姫騎士様は恋を知らない

届かない言葉

訓練を終えた騎士団の庭には、沈みゆく夕日が赤く影を落としていた。

「……セラフィナ」

　ルークは、剣を鞘に収めると、じっと彼女を見つめた。

「ん？」

　セラフィナは汗を拭いながら振り向く。その何気ない仕草さえ、ルークの目には愛おしく映る。

「話がある」

「珍しいな、真剣な顔して。どうした？」

　ルークは拳を握りしめ、一歩、彼女に踏み出した。

「俺は、お前が好きだ」

　その言葉に、セラフィナは目を瞬かせる。

「……は？」

「お前が好きだ、セラフィナ」

　ルークははっきりと言った。

「剣士としてじゃない。仲間としてでもない。お前を、ひとりの女として好きなんだ」

　沈黙が落ちた。

　セラフィナは、ぽかんとルークを見つめている。

　——この反応は、予想していた。

　だが、彼女はすぐにいつもの調子を取り戻し、軽く笑ってみせた。

「……ルーク、冗談か？」

「冗談なわけないだろ」

「だって、お前と私は……」

「友達で、ライバルだから、か？」

　セラフィナは言葉を詰まらせた。

「関係ない。俺の気持ちは、ずっと前から変わってない」

　彼女の表情が、ほんのわずか揺れる。

　けれど、次の瞬間にはまたいつもの飄々とした笑みを浮かべ、ルークの肩を軽く叩いた。

「ま、そういうのは気の迷いってこともあるしな。そのうち冷めるだろ？」

　冗談めかして言う彼女に、ルークは小さく息を吐く。

「……本当に、お前は鈍いな」

　それ以上何を言っても、今の彼女には届かない。

　だが、それなら——。

（だったら、これから何度でも伝えてやる）

　ルークは改めて、強く決意した。