幸福と悪夢と2人の花嫁

KEN

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幸福と悪夢と2人の花嫁

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第1話

再会

2019年2月15日 金曜日
朝7時
リリリリリンといつもの目覚まし時計の音
起きる時間だ
俺は目を擦りながらベットを出た
俺は眠気と戦いながら歯を磨き 髪を整え 制服の袖に腕を通す
朝食を取らずに鍵を閉め家を後にした
俺の名は白岩 健一16歳 神戸国際高校2年生だ
転勤の多い父親は今 名古屋にいる
母親は去年の春に病気で他界してしまった
生前は神戸市内の病院に入院していた
俺は母親が大好きだった
母の好きだった苺を持って見舞いに行くと
母は
健康な良い奥さんをもらって幸せになるんよ
って言うのが口癖だった
今となったら遺言だ
親子3人で楽しく暮らしていた家に今は一人で住んでいる
学校までは電車に乗り3駅先で降りる
そこから20分程歩く事になる
電車を降りいつもの通学路を歩いていた
おはよう
おはよう
と学友達の元気な声があちらこちらで聞こえる
いつもの通学風景だ
不意に
トン トン❗️
誰かが俺の肩を叩く
振り向くとそこにはポニーテールをした女子高生がいた
制服を見るとどうやら同じ学校だ
おはよう お久しぶり 約束通り来たよ
と蔓延の笑顔で微笑んでいる
お久しぶり❓
約束通り来たよ❓
全く見覚えのない顔だ
誰❗️
と聞くと彼女は頬を膨らまし
ひどいぃ 私の事忘れたの健一
俺の名前を知っている
しかし 俺は彼女が誰なのか解らない
美鈴だよぉ
と膨れつらで言いながら前髪をかき上げた時
額に5cm程の傷跡があるのが見えた
美鈴❓
俺はハッとし思い出した
俺は父親が仕事で九州 熊本にいた時に生まれた
5歳までそこで育ったのだ
隣の家には美鈴と玲香と言う名の双子の姉妹が住んでいた
俺と美鈴と玲香はとても仲良しだった
毎日 虫を取ったり花を摘んだり鬼ごっこやおままごとをして遊んだ
毎日がとても楽しかった
俺達が5歳になった時 事故が起きた
3人で遊んでいた時 
危ない❗️
と俺は叫んだ
しかし美鈴は花を摘もうとして足を滑らし崖から転落したのだ
玲香は泣きじゃくり俺はオロオロしていた
異変に気付いた俺の母親がやってきた
俺は
美鈴が落ちたぁ❗️
と泣きながら叫んだ
母親は滑り落ちる様に崖を降りた
美鈴を抱き上げ崖を登って来る
美鈴の姿が見えた
崖の下にある岩に額を打ち付けたのだろう
美鈴の額は真っ赤に染まっている
騒ぎに気づき大人達が集まって来た
美鈴の父親が急いで美鈴と母親を車に乗せ病院に急ぎ向かったのだ
俺と玲香は俺の家で美鈴の帰りを待っていた
俺の母親が
大丈夫だから
大丈夫だから
と言い俺と玲香を抱きしめた
2時間程経ったとき
リリン リリン
と電話が鳴った
俺の母親は神妙な顔で電話で話しをしている
母親は静かに受話器を置いた
母親は俺達に歩み寄り
美鈴ちゃんはお怪我をしてるから今日は病院にお泊りするの
玲香ちゃんは今日おばちゃんのところでお泊りするのよ
と言って玲香を抱きしめた
次の日の夜 電話が鳴った
今から美鈴ちゃんのところに行くからご用意してね
と母親は言った
俺は母親の顔色を見て只事ではない事を悟った
俺と玲香は俺の父親が運転する車に母親と4人で乗り込んだ
病院に着いた俺たちは美鈴がいる病室に急ぎ向かった
ドアを開けるとそこには頭に包帯を巻き呼吸器を付けた美鈴の姿があった
ピ ピ ピ ピ
と心拍計の音だけが静かに鳴っていた
1時間程経った頃
病室に
ピィーーーーーーーー
と心拍計から警告音が鳴った
医者と看護師が飛び込んで来る
看護師に俺達親子は部屋を出るようにと促された
やがて 病室から悲鳴の様な泣き声と咽び泣く声 
美鈴❗️
美鈴❗️
美鈴❗️
と呼ぶ玲香の声が廊下に響いていた
葬儀も終わり数日が経った
俺は何回も玲香に会う為に家を訪れたが玲香が顔を見せる事は無かった
幼い俺は美鈴の死を受け入れる事は出来ずにいた
また3人で楽しく遊ぶ事を夢見ていたのだ
1週間後 急遽父親の転勤が決まった
引っ越しの日にも玲香が姿を見せる事は無かった
俺達親子は引っ越し先の神戸に向かった
今 俺の前にいる美鈴はあの時の美鈴なのだろうか?
健一 何ボヤッとしてるの
学校に遅れるよぉ~
その声で俺は我に返った
うん そうだね
と答えると美鈴は俺の手握り引っ張って歩き出した
その手の感触は5歳の時と同じ感触だった
美鈴は5歳の時 本当に死んだのか?
今 いる美鈴は本物なのか?
今 この手の感触 温もりは生きている人間の感触である事だけが現実なのだ
ねぇ 健一5歳の時の約束 ちゃんと守ってよ
と嬉しいそうに笑う美鈴の顔はとても可愛いく愛しいと思うのだ
しかし 5歳の時の約束って何なのか思い出せない俺がいた

