46 / 46
43.戦いの終わり
しおりを挟む
地下書庫から押収された文書の山は、旧貴族の名と共に、長く深く潜んでいた陰謀の全容を暴き出していた。
拠点は制圧され、首謀者の一部は拘束。残党は散り散りになり、逃亡を試みるも、近衛によって順次捕らえられていった。
王政は、たしかに揺れていた。
だが、それでも崩れはしなかった。
国を正しく導こうとする意志があり、支える者たちの手があったからだ。
アレクシス王太子は無事であり、変わらぬ姿で政務に復帰した。
公に騒動の詳細は伏せられたものの、「王政改革における不穏な勢力の排除」として、最低限の発表がなされた。
だが終わりではない。
調査は続いている。敵の一角は崩れたが、組織の全貌は未だ霧の中だ。
内通者の存在も、消えたわけではない。
「まだ……終わっていないな」
ヴィクトルの呟きに、セラフィナは静かに頷いた。
ルークも、セドリックも、そして共に戦った仲間たちも、それを理解している。
それでも。
王政は、危機を乗り越えた。
この国の未来は、確かに守られたのだ。
深く息をつく時間は、今だけかもしれない。
夜明け前の静けさが、ほんの一瞬、彼らの心を包んでいた。
---
窓の外はすっかり夜に沈み、街灯の明かりすら届かない執務室に、紙をめくる音だけが響いていた。
部屋に紙をめくる音だけが響いていた。
山積みの報告書と、整理中の証拠書類。終わったはずの任務は、まだ終わらせてくれない。
セラフィナは書類にペンを走らせながら小さく息をついた。
(……終わったと思ったけど、戦いだけが全部じゃないってほんとよく分かる)
扉がノックもなく開き、見慣れた顔がひょいと覗く。
「残ってるって聞いたからさ。お疲れさん」
ルークが手に紙袋を提げて入ってくる。
中にはパンと温かいスープの入った包み。見た瞬間、セラフィナの眉がゆるんだ。
「休めって言われなかった?」
「言われたよ。けど、気になってな。……手、止めろよ」
ルークは無言でデスクの端を片付け、包みを並べていく。
いつもの、慣れた動き。任務中も、休むときも、こうして隣にいることが、当たり前みたいになっていた。
セラフィナはふと、彼の手元に目をやった。
治りきっていないはずの右肩。
「痛くない?」
ルークは手を見て、少し苦笑した。
「ちょっとくらい。我慢できるって」
「そういうとこは嫌いだな」
「手厳しいな」
からかうような笑い声が返ってくる。
でもセラフィナは目をそらさなかった。
「ほんとに、弱いくせに」
思わずこぼれた声に、ルークは動きを止めた。
数秒、黙ったままの彼が、ゆっくりと顔を上げる。
「……そうかもな」
短く、静かに言ったその声は、意外なほど素直だった。
セラフィナは、思わず目を見開く。
いつものように冗談で返すと思っていた。軽く受け流されると思っていたのに。
「でも」
ルークは手元の包みを整えながら、続けた。
「弱いなりに守りたかったんだ」
言い終えても、ルークは彼女を見なかった。
けれど、セラフィナは目をそらせなくなっていた。
心のどこかで、ずっと聞きたかった言葉。
今、それを真正面から受け止めてしまって、胸の奥がぎゅっとなる。
「しょうがないなあ」
かすれた声で、ようやく絞り出す。
ルークは、ようやく視線を重ねて、小さく笑った。
差し出されたスプーンを、セラフィナは黙って受け取った。
拠点は制圧され、首謀者の一部は拘束。残党は散り散りになり、逃亡を試みるも、近衛によって順次捕らえられていった。
王政は、たしかに揺れていた。
だが、それでも崩れはしなかった。
国を正しく導こうとする意志があり、支える者たちの手があったからだ。
アレクシス王太子は無事であり、変わらぬ姿で政務に復帰した。
公に騒動の詳細は伏せられたものの、「王政改革における不穏な勢力の排除」として、最低限の発表がなされた。
だが終わりではない。
調査は続いている。敵の一角は崩れたが、組織の全貌は未だ霧の中だ。
内通者の存在も、消えたわけではない。
「まだ……終わっていないな」
ヴィクトルの呟きに、セラフィナは静かに頷いた。
ルークも、セドリックも、そして共に戦った仲間たちも、それを理解している。
それでも。
王政は、危機を乗り越えた。
この国の未来は、確かに守られたのだ。
深く息をつく時間は、今だけかもしれない。
夜明け前の静けさが、ほんの一瞬、彼らの心を包んでいた。
---
窓の外はすっかり夜に沈み、街灯の明かりすら届かない執務室に、紙をめくる音だけが響いていた。
部屋に紙をめくる音だけが響いていた。
山積みの報告書と、整理中の証拠書類。終わったはずの任務は、まだ終わらせてくれない。
セラフィナは書類にペンを走らせながら小さく息をついた。
(……終わったと思ったけど、戦いだけが全部じゃないってほんとよく分かる)
扉がノックもなく開き、見慣れた顔がひょいと覗く。
「残ってるって聞いたからさ。お疲れさん」
ルークが手に紙袋を提げて入ってくる。
中にはパンと温かいスープの入った包み。見た瞬間、セラフィナの眉がゆるんだ。
「休めって言われなかった?」
「言われたよ。けど、気になってな。……手、止めろよ」
ルークは無言でデスクの端を片付け、包みを並べていく。
いつもの、慣れた動き。任務中も、休むときも、こうして隣にいることが、当たり前みたいになっていた。
セラフィナはふと、彼の手元に目をやった。
治りきっていないはずの右肩。
「痛くない?」
ルークは手を見て、少し苦笑した。
「ちょっとくらい。我慢できるって」
「そういうとこは嫌いだな」
「手厳しいな」
からかうような笑い声が返ってくる。
でもセラフィナは目をそらさなかった。
「ほんとに、弱いくせに」
思わずこぼれた声に、ルークは動きを止めた。
数秒、黙ったままの彼が、ゆっくりと顔を上げる。
「……そうかもな」
短く、静かに言ったその声は、意外なほど素直だった。
セラフィナは、思わず目を見開く。
いつものように冗談で返すと思っていた。軽く受け流されると思っていたのに。
「でも」
ルークは手元の包みを整えながら、続けた。
「弱いなりに守りたかったんだ」
言い終えても、ルークは彼女を見なかった。
けれど、セラフィナは目をそらせなくなっていた。
心のどこかで、ずっと聞きたかった言葉。
今、それを真正面から受け止めてしまって、胸の奥がぎゅっとなる。
「しょうがないなあ」
かすれた声で、ようやく絞り出す。
ルークは、ようやく視線を重ねて、小さく笑った。
差し出されたスプーンを、セラフィナは黙って受け取った。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―
佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。
19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。
しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。
突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。
「焦らず、お前のペースで進もう」
そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。
けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。
学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。
外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。
「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」
余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。
理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。
「ゆっくり」なんて、ただの建前。
一度火がついた熱は、誰にも止められない。
兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
数年振りに再会した幼馴染のお兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃなくなった日
プリオネ
恋愛
田舎町から上京したこの春、5歳年上の近所の幼馴染「さわ兄」と再会した新社会人の伊織。同じく昔一緒に遊んだ友達の家に遊びに行くため東京から千葉へ2人で移動する事になるが、その道中で今まで意識した事の無かったさわ兄の言動に初めて違和感を覚える。そしてその夜、ハプニングが起きて………。
春にぴったりの、さらっと読める短編ラブストーリー。※Rシーンは無いに等しいです※スマホがまだない時代設定です。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる