姫騎士様は恋を知らない

Sora

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43.戦いの終わり

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 地下書庫から押収された文書の山は、旧貴族の名と共に、長く深く潜んでいた陰謀の全容を暴き出していた。  
 拠点は制圧され、首謀者の一部は拘束。残党は散り散りになり、逃亡を試みるも、近衛によって順次捕らえられていった。

 王政は、たしかに揺れていた。  
 だが、それでも崩れはしなかった。  
 国を正しく導こうとする意志があり、支える者たちの手があったからだ。

 アレクシス王太子は無事であり、変わらぬ姿で政務に復帰した。  
 公に騒動の詳細は伏せられたものの、「王政改革における不穏な勢力の排除」として、最低限の発表がなされた。

 だが終わりではない。  
 調査は続いている。敵の一角は崩れたが、組織の全貌は未だ霧の中だ。  
 内通者の存在も、消えたわけではない。

「まだ……終わっていないな」

 ヴィクトルの呟きに、セラフィナは静かに頷いた。  
 ルークも、セドリックも、そして共に戦った仲間たちも、それを理解している。

 それでも。

 王政は、危機を乗り越えた。  
 この国の未来は、確かに守られたのだ。  
 深く息をつく時間は、今だけかもしれない。
 夜明け前の静けさが、ほんの一瞬、彼らの心を包んでいた。

 ---

 窓の外はすっかり夜に沈み、街灯の明かりすら届かない執務室に、紙をめくる音だけが響いていた。
 部屋に紙をめくる音だけが響いていた。  
 山積みの報告書と、整理中の証拠書類。終わったはずの任務は、まだ終わらせてくれない。

 セラフィナは書類にペンを走らせながら小さく息をついた。

(……終わったと思ったけど、戦いだけが全部じゃないってほんとよく分かる)

 扉がノックもなく開き、見慣れた顔がひょいと覗く。

「残ってるって聞いたからさ。お疲れさん」

 ルークが手に紙袋を提げて入ってくる。  
 中にはパンと温かいスープの入った包み。見た瞬間、セラフィナの眉がゆるんだ。

「休めって言われなかった?」

「言われたよ。けど、気になってな。……手、止めろよ」

 ルークは無言でデスクの端を片付け、包みを並べていく。  
 いつもの、慣れた動き。任務中も、休むときも、こうして隣にいることが、当たり前みたいになっていた。

 セラフィナはふと、彼の手元に目をやった。  
 治りきっていないはずの右肩。

「痛くない?」

 ルークは手を見て、少し苦笑した。

「ちょっとくらい。我慢できるって」

「そういうとこは嫌いだな」

「手厳しいな」

 からかうような笑い声が返ってくる。  
 でもセラフィナは目をそらさなかった。

「ほんとに、弱いくせに」

 思わずこぼれた声に、ルークは動きを止めた。
 数秒、黙ったままの彼が、ゆっくりと顔を上げる。

「……そうかもな」
 短く、静かに言ったその声は、意外なほど素直だった。

 セラフィナは、思わず目を見開く。
 いつものように冗談で返すと思っていた。軽く受け流されると思っていたのに。

「でも」
 ルークは手元の包みを整えながら、続けた。

「弱いなりに守りたかったんだ」

 言い終えても、ルークは彼女を見なかった。
 けれど、セラフィナは目をそらせなくなっていた。

 心のどこかで、ずっと聞きたかった言葉。
 今、それを真正面から受け止めてしまって、胸の奥がぎゅっとなる。

「しょうがないなあ」
 かすれた声で、ようやく絞り出す。

 ルークは、ようやく視線を重ねて、小さく笑った。
 差し出されたスプーンを、セラフィナは黙って受け取った。

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