第2話

美鈴と玲香

突然現れた死んだはずの美鈴に俺はただただ戸惑うしかなかった
やがて校門が見えてきた
その時 生徒達の冷ややかな視線を感じた
あの2人根性あるよな
何 仲の良いとこ 見せ付けたい訳なの
私だって 堂々と手を繋いで登校したいわよ
あれって 不純異性交遊よね
あの娘 可愛いなぁ ムカつく
と囁く声が聞こえる
最初は何の事だか解らなかった
健一 もうすぐ学校だね
そう言うと美鈴は
ギュッ
と俺の手を強く握った
俺はその時 気がついた
俺 美鈴と手を繋いで歩いてたぁ(汗)
この冷ややかな視線は俺と美鈴に向けられていたのだ
俺は慌てて美鈴の手を離そうすると
美鈴はムッとした顔で
小さな頃 ずっと手を繋いでたでしょ
美鈴の事 嫌いなんだぁ
ムッとした顔から涙目に変わり今にも泣きそうな顔になっていた
俺は困り果て半分ヤケになって
解ったよ 校門の前で手を離せよ
俺は半笑いで言った
美鈴は
うん 解ったぁ
と嬉しいそうに答えた
俺は校門に着くまで生きた心地がしなかった
校門に着くとやっと美鈴は手を離した
美鈴は満足気に
健一 また後でね
と言うと足早に校舎に消えて行った
俺はうつむき顔を上げる事が出来なかった
冷ややかな視線が俺の身体中を突き刺していたからだ
校舎に入り上履きに履き替え急いで教室に向かった
俺のクラスは2年C組 校舎の3階にあった
ドアを開けると ここでも冷ややかな視線が俺を貫いた
特に女子の視線は槍の様だった
俺は窓際の自分の席に座り塞ぎ込んでいた
後ろの席には親友の谷川が座っていた
谷川は俺の後ろから覗き込む様に
健ちゃん あの可愛い娘は だ・あ・れ
と興味津々に尋ねてきた
俺は吐き捨てる様に
幼馴染だ❗️
と答えた
予鈴がなり担任の新井先生が入ってきた
新井先生は俺に向かって
白岩 後で職員室な
と言い睨んでいた
俺は もう 針のむしろに座っている気分だった
新井先生は
今日からうちのクラスに転校生が入って来る
吉永 玲香さんだ
と言った
俺は自分の耳を疑った
吉永 玲香❓
まさか・・・・
ドアが開き彼女が入って来た
教壇に立つと
熊本県立 熊本高校から転校してきました
吉永 玲香です
皆さん 仲良くして下さいね
と自己紹介をし頭を下げた
俺はその時 彼女の額に傷跡がない事に気付いた
美鈴ではない事を確信した
俺は動揺していた
何故玲香がここにいるのか
美鈴は約束を守る為に来たと言っていた
俺は玲香にも何か約束をしていて俺の前に現れたのか
5歳の子供がした約束がどれだけ重要なのか俺には解らない
谷川が後ろから話し掛けて来た
おい 白岩 吉永って今日 お手手繋いでの娘やろ
俺は無言で無視をした
新井先生は俺の席の斜め後ろを指差して
君の席はあそこね
と言って教壇に着いた
彼女は俺の横を通り過ぎる時 横眼で俺を見た
何も言わず彼女は自分の席に着いた
思わず俺は立ち上がり
先生 今日の転校生は1人ですか
と訪ねた
先生は不機嫌そうに
1人だけだが それがどうした
と答えた
俺の頭の中は真っ白になっていた
朝 手を繋いで登校したのは額に傷のある
吉永 美鈴で
今 斜め後ろに座っているのが額に傷の無い
吉永 玲香なのだ
転校生は1人
朝の美鈴は幽霊なのか
嫌 違う確かに温もりのある人間の手だった
校門の手前で多くの生徒達も見ている
親友の谷川も見ている
じゃぁ あの美鈴は何処に行ったんだ
校舎に入って行ったのは間違いない
朝の美鈴 今斜め後ろにいる玲香
俺は全く理解出来ないこの状況をどう受け止めれば良いのだろうか

第3話

5歳の約束

俺は答えのない問題を永遠と考え続けた
先生の声 学友の声 何も聞こえない暗闇の中にいた
5歳でこの世を去った美鈴と現存する玲香
今日 俺はこの2人に会ってる事実
おい 白岩 昼休みだぞ
谷川の声で現実に戻された
俺は学食に行くけど白岩はどうする❓
谷川が訊ねる
すまん 俺はいい
俺は軽く頭を下げた
何気なく玲香の方を振り向いた
そこには玲香の姿はなかった
俺は気晴らしの為 屋上に上がった
寒い冬の時期で屋上には誰1人居ない
俺は街を見渡せる柵にもたれ雲一つない冬空を見上げていた
カッチャ ギー❗️
と屋上のドアの開く音がした
ドアの方を見るとそこには
玲香が居た
玲香は小走りで俺に近づき
健一 何してるの
と笑みを浮かべている
玲香ではない美鈴だ
額に傷がある
俺はあ然と美鈴を見つめている
美鈴の手にはお弁当箱を持っていた
健一 一緒に食べよう
ここ寒いからあっちの日向に行こうよ
そう言うと俺の手を握り引っ張って行く
その手はとても柔らかく 温かい
疑いようのない人間の手だ
日向にはベンチがありそこに2人は腰を下ろす
美鈴のお弁当には卵焼き アスパラガスのベーコン巻き タコさんウインナー ほうれん草の胡麻和え サラダ 全部手作りだ
どれだけ時間を掛けて作ったのだろうか
食べさせてあげるね
ア~んして
俺は赤面しながら食べる
美味しいぃ❗️
と自然に口から出た
美鈴は満足気に
美味しいの当たり前だよ
私の愛情たっぷりだもん
と言い美鈴は俺が食べるのを嬉しいそうに見つめていた
2人は幸せな時を過ごしている
ねぇ 健一 これからはずっと一緒だよ❤️
約束したもんね
美鈴は真顔で言った
俺は美鈴の言葉で約束を思い出したのだ
あれは5歳になった時だった
俺と美鈴と玲香はおままごとをしていた
いつも奥さん役は美鈴と玲香の2人だった
俺は旦那さん役や子供役をしていた
その日はいつもと違っていた
美鈴が
奥さんが2人っておかしいよね❓
って言い出したのだ
玲香は
別に2人でも良いでしょ❗️
と言い返した
美鈴は
絶対におかしいよ
私達の家にはお母さんは1人しかいないでしょ❓
健一のところもそうだよね
と言うと
俺を睨むように見つめたのだ
俺は美鈴の目が怖くて
うん そうだね
としか答えるしか無かった
そらね 健一も一緒と言ってるもん
と勝ち誇った顔で美鈴は玲香を睨んだ
じゃぁ どっちが奥さん役するかジャンケンで決めよ
と玲香は言った
美鈴は
良いよ 勝ったら大人になっても奥さんだからね
と言い出した
玲香は静かに頷いた
幼い俺には美鈴の言っている意味が理解出来なかった
美鈴と玲香は向き合った
最初はグー  ジャンケン ポイ❗️
美鈴はチョキ
玲香はパー
美鈴の勝ちだ
美鈴は
やったぁ 健一の奥さんだぁ
と大はしゃぎをしている
玲香は無言になり目には涙が溢れていた
玲香は涙を拭いながら走って帰って行った
俺はキョトンとして何があったのか理解していなかった
さぁ 健一 おままごとしよ
と美鈴は幸せいっぱいの笑顔で言った
玲香が泣いて帰っちゃたよ
と俺が言うと
そうだね
そう言うと美鈴はおままごとを始め出した
その日は1時間程おままごとをして家に帰った
次の日いつものように3人で楽しく遊んだ
しかし玲香は二度とおままごとをする事は無かった
そして数日後 美鈴は事故でこの世を去った
約束って俺の奥さんになるって事か
5歳の時には理解出来なかったが今の俺には理解出来る
健一 どうかしたの❓
ボーとしちゃって 何考えてたの❓
美鈴が俺の顔を覗き込んだ
約束 思い出したよ❗️
と俺は美鈴に微笑んで見せた
ひどいぃ 今まで忘れてたの❗️
美鈴は怒っていた
2人はお弁当も食べ終わり美鈴が持参したホットコーヒーを飲んでいた
俺は思い切って今までの疑問を美鈴に聞く事にした
美鈴 今まで何処にいたの❓
美鈴は顔を少し曇らせた
ずっと美鈴は健一の側に居たよ
健一の斜め後ろの席に座って授業受けてたよ
と言う
嫌 違う あれは美鈴じゃない玲香だ❗️
俺はそう言うと美鈴を睨んだ
美鈴はスクっと立ち上がり俺に背を向けた
あれは玲香だよ でもね本当は美鈴なんだよ
そう言うと振り向き俺に不気味な笑顔を見せた
美鈴は5歳の時に死んだんだ❗️
おまえは誰だ❗️
俺は立ち上がり美鈴の両肩を強くにぎった
私 死んでないよ 生きてるよ 本物の美鈴だよ 
泣き顔で俺を見つめている
本物の美鈴なら証拠を出せよ❗️
俺は怒鳴った
美鈴は俺の手を払いのけ 制服の上着を脱ぎ ブラウスのボタンを外し胸元をさらけ出した
美鈴は言った
このホクロ 見覚えあるでしょ
胸の真ん中にあるホクロを指差した
健一の右太ももの内側に火傷の跡あるでしょ
美鈴はそう言うとブラウスのボタンを閉じ制服の上着をきた
俺は崩れて落ちるようにベンチに座った
あのホクロには見覚えがある
4歳の時美鈴と玲香と3人でお風呂に入った
その時 美鈴の胸の真ん中に大き目のホクロがあった
俺はそれを見て
ウルトラマンのカラータイマーだぁ
とからかって美鈴を泣かした事を覚えている
俺の右太ももには3歳の時 アイロン掛けをしていた母親に抱きついた時
母親が持っていたアイロンが右太ももの内側に当たり火傷をした
その時の火傷の後が微かに残っているのだ
よっぽど注意深く見ないと見えない右太ももの内側にある火傷の跡なのだ
それを知っているのは俺の両親と美鈴と玲香だけだ
美鈴は本物なのだ
しかし美鈴は5歳の時死んだのも事実だ
美鈴が幽霊なら納得も出来る
しかし 俺の目の前にいる美鈴は生きている人間なのだ
美鈴は黙ってお弁当箱を片付けていた
間違えなく玲香も今 存在しているのだ
今 俺は出口の無い迷路をさまよっている

