅううっ!」


    腹に槍を突き刺され、大量の血反吐を吐きながら、それでもなお殺そうと聖女は暴れ狂う。
猛烈な憎悪がなければ、こんな芸当は絶対に無理だ。

    あぁ、これはダメだ。
いくらなんでも、勝ち目がない。

    彼女がそれを悟ったのは、私兵の屍が三桁に届く寸前であった。
総勢141名の私兵、そのほとんどが屍となってこちらを見ている。
そのときにやっと彼女は気付いた。



「あぁ、もう終わりですか……?口ほどにもなかったですね……げぼっ、ごほっ……」


    満身創痍でも、笑っていた。
やっと手が届いた、この場で一番殺したかった相手に。


「なんで……なんでなの……?どうしてそこまで……?」


    腰を抜かし、失禁までした女が怯えながら問う。


「ハラワタが飛び出しそうな怪我をして……眼も片方つぶれて……!骨だってあっちもこっちも折れてるのに……!どうしてそこまでして、私を恨むのよォッ!」


「アンタに殺された、それ以上の答えはない!」


    細い首を掴みあげ、下腹部から胸部にかけて刃を通らせる。
臓器や骨には傷をつけない美しく、鋭い剣捌きは、恐らく痛みすらも生んでいなかった。


「意外と紅いですね。もっと黒いと思ってました、性格的に。……私をここまで手こずらせたご褒美です。命だけは助けてあげましょう」


    彼女が発見されたのは、襲撃から三日後だった。
人の立ち入らない廃村のど真ん中に突如として現れた十字架。
そこにエレヴィエルは拘束されていた。


「こ……ろ、し……て……」


    重要器官が露出させられた状態でも、死なない程度に回復し続ける体力。
つい数日前まで、死なないためになんでもしてきた希代の悪女は、苦しみから逃れるために死を望む。

    哀れに思った通りすがりの兵士が介錯しなければ、彼女はあと何日この状態だったのだろう。
だが聖女は約束を破ってはいない。
確かに、

    一方、廃村にエレヴィエルを拘束したあと、さすがの彼女も休息を余儀なくされた。
傷の具合は、エレヴィエル以上に深いのだから当然であろう。


「生前のワタシなら、もう死んでましたね……。というか、いくら魔王を倒せる人間でも、死んでなければおかしい」


    飛び出したモノは押し込み、開いた傷は縫って塞ぐ。
魔力の浪費も激しい彼女は、回復の魔法も節約しなければならない。
それでも痛め付けるためには節約など考えずに魔法を使う辺り、相当恨みは深かったのだろう。


「まともな人の身ではなくなったか。……あれほどすがった神ではなく、悪魔にでも見入られたのでしょうか。……それもまた、面白い」


    それを裏付けるかのような再生能力で、エレヴィエルが発見される頃には既に全快。
潰れた目玉の視力も戻った彼女は、次の獲物の元へと向かっていた。
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