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第一章:神聖リディシア王国襲撃編

剣竜と時竜 ②

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『な、何をする!? ラーズ!!』

光の輪でぐるぐる巻きにされた神使徒あいつがエビのように跳ねながら叫ぶ。なんかあの姿を見ると怖くないなと思ってしまう。

「黙りなさい、アグラ」

冷たい視線を神使徒に向けたまま、ミリアーナが告げる。

「それに、私はラーズじゃなくて今はミリアーナよ。数十年前に転生してクレリック家の赤ん坊として生まれたから新しい人生を歩むことにしたの。だから、二度とラーズとは呼ばないで」

『フッ、フハハハハ!! 【六神竜セクス・アング】の中で飛び抜けて人間嫌いである貴様が、人間として生きると言うとはな!いやぁ、どういう風の吹き回しだ?』

縛られているにもかかわらず、神使徒《あいつ》は笑った。その笑いは他人に不快を与える嘲笑と同等の笑い声。

「まぁ、色々あって人間として生きてくのも悪くないって思ったのよ。てか、あなたに教える義理はないでしょ」

縛られて床に横たわる神使徒あいつを見下ろして、ミリアーナは表情を変えずにそう答える。

『ほぅ。では、力づくで聞くとしよう』

神使徒あいつはそう告げる。そして同時に、縛り付けていた光の輪が破裂した。バリィンっと耳をつんざくような音がなり、続けて風を切る音がした。その音の鳴り所は神使徒あいつの方からだ。

「あらあら。女性相手に力づくだなんて、だからモテないのよ、あなたは」

ミリアーナはそう余裕に告げて、杖を振った。すると、神使徒あいつの動きが止まった。そして、ミリアーナは神使徒あいつの元へと歩み寄り、

「【ソヌムス】」

そう耳元に囁いた。どういう効果の魔法なのかは分からないが、恐らく決着が着いたのだろう。というのも、数分経っても神使徒あいつが動かないからだ。とりあえずこれでひと段落が着いたと安堵の溜息をつく。異世界1日目でなんてハードな展開なんだr・・・

『【獄千槍インフェ・ハータ】』

俺達が警戒を解いた瞬間、神使徒あいつの声がした。

「【聖域サンクトリム】!!」

続けて、ミリアーナの声がした。そして俺達を包むように光の障壁(?)が現れ、黒炎の細長い槍だろうか?それが弾かれる。

『ふん。癒神ユリアの聖癒魔法せいいまほうか』

黒炎の細長い槍(?)を防がれた神使徒あいつがイライラしげにそう吐き捨てる。そして、今度は無数の黒炎球を生み出す。

『貴様の聖癒魔法と我の聖炎魔法・・・どちらが強いか、力比べといこうか?』

「ふぅん。昔みたいに泣かせてあげるわ」

その言葉を皮切りに、【六神竜セクス・アング】の二体、剣竜【アグラスド・ヴェイン】と、時竜【クロノ・ラーズ】の力比べが始まっ--

「双方、止まりなさい!!」

部屋の扉が突然開かれ、よく通る男性の大きな声が響きわたった。
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