第4話

2人で1人

ピンポーン パァンポーン ピンポーン パァンポーン
と昼休み終了のチャイムが鳴った
美鈴は
健一 一緒に帰ろうね
約束したよ ダーリン❤️
そう言い残すと屋上のドアから消えて行った
俺も戸惑いの中 教室に戻る
教室の中 玲香は自分の席に座っていた
俺は玲香の様子を気にしながら席に着いた
玲香は全く俺の事など気にしてない様子だ
授業中 玲香の事が気になりどうしても見てしまう
玲香は真面目に先生の話しを聞きノートに書き写している
その姿は美鈴とは全くの別人だった
俺は悶々とした気持ちで今日1日の授業を終えた
帰り際 俺は玲香に話しかけた
俺 誰か解る❓
と問いかけた
玲香は
健一君でしょ
5歳の時 以来だね
元気にしてた❓
再会の感動などなく淡々と答えた
美鈴が亡くなってから一度も顔を見せてくれないから 心配してたんだ
と俺が言うと
ごめんね
そう言うと席を立ち帰ろうとした
俺はすかさず
一緒に帰ろうか
と言った
玲香の顔が一瞬強張った
無理だと思うよ
言い残すとドアから出て行った
無理だと思う❓
その意味がわからない俺は呆然とその場に立っている
彼女にでも振られましたか 健ちゃん
と谷川が俺の肩に手を乗せる
その手を払いのけ
なんでも 無いよ
と俺は笑って見せた
谷川と一緒に校門を出た時
そこには塀にもたれるように美鈴が俺の帰りを待っていた
彼女 ちゃんと待ってるじゃん
お邪魔虫は消えるねぇ
といやらしい目つきで谷川は立ち去った
俺を見つけた美鈴は走り寄り俺の腕にしがみついた
美鈴 お願いだから人気が無くなるまでは普通に歩いてくれ
と俺は懇願した
美鈴は
人気が無くなったら昔みたいにほっぺにチューしてくれるぅ
とからかうように言う
俺は
もう高校生だよ
昔とは違うんだよ
と答えた
美鈴は不満気に
いいもん いいもん
と言いながら歩き出す
はぁ~
と一つため息つくと美鈴の後を歩き出した
学校から遠ざかると美鈴は通学路横に流れる小川のあぜ道を歩き出した
美鈴はいきなり振り返る
健一  子供は何人欲しいぃ?
と美鈴は笑った
俺はつまずきもう少しで転けるところだ
俺はまだ16歳なの
と赤面した
赤面してる俺に畳み掛けるように
子供ってどうやって作るの
と美鈴は俺の顔を覗き込んだ
コウノトリが運んでくるの
と5歳児のように答えると
2人は大笑いをした
美鈴と俺は腕を組みあぜ道を歩いた
やがて2人は駅に着く
美鈴は何処に住んでるの
と尋ねると
ないしょ
と笑みを浮かべた
じゃぁ 明日ね
そう言うと美鈴は俺と反対のプラットホームに向かった
俺は電車に乗り家に向かう
3駅目で降り家路を歩いていた
俺はフッと思い出した
美鈴が言った
じゃぁ 明日ね
どう言う意味なんだろう
明日は土曜日 学校は休みだ
美鈴とはメアド交換は駅前でした
しかし俺の住所は教えていない
明日 電話すると言う意味なのか
と俺は軽く考えていた
家路の途中のいつものコンビニで晩御飯の弁当とポテトチップスとコーラを買った
家に着いた俺はお風呂にお湯をはり晩御飯を食べ始めた
時は20時前
突然 ルパン三世のテーマ曲が流れ出した
俺のスマホの着信音だ
着信名に美鈴と表示されている
はい 健一だけど
と電話にでる
明日 朝9時には起きててね
荷物が届くから
よろしくね
それだけ告げると電話は切れた
荷物が届く❓
美鈴には俺の住所は教えていない
何故 俺のうちに美鈴の荷物が届くんだ
美鈴のする事は理解に苦しむ事ばかりだ
俺は残った弁当を口にかきこみさっさと風呂に入る事にした
風呂から出て コーラとポテトチップスを寝室に持ち込んだ
毎晩恒例のFPSゲームを始めた
オンラインマルチプレイで協力しながら敵を倒す
実戦宛らのゲームだ
インターネット上の中には30人以上のフレンドが存在していた
みんな気の良い仲間達だ
コーラを飲みポテトチップスをつまみながら2時間程プレーして24時に俺は就寝した
朝9時過ぎにインターホンの音で目が覚めた
すっかり美鈴の荷物の事を忘れていた俺は慌ててパジャマ 寝ぐせの髪で玄関に向かう
はーい 今開けま~す
と言うとドアの鍵を開け扉を開いた
どうも ニコニコ引っ越しセンターです
お荷物をお届けに参りました
家の前には小型トラックが止まっていた
寝起きの俺の頭はまだ寝ていた
ご苦労様です
と引っ越しセンターの配達員に挨拶をした
おはよう ございます
と玲香が現れた
額に傷が無い 間違いなく玲香だ
ここでようやく頭が目を覚ました
何で 俺の家に引っ越し屋が来てるんだ
何で玲香がいるの
頭は❓マークでいっぱいだった
玲香 何この荷物は
と聞いた
この間 荷物は次々と家の中に運ばれて行く
今日から健一君のお家でお世話になります 吉永 玲香です
宜しくお願いします
と一礼した
玲香なのは解ってるよ
何で俺の家で住むことになるんだよ
と尋ねた
健一君の家には空き部屋があるの
と玲香は聞く
2階の右の俺の部屋の隣なら空いてるけど
と言うと
引っ越し屋さん2階の右の部屋に荷物入れて頂けますか
玲香は指示した
俺は慌てて父親に電話した
あぁ言うの忘れてたわ 吉永さんのお父さんからこの前 電話があってどうしても健一と同じ学校に行きたいと玲香ちゃんが言うので ちょうど俺の家に空き部屋があるから預かる事にしたんだ
仲良くやってくれ
忙しいから電話切るぞ
そう言うと一方的に電話が切れた
うちの父親は何を考えてるんだ 勝手に決めやがって
俺は怒り心頭だ
電話中に荷物は全て運び込まれいた
俺は2階に上がり何故 俺と同じ学校に行きたいと言い出したのか理由を聞こうと荷物が運び込まれた部屋の前に立った
その時である
その部屋から言い争う声がした
耳を澄まして聞いてみると
美鈴は出て来ないでね
この身体は私のものなの
美鈴は死んだのよ
私は死んで何かいない この身体も美鈴のものなの玲香こそ出て来ないで
俺はドアを開けた
そこには額の傷が半分になっている美鈴嫌 玲香どちらか解らない女子高生が1人座っていた
今日2月16日 土曜日 は俺の17回目の誕生日だ
人生最悪の誕生日になりそうだ

