1 / 6
Prologue
しおりを挟む穏やかな冬の午後。私は最愛の息子エーミルと一緒に、クリスマスツリーの飾り付けをしていた。
クリスマスまではあとひと月ほど。伝統的にはもっと直前に飾るのが正しいけれど、部屋が華やぐし、息子も喜ぶので毎年早めに出してしまう。
そして、この時期。親には忘れてはならない大事な任務がある。
「エーミル、今年はサンタさんに何をお願いするの?」
四歳になったばかりのエーミルは、箱に詰まったオーナメントを真剣に吟味している。色とりどりの丸飾り、天使の人形など、小さな手に取ってはツリーの前にかざして。彼なりにこだわって配置を決めているようだ。
そんな愛らしい横顔を眺めながら、私は質問を投げた。何の気なしに、この季節どこの家庭でも聞かれる、ありふれた問いを。
エーミルはくるりと首を回し、母の顔を見つめた。金色の睫毛に縁取られた薄青の瞳は、聖なるオーナメントのひとつかのように輝いている。
次の瞬間、彼の口からこぼれた純真無垢な願いに、しかし私は目を見張った。
「あのね、僕、弟か妹が欲しいの」
――それは……、サンタさんには難しいお願いだわ。
しばらくの間、私は息子を見つめ返したまま、固まった。脳内で急ぎ正解となる返事を探して――即ち混乱していたとも言える。
……弟か妹。クリスマスまではあとひと月。当然ながら、お店で買えるようなものではなく。つまり、どうすればいいのかしら? ええと……そう、いずれにせよ、今年はどうやっても難しいから……
母からなんの返答も得られないので、エーミルは小首をかしげた。眉尻は不安げに下がっている。
未だ「正解」には辿り着けていなかったけれど、私は慌てて口を開いた。
「あのね、エーミル。弟か妹って、お母さんのお腹の中で大きくなって、産まれるまで一年くらいかかるのよ。だからサンタさんがプレゼントしてくれたとしても、今年のクリスマスには間に合わないの」
「そうなんだ」
あっさり頷いた息子に、私はやや安堵する。じゃあ別のものにするねと、そんな続きを期待して。だけど。
「それなら僕、待つよ。お母さまのお腹の中に、サンタさんが赤ちゃんを届けてくれて、それから生まれるまで、いい子で待ってる!」
「……そう。わかったわ。じゃあ、お母さまからサンタさんにお願いしておくわね……」
ぱっと花開いたような笑顔を前に、「無理」とは言えなかった。そもそも私には、エーミルの願いを断るなんてできない。
明るく心優しく、もっと我が儘を言ってくれてもいいのにと思うほど、聞き分けのよい子なのだ。
結婚というものに一切期待をしていなかった私にとって、突然空から降ってきた天使のような。それこそ、この子は神様からの、季節外れのクリスマスプレゼントかもしれないと思う。
エーミルは、愛のない結婚をした夫との、ただ一度きりの夜にできた子だった。
11
あなたにおすすめの小説
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
裏切りの街 ~すれ違う心~
緑谷めい
恋愛
エマは裏切られた。付き合って1年になる恋人リュカにだ。ある日、リュカとのデート中、街の裏通りに突然一人置き去りにされたエマ。リュカはエマを囮にした。彼は騎士としての手柄欲しさにエマを利用したのだ。※ 全5話完結予定
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
望まない相手と一緒にいたくありませんので
毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。
一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。
私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる