寝起きで転生 ~鍋から始める魔王討伐~

べるんご

文字の大きさ
14 / 49
鉱山開放、俺達貧乏

走る奔る俺達、怒り狂えるムカデの前を

しおりを挟む
俺は一目散に駆け出し、身を隠せそうな岩陰に飛び込んでみる。
幸い、ムカデは俺ではない誰か、恐らくエルを追いかけている。
作戦の第一段階、まずは想定通りに進み始めたというべきか。


「こっちには無いぞ、ユウマ!」


「こっちもだ!次の岩陰まで前進!」


どうにか無事だったらしいおっさんと共に、ムカデの隙を突いて次の岩陰まで駆けていく。
よく初見の場所でサッと見つけられるものだと、自分で自分に感心しつつヘッドスライディングを決めていく。
俺が神の目線で俺を見ていたら、きっと全力で褒めたたえた後に、富、名声、力、この世の全てを与えようとするかもしれない。
富とか名誉より羽根なんぞを選べるほど、俺は出来た人間ではないのだ。


「ユーマくーん!私が必死こいてる姿はどうですかー?女の子を囮にして、後悔しませんかー?恥ずかしくありませんかー?」


「うるっっっせぇよ!話しかけんじゃねぇよテメェ!バレたらどうすんだ!」


「そうやって怒鳴り散らすからバレるんですよーだ」


居るのか居ないのかの話だったら、既に気付かれているのが当然だろう。
だがこの場合のバレるとは、現在の位置がバレてしまうことだ。
俺かおっさんの居場所が完全にバレて襲われた場合、まず間違いなく即殺されてオシマイだ。

しかし、エルの常人離れっぷりは凄まじい。
アイツはまるでヒラヒラと舞う蝶のように飛び回り、ムカデの咬撃、鎌による斬撃、触れたものをあの結晶に変えてしまう体液飛ばし、それらすべてを華麗に回避している。


「ダメだ、無いぞ!」


「しゃーない!次だ次!」


ムカデはチラチラと俺とおっさんを見ている気がするが、エルの陽動能力が高いのでほとんど問題にならない。


「ほらほらぁ、どこ見てるんですかぁ?地下暮らしが長くって目が見えなくなったんですかぁ?」


「囮扱いでボヤくなら一々煽るなよな」


事前に決めておいた、目的のブツ。
そうそう見つけにくいものでもないはずなのだが、予想以上に見つからない。
これはもう、誰かが使ってしまったか……ムカデがダメにしたかのどちらかかもしれない。


「ックソ……結局合流しちまったな」


探し物が見つかることもないままぐるっと一周してしまった俺たち二人は、望まぬ合流を果たしてしまった。
こうなってしまうと勝率は下がってしまうが、それでもやり切るしかない。


「無いなら無いで仕方がない。おっさんの手持ちだけで――」


そんな時に聞こえた声は、まさに神の声にすら聞こえていた。
実際には普段の大悪魔の声だったが。


「上にそれらしいタルがありますよ~!どうにか頑張って登ってくださーい!」


鬼のチェイス能力を発揮しつつ、エルが俺たちの探し物を見つけてくれたようだ。
もう、これを考えてしまうのが何度目か分からないが、アイツが全部やった方が絶対いいと思うんだが?

確かに、このスタジアム上の空間に、少なくとも三つまでの階層はある。
三つ目の階層はムカデのせいでほぼ全壊、二つ目の階層も半壊程度だが、登れる道はというと……。


「……崩落しているな」


「あンのクソボケムカデ野郎がアアアアアッ!!」


素手でムカデの顔面を殴れない自分の非力さが悔やまれる。
しかし、アイツも死にたくはないのだろうから、そうそうこちらの思う通りには動いてくれないのだろう。
自殺願望でも持ってろ、病んでろ、ヘソかんでくたばっちまえムシ野郎。

俺が怒鳴っている間におっさんが崩れた岩を登り始め、エルの姿が見えなくなり、ムカデがこちらに頭を向けた。
何度見ても醜悪で恐ろしい、まさに顔面凶器っぷりだ。
お前の方こそプロレスやれよ、ヒール役で人気が出るぞ。


「なんだなんだ、デカい図体して女一人捕まえられなかったか!ケッ!そんな体たらくでもヌシ扱いしてもらえるんだから、お前の人生楽でいいよな!」


アイツに人間の言葉が分かっているのかどうかは分からないが、正直怖くて怖くて仕方がない俺である。
襲い掛かられたら間違いなく、俺は死ぬ。
その恐怖に抗おうと、虚勢を張ってるだけだからな。


「おら、どうした!さっきの女をさっさと捕まえろよ!そんでしくじってよォ!ケツに大和魂でも注入してもらえや!ケツが割れなきゃ褒めてやらァッ!」


俺の叫びとは裏腹に、俺の膝はガクガク震えている。
さっさと逃げろ、ほら、すぐ後ろの岩陰に。
そう頭ではわかっていても、口の周りしか動いちゃくれない。


「ほ、ほら、どうしたぁ?じっと俺なんか見つめやがって……チクショウ!俺はなぁ、やっぱり俵藤太にはなれねぇよッ……!」


目の前にムカデがゆっくりと近づいてくる。
鎌を振り上げ、口を開き、動かない獲物を食らおうと。

なんでこうなったんだろう、なんで俺はここにいるんだろう、ただの高校生なのに。
そんな思いと共に、これまでの人生での思い出のようなものが流れ始めた。
でも、それは――


「こんなところで死ぬんじゃねぇ!」


――おっさんの投げた手投げ弾の爆発音とともに、吹き飛んでしまった。


「だらしがないですね、ユーマくん。私がこんなにチェイスしたのに、あなたが死んだらパァです、パァ。そうなったら、お尻がシックスパックになるまでブッ叩きますからね」


「腹筋と同じに考えんなや」


事前に用意していた手投げ弾は、見事に顔面に当たったらしい。
とはいっても、人ひとりを殺せるかどうかの威力、ほとんど効いてはいなかったが。
でもその一発が生み出した時間は、俺がまた身を隠すには十分な時間だった。


「まったく、私の方がお姫様ポジションになるはずが、これじゃあアベコベじゃないですか。ま、精々もう少しくらいはチェイスしててあげますよ」


そう呆れ顔で口にしたエルは、ムカデの顔の前に飛んでくる。
そして、そこでエルは――


「っしゃいくぞー!イェッタイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ッジャージャーッ!!」


――見事な家虎を舞って見せた。
そしてムカデを指さして、煌めく笑顔とウインクでこう言った。


「ねぇ、今どんな気持ち?」


ここは鉱山スタジアム、観客は二人と一匹。
最高のパフォーマンスを見せつけたアイドルに、歓声が上がる。


「――ッ!!」


ギシャーだかなんだか叫んだ、どうも家虎アンチだったらしいムカデは、文字通り発狂しながらエルを追いかけ始めた。

死の恐怖?もう全部持ってかれたわ。
なんなんアイツ、なんで家虎舞えんの?
それ今じゃなくても良くない???
とりあえず俺は、心にモヤモヤを抱えたまま、作戦を続行することにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』

KAORUwithAI
ファンタジー
45歳、胃薬が手放せない大手総合商社営業部係長・佐藤悠真。 ある日、横断歩道で子供を助け、トラックに轢かれて死んでしまう。 目を覚ますと、目の前に現れたのは“おじさんっぽい神”。 「この世界を何とかしてほしい」と頼まれるが、悠真は「ただのサラリーマンに何ができる」と拒否。 しかし神は、「ならこの世界は三度目の滅びで終わりだな」と冷徹に突き放す。 結局、悠真は渋々承諾。 与えられたのは“現実知識”と“ワールドサーチ”――地球の知識すら検索できる探索魔法。 さらに肉体は20歳に若返り、滅びかけの異世界に送り込まれた。 衛生観念もなく、食糧も乏しく、二度の滅びで人々は絶望の淵にある。 だが、係長として培った経験と知識を武器に、悠真は人々をまとめ、再び世界を立て直そうと奮闘する。 ――これは、“三度目の滅び”を阻止するために挑む、ひとりの中年係長の異世界再建記である。

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...