第5話

真実

俺の前には額に3cmもない傷を持つ女子高生が驚いた顔で俺を見つめていた
俺は確かに美鈴と玲香が言い争う声を聞いた
俺の動揺ははっきりと顔に出ていた
しばらく沈黙が続く
俺は動揺を抑え静かに口を開いた
今 美鈴と玲香がここにいるよね
彼女は頷いた
俺は彼女の前に座った
今 美鈴と玲香に話せるのか❓
彼女は頷いた
じゃぁ 美鈴からね
美鈴は5歳の時に崖から落ちて頭を打って死んだんだよ
これは事実なんだ
と言った
美鈴が話し出した
私 死んでるの❓
健一のお嫁さんにはなれないの❓
そうだよ もうこの世には居てはいけないんだよ
俺は諭した
美鈴は目に涙を貯め黙り込んだ
今度は玲香に聞くね
いつから美鈴が玲香の身体を利用するよになったの
と聞く
玲香は静かに話し出した
美鈴が死んだ次の夜から異変が起きたの
美鈴の記憶が頭の中で次々と浮かんで来る様になったの
次の朝 美鈴が私の中にいる事を感じたわ
最初は美鈴が返って来たようで嬉しかったの
心の中で2人で色んな話しをしたわ
次第に美鈴が私の身体を自分の身体の様に自由に使う様になったの
最初は1時間ぐらい美鈴が現れたわ
だんだん美鈴が私の身体を支配する時間が増えてきたの
このままだと完全に支配される恐怖を感じたの
だから美鈴と話し合って入れ替わる時間を決めたの
お互いの都合のいい時間で入れ替わる事で合意したわ
昨日もそう 健一君との時間を過ごしたい美鈴は登校時間と昼休みと放課後に入れ替わりたいと言って来たの
私は承諾したわ
だから登校時間と昼休みと放課後は美鈴だったでしょ
それ以外は私だったの
俺は今までの疑問が一気に理解出来た
玲香は言う
健一君が5歳の時に私の家に会いに来てくれた時も美鈴が出て来たから会えなかったの
ごめんなさい
その目には涙が溢れていた
俺は心を鬼にして聞いた
玲香はこれからどうしたいの❓
美鈴と今まで通り共存していくの❓
それとも美鈴には成仏してもらって玲香として生きて行きたいの❓
どっちなの❓
玲香は黙り込み 自分の気持ちを整理している様子だった
俺は美鈴に聞いた
美鈴は本来行くべき場所に行く気はないの❓
美鈴は
私はただ健一のお嫁さんになりたいの
成仏なんか出来ないよ
未練しか残らないもん
こんなに俺の事を愛してくれている美鈴にこれ以上何も言えなくなった
玲香が口を開いて
美鈴とキチンとルールを決めて守ってくれるのなら共存して生きていきたいわ
美鈴が私の中で生き続ける事が出来るなら私も嬉しいもの
俺は冷静に言った
美鈴は俺と結婚して奥さんになる事を望んでいるんだよ
もし結婚したらいずれ子供が欲しくなる
子供を作るのに玲香の身体が必要になるんだよ
そんな事を玲香は納得できるの❓
しばらくの沈黙の後
私は5歳の時から健一君の事が好きだったの
ジャンケンで負けて一度は諦めたのに今日 健一君の顔を見てやっぱり好きな気持ちは変わって無かったの
今 はっきり確信したの
健一君の子供なら産みたいと思ってる
そう言うと玲香は桜色に頬を染めた
俺は全く予想もしてなかった玲香の答えに唖然とするしか無かった
美鈴はすかさず
じゃぁ 子供は2人は必要ね
私の子供と玲香の子供だね
玲香も同意した様子だった
一番驚いたのは俺である
この同意には一切俺の気持ちは無視されているからだ
何勝手に決めてるんだ
いつ俺が2人と結婚すると言ったぁ❓
すると彼女の顔が急変し悪魔の様な顔で
美鈴の声で呪い殺すからね
玲香の声で包丁で刺し殺すわ
と言ったのだ
その顔は紛れもなく本気の顔である
俺は身体の真から震え上がった
もう俺の心臓を2人に差し出すしか生き延びる道は無かったのだ
俺は最後に今この状況で残った疑問を聞いた
2人が入れ替わっている時はもう1人の心はどうなってるん❓
この質問に玲香が答えた
1人の記憶は全くないわ
でも何があったかは心の中で情報交換はいつもしているわよ
と言った
俺は腹を括った
今見たいに2人いっぺんには出て来ない事
俺の前には必ず1人づつ出てくる事
必ず1人づつ平等に出てくる事
それが守れるなら2人を平等に愛する事を誓うよ
俺が言うと彼女は蔓延の笑みを浮かべ頷いた
さて 今からどっちが出てくるのだろうか❓
先に出てきたのは玲香だった
サッサと荷物を片付けるわよ
健一君はダンボールを開けていってね
と段取り良く指示していく
しっかり女房タイプだ
下着と書いているダンボールを発見した
開ける訳には行かない
これ下着って書いてあるけど
と聞くと
興味があるなら開けても良いわよ
変態さん
と笑っている
ムカついた俺は
変態さん♬ 変態さん♬ 変態さん♬
と適当な歌を歌いながら ダンボールを開けようした時
へんた~ぃ止まれ 1.2.3❗️
と玲香は号令をかけた
2人は腹を抱え笑った
2時間程で荷物は整理された
時計は午後1時を回っていた
じゃぁ 後はよろしくね
と玲香は言うと
美鈴が現れた
健一 冷蔵庫の中 見るね
と言うと冷蔵庫から玉子とウインナーと玉ねぎを見つけ
オムライスを作り始めた
オムライスにはハートがケチャップで書かれ中にはLOVE の文字が書かれていた
どうぞ 召し上がれ
美鈴は美味しそうに食べる俺の顔を眺めている
どうやら 美鈴は料理上手なラブラブ女房タイプのようだ
こうやって奇妙な2人 嫌 3人の新しい生活がスタートしたのだ

第6話

お誕生日

 昼食も終わり美鈴は食器を洗っていた
満腹感と午前中の引っ越しの片付けで疲れていたのだろう
いつのまにか俺は夢の中にいた
目を覚ますと時計の針が夕方の4時を指していた
美鈴と玲香の部屋の様子を見に行った
8畳の部屋に何故かベットが中央窓側に部屋を2分するかの様に置かれていた
ベットを中心に右と左では全く違う雰囲気を醸し出していた
部屋のドアから右側には沢山のぬいぐるみやキャラクターグッズが並んでいた
壁には男性アイドルグループのポスターが至るどころに貼られていた
ピンク色の机と丸型のこれもピンクの椅子が置かれていた
おそらく美鈴の好みだと直ぐに解った
左側は正反対に本棚が置かれいた
本棚の中には参考書や文学小説の本がきちんと並べられていた
壁もシンプルでブルーの薔薇柄のタペストリーがあしらわれている
机は紺色のシンプルな物で椅子も同色の背もたれのある椅子が置かれていた
玲香らしい空間になっている
双子なのに全く好みが違うのだ
2人の姿はこの部屋には無かった
俺は部屋を後にした
リビングにも浴室にも姿は無かった
いったい2人は何処に行ったのだろう
俺は6畳の自分の部屋に戻る
ベットに横たわりお気に入りである漫画の夏目友人帳を見ていた
2時間程経った6時半頃 玄関から
ただいまぁ~
と声がした
降りて見ると たくさんの荷物を両手にもった玲香が立っていた
遅くなってごめんなさい
と言うと荷物を置いた
何処に 行ってたの❓
と俺が聞くと
ちょっとお買い物に行ってました
と答えた
俺は荷物の半分を持ち
この荷物 何処に置いたらいい
と問いた
リビングに持って行ってもらえますか
と答えた
荷物の中からフライドチキンの香りがする
健一君 準備があるからお部屋に戻ってねとリビングから追い出された
30分後にリビングから
健一 降りて来て
と俺を呼ぶ声がした
リビングには豪華絢爛な夕食が用意されていた
真ん中には誕生日ケーキ 周りにはローストビーフ フライドチキン サラダ 俺の好きなコーラも用意されていた
その前には玲香ではなく美鈴が立っている
もう少ししたらお寿司も届くよ
と笑みを浮かべる美鈴
やがてお寿司も届き
2人は食卓を囲んで座った
時計は夜の7時を過ぎていた
美鈴はケーキに立っている17本のロウソクに火をつける
電気消すよ
と言うと消灯した
美鈴が歌っているのだろうか
Happy Birthday to Youの歌が聞こえる
健一 お誕生日 おめでとう㊗️
続いて
玲香の声で
健一君 お誕生日 おめでとうございます
次は美鈴の声で
火を消して
と言う
俺は一気に火を消した
パチ パチパチパチパチと拍手の音がする
照明が点き
玲香が前に座っていた
玲香 美鈴 俺の誕生日を覚えていてくれたんだね
ありがとう
と頭を下げた
玲香と美鈴は15分おきに入れ替わり食事を3人で楽しんだ
玲香は
美鈴と2人で選んだの
と大きな紙袋を差し出した
開けると中には紺色のおしゃれなジャンバーが入っている
色は玲香が選びデザインは美鈴が選んだんだと思った
着てみて下さいと
と言われ俺はジャンバーを羽織った
似合う❓
少し恥ずかしげに聞いた
ハイ 良く似合ってます
と玲香は言った
美鈴に変わると
健一 クールだねぇ
と親指を立て 前に突き出した
俺にとって最高に幸せな誕生日になった
翌朝 俺は人の寝息で目が覚めた
俺の眼前には美鈴がこっちを向いて可愛い寝顔で寝ていた
なんで❓
俺は現状が理解出来ていない
金縛の様に身体を動かせないでいる
やがて 美鈴は目を開け
健一 おはよう💕
と微笑んでいる
何 してるの美鈴❓
と言うと
てヘェ❗️
と舌を出した
俺はカミカミで
早く自分の部屋に行って❗️
と上布団を剥いで美鈴を追い出した
パジャマ姿の美鈴は
健一の意地悪ぅ
と言い残すとドアから出て行った
美鈴の奴 いつから俺はの横で寝てたんだ❓
美鈴の大胆な行動に額から汗が流れるの感じた
この事を玲香が知ったらと思うと恐ろしさで鳥肌が立った
パジャマのままリビングに向かうと美鈴が朝食の用意をしている
目玉焼きとサラダとコーンスープが出てきた
美鈴 いつから
と問いただす途中で
玲香に入れ替わった
美鈴の奴 逃げやがった❗️
と俺が苦虫を噛んだような顔をしている
どうかしたの❓
と玲香は俺の顔を覗き込んだ
何もないよ
と答える俺
気まずい思いをしながら美味しい朝食を食べた
俺は
昨日の誕生日のお礼がしたいんだ
近くに美味しいイタリアンのお店があるから 良かったら昼食はそこでランチしない❓
と提案した
ありがとう 喜んで
と玲香は微笑んだ
俺はイタリアンのお店に13時で予約を入れた
俺には一つ疑問に思う事があった
思い切って玲香に聞くことにした
どうやって 玲香と美鈴は入れ替わってるの❓
その問いに
心の中で美鈴を呼び出すの
すると美鈴が心の中に現れるの
心の中で情報交換をしてから身体を引き渡すのよ
と答えた
2人が心の中にいる時は俺の声は2人共聞こえてるの
と聞いた
ハイ 聞こえていますよ
と玲香は言う
じゃぁ メニューを決める時は美鈴を呼び出して食べたい物を2人で決めて
と俺は言った
そうするわ たぶん美鈴が食べると思うから
美鈴は食にはうるさいのよ
美味しい物には目がないの
それに朝食は健一君と一緒に食べたでしょ
昼食は美鈴に食べさせてあげないと可愛いそうでしょ
と優しさを見せた
12時過ぎに俺と玲香はイタリアンのお店に行くために家を後にした
もちろん俺は誕生日プレゼントのジャンバーを羽織っている
予約時間の10分前にお店に着いた
2人はお店に入ると道路側の席に案内された
俺と玲香は席に座った
じゃぁ 美鈴と変わるね
と玲香は言う
ちょっと待って 美鈴が心の中に現れた時
俺に教えて
と言うと玲香は不思議そうに
解りました
と言った
しばらくすると玲香は
今 美鈴はいますよと言う
額にはやはり美鈴の傷半分が浮き出ていた
俺は静かに話し出した
美鈴 聞こえてるよね
今日の昼食は玲香と食べるからね
理由は解ってるよね
そう言うと
額の傷は消え玲香に戻った
玲香は言う
美鈴が怒って自分から消えて行きました何かあったのですか❓
ちょっとね 
美鈴が俺にイタズラをしたんだ
その罰だよ
それからデザートの時 もう一度美鈴を呼び出して欲しいんだ
デザートは美鈴に食べさせてあげてね
玲香 好きな物を頼んで良いよ
と言った
玲香はカルボナーラ
俺はミートソースを頼んだ
2人は幼い頃の話しで盛り上がった
食事も終わりデザートを頼む事にした
玲香 美鈴と代わって
と言うと
美鈴は膨れっ面で現れた
もう 今朝の事は何も言わないよ
ここのティラミス最高だからね
そう言うとボーイを呼んで
ティラミスとコーヒーとオレンジジュースを頼んだ
俺は美鈴が幼い時からオレンジジュースが大好きなのを知っていた
美鈴は相変わらず膨れっ面のままだった
やがてボーイが注文の品を運んで来た
美鈴の前にティラミスとオレンジジュースが運ばれ俺の前にはコーヒーが置かれた
美鈴 さぁ食べて
と言うと
美鈴はスプーンでティラミスをすくい口に運んだ
何 これ❗️
こんなに美味しいティラミスは初めてぇ
と膨れっ面から蔓延の笑顔に代わっている
オレンジジュースを一口飲むと
健一はオレンジジュースが好きなの覚えてくれてたんだね
ありがとう💕
幸せいっぱいの顔だった
俺はコーヒーを飲みながら美鈴の顔を見ていた
その姿を奥の席で見つめている他校の女子高生が1人座っていた

第7話

忘れた恋

美鈴はジャンバーを見ながら
健一カッコいいよ
と褒めてくれた
俺は 
美鈴のコーディネートはこうでぃないと
と親父ギャグで照れ隠しをした
美鈴は俺の親父ギャグがツボにハマったらしくケラケラ大笑いし その声が店中に響いた
美鈴 声 大きい❗️
俺は唇に人差し指を立てた
だって健一が親父ギャグを言うなんて
ケラケラとまた大笑いをする
奥に座っていた他校の女子高生が立ち上がってこちらに歩いてくる
ほらぁ  怒られるぞぉ
と美鈴を睨んだ
女子高生が2人のいるテーブルに来た
白岩君でしょ❓
と俺の名前を言った
私の事 覚えてる❓
と聞いた
俺は彼女の顔をジッと見つめた
思い出した
あっ  廣瀬 明里さんだよね
中学生以来だね
元気にしてたぁ❓
と聞くと
元気だったと思う❓
高校が別々になってから白岩君はだんだん連絡くれなかったでしょ
私は遠くになって行く白岩君の気持ちが凄く寂しかったから
とその目には涙を貯めていた
俺と明里は中学3年の夏から男3人女3人の仲良し6人グループからお互いが意識し出し自然と付き合うようになった
高校が別になるとメールや電話も少なくなり自然消滅の形で別れたのだ
今 彼女の気持ちを聞くまでは気にもしていなかった
今 彼女には悪いことをしたと心から思っている
美鈴は彼女を親の仇の様に睨んでいる
この娘は誰なの❓
明里が聞く
俺が答えようとする前に
美鈴は立ち上がった
私は白岩 健一のフィアンセの吉永 美鈴です
よ・ろ・し・く・ね
と睨みつけている
廣瀬も負けじと
健一君と深い関係の恋人
廣瀬 明里です
こちらこそ宜しくね
と言うと睨み返した
2人の眼の間には火花が散っていた
美鈴も明里も話し盛り過ぎや
と思った
確かに美鈴とは5歳の時に一方的に奥さんになる約束をさせられた
明里とは中学3年の時の恋人でキスと制服の上から胸に触れたぐらいだ
俺はこの場をどうやって収拾させるか頭を抱えていた
まぁまぁ 2人共座ろうよ
と席に座らせた
この険悪のムードを変える為に
お2人さん 知ってるぅ
何でも自分の物にしたがる国  オランダ
何てねぇ
2人は一斉にこっちを向き
声を合わせて
面白くない❗️❗️
と怒られてしまった
どうやら俺は火に油を注いだようだ
困り果てた俺は神頼みならぬ玲香頼みをするしか無かった
美鈴の肩を叩き耳元で
玲香と代わってと囁いた
美鈴は不機嫌そうに頷いた
しばらくすると玲香が現れた
玲香は耳元で
話しは美鈴から聞きました
彼女の言う深い関係ってどう言うことなの❓
俺は明里との関係を正直に伝えてた
健一君 少し軽率でしたね
と静かに玲香は囁いた
その目は怒っている
玲香は明里に
さっきは感情的になってしまい失礼な事を言ってしまいお詫びします
明里さんの言っている深い関係って
そう言うといきなり俺の手を取り自分の胸に押し当てた
そして顔を近ずけ俺の唇にキスをした
明里は唖然としている
これで私と健一君はあなたと同じ深い関係になりましたわ
私達には幼な子でも将来を誓った仲なんです
私達の方が繋がりが強い事 理解して頂けましたか
と明里に言った
明里は立ち上がり
私 健一君の事 諦めないから
と言うとレジでお金を支払い店を出て行った
俺は突然の出来事に呆然としていた
手には玲香の胸の感触と唇には玲香の唇の柔らかさが残っていた
俺は我にかえり
玲香 助かったよ
ありがとう
と感謝を言った
玲香を見ると真っ赤な顔をしてうつむいていた
うつむきながら
今の事は美鈴には内緒にして下さいね
と呟いた
解った 美鈴には言わないよ
と約束をした
俺は玲香に大胆な一面がある事を知ったのだ
店内の時計の針が夕方4時半過ぎを示していた
玲香 そろそろ晩御飯のおかずの材料を買いに行こうか
と言うと俺は玲香の手を握りレジでお金を支払って店を出た
俺はずっと玲香の手を握っていた
健一君 手
とまだ真っ赤な顔で囁いた
俺と手を繋ぐの嫌なの❓
と聞くと
玲香は顔を左右に振った
綺麗な夕陽が仲良く手を繋ぐ2人のシルエットを映し出していた

第8話

大喧嘩

俺と玲香は晩御飯の材料を商店街で買い
手を繋いで家に帰った
今日の晩御飯はワカサギの天ぷらだ
魚屋のオヤジに
可愛い奥さんだねぇ
と言われ玲香は上機嫌で美鈴と入れ替わった
ねぇ 健一 玲香と何かあったでしょ
こっちが怖くなるくらいの笑顔で入れ替わったわよ
美鈴は疑いの目を向けている
何も無いよ
と言い俺はテレビのスイッチを入れた
美鈴は首を傾げながら晩御飯を作り出した
俺と美鈴は晩御飯のワカサギの天ぷらとほうれん草のおひたし 豆腐のお味噌汁を美味しくいただいた
もう夜の8時を回っていた
俺は
美鈴 先にお風呂に入るか❓
と聞くと
まだ する事があるから健一 先に入って
と言う
じゃぁ お先にお風呂もらうね
バスタオルとパンツを持って脱衣場に行った
頭と身体を洗い湯船に浸かる
今日 一日色んな事があったなぁ
と思いつつ今日の疲れを取った
脱衣場に人影が磨りガラスに映った
もしや美鈴か❓
俺は思った
美鈴 もう出るからな
と言うと美鈴は裸で入って来た
俺は入れ替わる様に風呂場から出た
何だぁ 一緒に入ろうと思ったのにぃ
とボヤいている
おまえ マジでいい加減にしろよ
と言い捨てると脱衣場から出て行った
朝は勝ってに俺のベットに入っているわ
今度はいきなりお風呂に入って来るわ
5歳児のままだなと思った
俺は悪気が無いだけに困っていた
ちゃんと3人で話し合うべきなのか考えた
迷った挙句 今から一緒に暮らしていく以上話し合う事に決めた
しばらくすると美鈴がお風呂から出て来た
美鈴 髪を乾かしたらリビングに来て
と言うと
うん 解ったぁ
と返事をした
髪を乾かした美鈴がリビングに来た
何の用かなぁ
と微笑んでいる
やっぱり 自分のした事を悪い事と認識していない
美鈴 いいからここに座れ
と俺は少し怒った口調で言う
美鈴は黙って俺の前に座った
美鈴に玲香も呼ぶようにと言った
しばらくすると玲香も現れた
2人共 今日あった事をちゃんと報告して
と言った
今 2人は心の中で報告し合っているのだろう
静かな時間が流れていた
いきなり雷鳴の如く
美鈴 あなた朝健一君のベットに潜り込んでたの
お風呂も勝手に入ろうとしたの
何 考えてるの信じられないわ
と玲香の怒り声が響いた
よく人の事が言えたものね
健一とキスぅ⁉️
何 それ
抜けがけは許さないからね
と美鈴は凄い剣幕で怒っている
2人の言い争いは10分に及んだ
やがて怒り疲れたのであろう
静けさが戻った
俺は冷静に言った
俺は2人共同じ様に愛すると誓ったよね
俺は俺なりにちゃんと守ってるよ
これから3人で楽しく暮らしていくためにルールを決めよう
玲香は俺と一緒に寝たりお風呂に一緒に入りたいの❓
玲香は恥ずかしそうに頷いた
玲香 少しの時間だけ美鈴と2人切りにしてくれるかな
と言うと玲香は頷いた
やがて玲香の姿が消え美鈴と2人切りになった
美鈴 目を閉じて
と俺は言った
美鈴は静かに目を閉じた
俺は美鈴の唇にチュッ
とキスをした
美鈴は真っ赤な顔で恥じらっている
美鈴 玲香を呼んで
と言うと頷いた
玲香も現れてた
じゃぁ ルールを決めよう
お風呂は毎週火曜日は玲香と入るよ
毎週木曜日は美鈴と入るね
毎週金曜日は玲香と一緒に寝ようね
毎週土曜日は美鈴と寝るね
おはようのキスは交代交代でおやすみのキスも交代交代にしようね
2人共これで良いかな❓
は~ぃ
と納得して返事をした
良かった 良かったと思っている俺に
2人は声を合わせて
今日のイタリアンのお店の女との詳しい関係 白状して
と攻めたてて来た
俺は1時間以上必死で説明する事になったのだ

第9話

卒業と決断

時は流れ俺達は高校3年の夏を迎えた
ミー ミー ミーとうるさいくらい蝉が鳴いている
いよいよ夏休みだ
今日は二学期の終業式
何時もの様に手を繋ぎ小川のあぜ道を歩く2人
ねぇ 健一 海水欲に行きたいよぉ~
と美鈴は言い出す
そうだね 俺達 高校生活 最後の夏休みだもんな 
精一杯楽しもうな
そう言う俺に美鈴は
今日 学校終わったら水着買いに行くから着いて来てね
と言う
健一君の好きなの選んでくださいね
玲香は言う
そう 高3になってから3人のルールが改正された
最初は2人が同時に出て来てはいけないから俺と2人切りの時は2人同時に出て来ても良いとなったのだ
1人ずつ話すよりも便利と言う理由からだ
健一は際どいビキニが好みでしょ
美鈴がいやらしい目つきで言った
それも白いビキニがお気に入りですものね
玲香も言う
俺はドッキとした
俺の部屋には親友の谷川から借りたグラビア雑誌がベットの下に隠し持っていたからだ
おまえら俺の部屋に勝手に入って何してるんだ
と怒った
もう校門前だ
2人は笑いながら学校に入って行った
放課後 俺と彼女達はショッピングセンターの水着売り場にいた
白い いやらしいビキニはどこかなぁ❓
とニヤニヤしながら美鈴は俺を横目で見て周りに聞こえるようにを言っている
俺は何の罰デームなの❓
と思いつつ美鈴の後を歩いている
最終的にはセパレートの白をベースに青系の花があしらわれた水着に落ち着いた
美鈴と玲香らしい選択だった
俺もトランクスタイプの水着を買った
帰りは美鈴は玲香と入れ替わり家路につく
家路の途中で玲香は聞く
健一君 この水着 気に入ってくれましたか❓
と玲香は言った
もちろん
と答える
玲香は握った手を強く握り締めた
8月の初旬に日本海に海水浴に行った
彼女達の水着姿は太陽の光より輝いて見える
広瀬すずより可愛い
胸もこの半年でEカップまで成長していた
ウエストも細く抜群のスタイルだ
今は美鈴の姿だ
喉が渇いたから買って来るね
健一はコーラで良いよね
と言うと海に家に向った
オレンジジュースとコーラを持ってこちらに返って来るのが見えた
その時 二人連れの男達がナンパしてきた
俺は美鈴を助けたようと立った時 二人連れの男達は尻尾を巻いて立ち去った
戻ってきた美鈴に
大丈夫だったの❓
と聞くと
私は結婚しててお腹には子供がいるのよ
と言ったら立ち去ったと笑って話した
俺は美鈴の口達者には尻尾を巻いた
俺と彼女達は海水浴を満喫し家に帰る
帰りの電車の中 入れ替わった玲香が俺の肩に頭をもたれスヤスヤ寝ていた
その寝顔を見て この2人は俺がきっと幸せにすると新たに誓ったのだ
この夏休みはキャンプに行ったり川遊びをしたりUSJに行ったり花火を見に行ったり 3人は高校生活最後の夏を満喫した
桜のつぼみが膨らみだした3月に俺達3人は高校を卒業した
俺は中小企業だけどIT会社に就職した
彼女達は歯科衛生士になる為に専門学校に通っている
俺は毎日 美鈴の手作り弁当を持って仕事に励んでいる
2022年2月16日 水曜日
この日は美鈴と玲香にサプライズをする事を決めていた
高校を卒業し俺は20歳になった
今日は俺にとって一世一代の大舞台になる
食後に美鈴と玲香をリビングに呼び出した
俺の後ろ手の中には小さなBoxを隠し持っている
俺は笑顔を作ろうとしているのだが顔が硬直して上手く笑えていない
美鈴と玲香は
健一顔がひきつってるよ
健一君 会社で何かあったの
と2人は俺を心配している
自分でも解っている今 不自然な顔なのは
はぁ~と深呼吸し話し出した
美鈴 玲香 5歳の時の約束を守る時がきたよ
美鈴 玲香 俺と結婚して下さい
と言うと
婚約指輪を差し出した
美鈴と玲香は泣きながら
嬉しいぃ 喜んでお嫁さんになります
と言うと俺に抱きついた
ありがとう 2人共大事するよ
と俺は誓った
抱きついている彼女達が俺の耳元で囁いた
2人じゃないの3人なの
えぇ どう言うこと❓
と俺は聞いた
お腹の中に健一の子供がいるの
と美鈴が言う
今日 病院に行って2か月って言われました
と玲香は言った
そうか 俺 パパになるのかぁ
ありがとう 美鈴 玲香
幸せ過ぎて怖いよ
と強く彼女達を抱きしめた
サプライズするはずが一番のサプライズをもらったのは俺の方だった
今 この幸せがやがてシャボン玉のように弾けて消えるとは思いもしないで喜び合う3人がいた
 
第10話

玲香と美鈴の両親

2022年5月1日 午前11時過ぎ
俺は今 九州 熊本空港に降り立った
美鈴 玲香 お腹にいる子供と4人一緒だ
今から 彼女達の両親に婚約と子供が授かった報告をする為に訪れたのだ
熊本空港からタクシーに乗り1時間程で彼女達の実家に着いた
 ピンポーン
と玲香は実家のチャイムを押すと
はーい
と母親の返事で玄関が開いた
ただいまぁ
と玲香は久しぶりの母親の顔を見て微笑んでいる
おかえりなさい
母親も笑顔だ
俺はお久しぶりです
と深々と頭を下げる
けんちゃんも5歳の時以来だね
立派な大人になって 
おばちゃん 嬉しいわ
と微笑んでくれた
さぁ 遠慮なく上がって
お父さんも首を長くして待ってるのよ
俺達は奧へと案内された
奥の居間には彼女のお父さんが待っていた
お父さん ただいま
と玲香言うと
おかえり 
子供は元気なのかぁ?
俺は呆気にとられていた
もう既に子供を授かっている事を知っている
てっきり 結婚もしてないのに妊娠させた
俺を罵倒するものだと思っていたのだ
うん 順調に育ってるわよ
と言うと
お義父さんは
健一君  玲香と子供の事 よろしく頼む
と頭を下げた
俺はお義父さんの前まで歩み寄り
命をかけて幸せにします
と土下座をした
玲香と母親は笑いながら俺とお父さんを見ている
もう挨拶は良いでしょ
さあ 大した物では無いですが昼食にしましょ
とお義母さんは言うと次々と食事を運んで来る
楽しい時間を過ごした
夜になると晩御飯に これ以上無いと思える程のご馳走が並んでいる
寿司に馬刺しに郷土料理のオンパレードだ
健一は俺の息子になるやなぁ 孫の顔 早く見せてくれよ
お義父さんはかなり酔っていた
よほど 娘の結婚が嬉しいのか
孫が出来る事が嬉しいのか
真っ赤な顔は幸せに満ちた蔓延の笑顔だった
やがて お義父さんは眠ってしまった
こんな幸せな顔なんて私との結婚式以来見たこと無いわ
と言いお義母さんは笑っていた
先に玲香お風に入ってね
と言うと
けんちゃん お話しがあるの
とお義母さんは耳元で囁いた
玲香がお風呂に入った事を見届けると
まだ 玲香は美鈴になる事あるの❓
と尋ねる
俺は正直に
はい
と答えた
そうなの 美鈴の死んだのが余程ショック見たいで玲香は美鈴のふりをするようになったの
お医者さんにも見て貰って多重人格障害と診断されたのよ
それでも玲香と結婚して頂けるの❓
と問われた
はい 俺は玲香も美鈴も愛しています
と答えた
お義母さんは涙を流しながら俺の手を握り何度も頭を下げた
彼女達の親は玲香は病気で美鈴のふりをしていると思っているのだ
俺は
玲香が美鈴のふりをしてる時は美鈴と思って接しあげて欲しい
と頼んだ
お義母さんは泣きながら頷いた
翌日 俺達は子供の安定期に入る6月中旬に結婚式を挙げる事を両親に伝え神戸に帰った

最終話

花嫁と死神

家に帰ると予算と戦いながら結婚式場の手配や来客者のリスト  引き出物などで喧嘩をしながらも楽しく決めて行った
結婚式
6月23日 木曜日 大安
時間 13:00
場所 神戸キリスト教会
披露宴会場 神戸プリンセスホテル
出席者 38名
引き出物 ブライダルギフト10800円
で決定した
5月下旬に案内状を出した
6月に入り今日は衣装合わせの日だ
玲香も美鈴も朝からソワソワして落ち着かない様子だ
結婚衣装のレンタル店に入った俺達は凄い数のウエディングドレスに驚いた
俺はグレーの燕尾服と白のスラックスとグレーの革靴で決まった
問題はウエディングドレスだ
美鈴は肩から胸上まで開いたウエディングドレスが良いと言う
玲香はシンプルでも白い薔薇の花があしらわれたウエディングドレスが良いと言う
お互い一歩も引かない
俺は未来の旦那として一喝した
ウエディングドレスは玲香が決めたもの
お色直しのドレスは美鈴が決めたもの
それで良いな
健一 カッコいい
と美鈴
健一君 男らしい
と玲香
俺に惚れ直したように見つめている
その視線に俺は照れ笑いをした
結婚式の一週間前の夜
健一 
健一君
と俺を手招きする彼女
お腹触ってと言う
俺は言われるままにお腹に手を当てた
すると
トン トン
と手に当たる感触がする
ねぇ 赤ちゃんが蹴ってるでしょ
玲香が微笑む
元気 いっぱいだよ
美鈴が微笑む
うん うん
と頷きながら俺だけが感動の涙を流していた
結婚式の3日前
美鈴と玲香はエステに午前中に予約を入れていた
健一 帰って来たら惚れ直すよ
と美鈴
健一君行ってきますね
と玲香は言ってタクシーに乗って行った
俺は有給をもらい披露宴の最終打ち合わせをしに電車でホテルに向かった
もう2駅でホテルのある駅に着く時
携帯のバイブレーションが震えた
電話のようだ
見たことない電話番号だが下三桁110になっている
丁度 駅に着いた
電車を降り電話に出る
白岩さんの携帯ですか?
はい そうです
と返事をした
神戸市警の田村と言います
先ほど吉永さんが乗ってらしたタクシーに大型トラックが衝突し 今 神戸市協和病院に救急搬送されました
直ぐに病院に来て頂けますか
俺は直ぐに駅を出てタクシーを拾い病院に急ぎ向かった
病院までの30分が何時間にも感じられた
どうか 無事でいてくれ
と俺は祈る様に手を合わし続けた
ようやく病院に着いた
吉永 玲香の病室は何処‼️
受け付けの看護士に聞く
先ほど救急搬送された女性の方ですね
ご案内します
と言うと病室では無い部屋に案内された
俺はドアノブを回し部屋に入った
その部屋は何も無く小さな祭壇が置かれ
祭壇の上には左右に一輪挿しの菊の花が飾られていた
その下段には机上香炉に線香が立てられている
その前に縦長の台に白いシーツがかけられている
その上に人らしき物が載せられ白いシーツがまた上から掛けられていた
室内には線香の煙が漂っている
俺は恐る恐る人らしき物に近づいた
俺は静かにシーツをめくっていく
そこには眠る様に安らかな美鈴と玲香の顔があった
美鈴 何寝てるの
玲香 起きてよ
俺は冷たくなった顔を撫でた
5歳の時 幼い俺は美鈴の死を受け入れる事が出来なかった
もう俺は大人だ
死とは何か理解しているはずだった
しかし俺は
早く起きてよ
何 寝てるの
美鈴 起きてよ
玲香 起きてよ
何度も何度も繰り返し呟いている
美鈴‼️
玲香‼️
大声で叫びその場に崩れ落ちた
俺は突然 愛する玲香と美鈴そして愛の結晶の子供まで失ったのだ
今日の朝
健一帰ったら惚れ直すよ
美鈴の声
健一君行って来ますね
玲香の声が頭の中で何度も何度も走馬灯のように永遠に周り続けていた
やがてその声が徐々に小さくなり聞こえ無くなった時
自分の中から魂が抜けて行くのを感じた
俺は廃人になった
俺は彼女の通夜も葬式にも顔を出す事は無かった
死因は首の骨折と全身打撲
右手首は折れ皮一枚で繋がっていただけの即死だった
幸せいっぱいだった家に今一人でいる
その頃 父親はこのままでは死んでしまうと察して精神病院に入院をさせる手配をしていた
食べる事も無く
水も飲む事も無く
ただ膝を抱え座っているだけの人形だ
衰弱して行く俺に
美鈴と玲香と子供が健一を探しているよ
と遠くから声が聞こえる
俺はその声に導かれる様に裸足で夜の街を彷徨い歩いた
カン カン カン カン
と電車の踏み切りの音がする
俺はその音に誘われる様に踏み切りに近づく
遮断機を潜ろうとしている
ファーン ファーンファーンと汽笛がなり
キィーーーーーーーーーーとブレーキの音が響いている
灯をつけた列車が目の前に迫って来る
俺は静かに目を閉じた
その時
死んじゃダメ‼️
と誰かが俺の腕を引っ張った
電車は俺の前を通り過ぎて行く
俺の腕に女子中学生がしがみついていた
俺は女子中学生の顔を見た
額には5cm程の傷跡がある
しがみついた右手首には大きな傷跡があった

                                                                               完 














































































































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